第22章「ソロじゃないリリック」
「このリリック、合わせてみよう」
芽依が提案したのは、金曜の放課後だった。
スタジオの空気は少し重く、それぞれが自分の“言葉”を差し出すことに、
ほんの少しだけ躊躇していた。
でも、誰も止めようとはしなかった。
ことねも彩葉も、胸にしまったメモ帳を、机の上に置いた。
🎧ビート:芽依作成「ソリッド・ミラー」
ジャンル:ピアノの単音ループが印象的な、BPM84のミディアム・バウンス。
少し不安定で、でも確かに前に進むような感覚。
🎤ことね Verse 1:
『誰かの言葉に 怯えてた
わたしの声は 届かないって』
『だけど今は 耳じゃなく
胸に届く歌を 探してる』
『逃げた日々さえ リリックになる
わたしの過去に 拍を打ってく』
🎤彩葉 Verse 2:
『明るいだけじゃ 続かない
“陽キャ”の仮面は 重かった』
『でもあんたが 手を伸ばすなら
わたしも本音を 歌ってみる』
『声じゃなくて 笑顔のコード
Silent Riotって、そういう音』
🎤芽依 Solo(ノーリリック/スクラッチ+ボイスサンプル)
→ スクラッチの中に、「大丈夫」「聞こえてるよ」「それでいい」の声素材が散りばめられる
→ 音だけで“支える”という芽依の答え
演奏が終わったあと、誰も何も言わなかった。
けど――静かな拍手が、視聴覚室の隅から聞こえた。
「……え?」
そこにいたのは、Raw Prayersの咲良レイだった。
彼女は、少し照れたように頷いた。
「通りかかったら音が聴こえてさ……。悪い?勝手に聴いちゃって」
「……ううん、逆にちょっと嬉しいかも」ことねが笑う。
「へぇ……。あんたたち、ちゃんと“混ざってる”んだね。リリック」
「え?」彩葉が聞き返すと、レイは言った。
「ソロじゃないリリック。……あたし、まだ書けてないや」
そのまま、彼女は静かに去っていった。
📍帰り道、町田市総合高校前のサイゼリヤの前
芽依がぼそっと言う。
「……次の曲、もっと複雑なの、作っていい?」
「やっちゃえ」彩葉が即答。
「複雑でも、混ざってれば音になる」
ことねの声が、風に揺れる。
別カットで、一ノ瀬響がヘッドホンでSilent Riotの新曲を聴いている。
彼女は立ち止まり、うっすら目を閉じる。
「……言葉が、揺れてる。
このリリック……誰かの心に、響いてる」
彼女の震感が、微かに反応した。
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