第30章「合わせ鏡のセッション」
町田市民ホール地下――
ステージの照明が落ち、観客のざわめきが静寂に変わる。
ふたつの影が、ライトに照らされて向かい合った。
Silent Riot──姫咲ことね。
MIЯROR──水瀬レナ。
どちらも女子高生。
けれど、その眼差しには“覚悟”の違いがあった。
「今日のテーマは、“自分”だってさ」
そう運営スタッフが言ったとき、ことねの心は一瞬だけ揺れた。
(“自分”……私は、誰なんだろう)
でもすぐに、胸の中に書き留めたリリックを思い出す。
「私は“こえ”だ。ずっと沈んでた、でも鳴ってた音。今日は、それをぶつける」
先攻:MIЯROR(MC:水瀬レナ)
🎙️レナのVerse:
『鏡を覗けば 映るのは
弱さ?虚勢?それとも仮面?
ねぇ、あなたの“リアル”って どこにあるの?
ラップじゃなくて、“傷”で語ってみなよ』
会場がざわついた。
レナのラップは冷たい氷のようだった。
でも、鋭さの奥にあるのは、自分にも向けた“問い”。
DJ沙羅が放つトラックは無機質で、けれど痛いほどクリアだ。
後攻:Silent Riot(MC:ことね)
🎤ことねのVerse:
『笑われるくらいなら 黙ってた
怖がられるくらいなら 隠してた
でも ずっと ずっと鳴ってたの
心の中で 音が 叫んでた』
『鏡なんていらない 私はここにいる
ラップが私の声 自分を映すビート
傷も 痛みも 言葉に変えて
このマイクで 私は “わたし”になる』
ことねの声は震えていなかった。
目線はぶれず、足も止まらず。
ビートの上を“ことば”が走った。
会場の空気が変わる。
「……やば、刺さったわ」
「なんか、“自分”を認められた感じ……」
「あの子、変わったよね。動いてるもん、声じゃなくて音で」
🌃終演後
ことねは控室の外に出て、夜風を吸い込んだ。
「……疲れた」
「お疲れ~」
彩葉が笑って寄ってきて、芽依がペットボトルを差し出す。
「最高だったよ。あれ、“自己紹介”って感じだった」
ことねは、ふっと笑う。
「……“自分”って、まだよくわかんないけど。
でも、あれが“わたしの音”なら――もう少し、信じてみたいかも」
📍町田駅前・ベンチにて
猫丸がコーヒーを飲んでいる。
その隣で、愛犬べすがことねたちを見て尻尾を振る。
「……やっと、音になったな。ことばが」
隣でみのたが言う。
「青春っていいよねぇ。でも若すぎてわかんないよ~」
「お前は年齢不詳すぎんだよ」
🎤Silent Riot vs MIЯRORのセッション、完結。
ことねは、初めて「自分をラップした」。
これはただの“勝敗”じゃない。
彼女が音で、自分と向き合った日。
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