第34章「フックの一撃」

📍町田市内・某スタジオ夜


湿った空気が漂う夜のスタジオ。

窓の外は霧雨。街の灯りが滲んでいる。


Silent Riotの三人は、それぞれに沈黙していた。


ことねはノートをめくる。

書き殴ったリリック。

でも、どこか、言葉が浮かばない。


芽依が無言でビートをループさせる。

トラックはできていた。

けれど――


「ことばが、前に進まない」

ことねが呟いた。


「昨日まで書けてたのに……今日は、なにも響かない」


重い空気を切ったのは、彩葉だった。


「じゃあ、私が撃つね」


「え?」


彩葉は笑った。その笑顔は、どこか鋭かった。


「ラップじゃないよ? 叫ぶんだよ。私がことねの言葉を、フックにしてさ」


ことねが目を見開く。


「彩葉……歌うの?」


「ずっと歌いたかった。でも、タイミングなかったでしょ? 今がそれ」


芽依が、彩葉に視線を向ける。

黙って、ビートを切り替えた。

彩葉のためのフック――激しくて、疾走感のあるリズム。


🎤 Silent Riot新曲:「撃ち抜け、コトバ」


ジャンル:オルタナティブ・ロック × ヒップホップ


構成:

 1.ことね Verse → 2.彩葉 Hook(サビ)→ 3.ことね Verse 2 → 4.彩葉シャウト+コーラス → 5.アウトロ


🎧 ことね Verse:


『誰にも届かないままのコトバが

胸の底で腐ってく

でも ここにある ここにある

私は 私を失いたくない』


🎧 彩葉 Hook:


『ぶつけろ その声を

引きずる傷ごと 響かせろ

誰かに届く前に

自分を撃ち抜け!』


その声は鋭く、でも痛みを孕んでいた。

ことねが目を閉じて聴いた時――確かに、“音”が爆発していた。


演奏が終わったスタジオ。静寂。


「……すごかった」

ことねがぽつりと呟いた。


「ありがとう、彩葉。あんたの声に、引っ張られた。

……“止まってた言葉”が、また動き始めた気がする」


芽依がビートを止め、

「歌、いいね」とだけ言った。

無口な彼女にしては、それは最大の賞賛だった。


📍町田駅前・Silent Riotのライブ告知ポスター掲出中


それを見上げる影があった。


猫丸:「お。JK三人組、ついに声が外まで響いてきたな」

愛犬べす:「ワン!(べろべろ未遂)」

みのた:「あれ、今日ライブ?行こっか。よくわかんないけど、叫ぶの好きなんだよねー。おばちゃん」

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