第28章「孤独とバースデイ」

「……おめでとう、ことね」


その朝、教室でそう言ったのは、彩葉だった。

ことねは一瞬きょとんとした顔で、手元のペンを止めた。


「……え? なんで知ってるの」


「ふふーん、幼馴染ナメないでほしいねぇ~」

彩葉はドヤ顔でプリン入りのカップケーキを机に置いた。


4月の終わり。

ことねの誕生日。

それは、毎年ひとりで過ごしていた“いつもの日”だった。


でも今年は違う。


芽依が現れて、紙袋をことねに押しつけた。

「……べつに、たいしたもんじゃないから」


中身は、ことねをイメージしたという“紫”のヘッドホン。

ロゴには、さりげなく「SR」の刺繍。


ことねは言葉が出せず、小さく頷いた。


彩葉:「さぁ! Silent Riot会議しましょ! 今日の議題はもちろん……」


ことね:「……“孤独とバースデイ”?」


彩葉:「そう! 今日という日を“孤独じゃない”日に変えるの!」


📍その夜・彩葉の家


3人は宅飲みならぬ“宅音会”。


芽依が即席トラックを流し、

ことねがバースデイリリックを書き始める。

彩葉がギターを持ち出し、即席コードを弾き始める。


🎧新曲:「孤独とバースデイ」

ジャンル:Lo-fi × Chill Groove

テーマ:「祝われるのが怖かった、でも嬉しかった」

ラップ&スピークン・ワードの中間のような温度感


🎤ことねのVerse(一部):


『祝われるって、照れる

 笑われそうで、黙った

 だけど今日は、逃げない』


『「おめでとう」って言葉が

 胸に刺さって、暖かくて

 怖いくらいに 嬉しかった』


『これが “孤独” の終わりなら

 誕生日も 悪くない』


静かな夜。

カラオケじゃない、ライブじゃない、

ただの3人だけの“宅セッション”。


でも、ことねの中では

確かに“何か”が変わっていた。



📍同時間、町田市旭町の駿河屋前

郷原ゆい(『モケ女』)が金メッキパーツを買いに来て、猫丸と出会う。


ゆい:「あれ……あんた、また町田うろついてんの?」


猫丸:「ああ、今日は特別な“誕生日”の日らしいからな。

言葉を得た子は、その日を新しい音で祝ったんだ」


ゆい:「……なんの話よ」


猫丸:「聞こえなかったか? 静かな祝福のビートが、町を震わせたのを」


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