第23章「わたしの声、わたしの場所」

休日、町田駅近くのスタジオは昼からにぎわっていた。

けれどことねは、ひとりで別の場所にいた。


📍駿河屋・町田旭町店。

その模型売り場の奥、POPの横に――手作りの小さなステージがあった。


今日ここで、**“Silent Market Jam”**というインディ音楽&模型展示イベントが開かれている。

彩葉と芽依は別イベントに顔を出しており、ことねだけがソロで立つことに。


「一人で歌うなんて……できるかな」


リリックノートを手に、ことねは胸を押さえた。


「……あら?」


ことねの背後から、声がかかった。

振り向くと、ロングヘアにサングラス、CANCANギャル風のお姉さんがいた。


「今日、出るの? 音楽のほうで?」


「……はい。ラップ、なんですけど……」


「あたしは展示の方で出てるの。こっち」


そう言って差し出された名札には、**“東雲りな”**と書かれていた。


「……ガンプラですか?」


「うん。こっちは模型で“魂”乗っけてるから、あんたは音で乗っけてきな」

そう笑った東雲の背後には、金髪ロリータ服の少女――鮎原やよいがいた。


「りな、そっちの子、音の気配するよ。なにこのクロスオーバー感」


「どっちが本編かわかんなくなるね~」


「あ、あの……」ことねが慌てて言った。


「が、頑張ります……!」


東雲はにっこりと、親指を立てた。


📍ことね、ステージ開始


🎤ソロ楽曲「my micro mic」(初披露)


ジャンル:ピアノ×アコースティックギター × Lo-Fiヒップホップ

テーマ:「自分の声の居場所」


『逃げ場所にしてた このノート

 誰にも見せない 落書きのまま』


『だけど わたしの痛みも弱さも

 ここにしか 置けなかった』


『my micro mic ちっぽけでもいい

 この声で “わたし”って名乗るから』


『歌じゃなくて 呟きでもいい

 でもこれは わたしの居場所なんだ』


→ 曲終わり、無言の拍手

→ 東雲とやよいも小さく手を叩いている


📍終演後・展示ブース前


「すごいじゃん、あなたの声。小さいけど、芯がある」

柊木まことが、ガンプラ展示台の前から声をかけた。


「あ……ありがとうございます」ことねはお辞儀。


「わたしも、音楽はやらないけど……ちょっとだけ、気持ちわかるかも」

そう言って、柊木はスマホでSilent Riotの曲を再生しながら、

「この歌詞、好き。『逃げたい夜が、また来ても』ってやつ」


ことねの顔が、ゆっくり赤くなる。


📍ラスト:サイゼリア夜の会話(Silent Riot再合流)


「ひとりでやったの!?マジで!?」

「えぐ……芽依、ことね一気にレベル上がってるよ」


「……ううん、やっと“わたしの声”を出せた気がする」


芽依がそっと言った。


「じゃあ次は“わたしたち”の声、出そう」

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