第19章「声にならない声たち」

Backyard Beat 予選・Bブロック

町田ライブハウス “Blue Echo”――再び、そのステージが火を灯す。


夜。観客は前回よりも多く、200人以上がステージを見つめていた。

だが、今日は静かだった。

なぜなら、最初の登場ユニットがRaw Prayersだったから。


🎤咲良レイ Verse(新曲「孤独の温度」)


『わたしの声は 声じゃない

 誰にも聞かれなくて いいやつ』


『ただ この胸の中の毒を

 ひとしずく 音にしてるだけ』


『ラップってなに? 音楽ってなに?

 そう聞かれても 答えはない』


『けど この温度だけは 本物だった

 それだけは 誰にも奪わせない』


→ 静かだが、痛烈だった。

→ 観客の誰もが、何かを言えなかった。


ステージ袖に立つことねの拳が、ぎゅっと握られた。


「……こんなラップ、知らない……」


「でも、ことねはことねのラップがある」

彩葉がすぐ横で支えるように言う。


芽依がヘッドフォンを肩にかけ、静かに頷いた。


「……わたしは、届けたい」

ことねは、ひとつ息を吐き、ステージに足を踏み出す。


🎧Silent Riot 新曲「Runlight」


ジャンル:和メロ×ブームバップビート


🎤ことね Verse


『見えないから 探してた

 わからないから 言葉にした』


『暗闇ばかりを見てたから

 やっと光の方へ 顔を上げた』


『逃げたい夜も あったけど

 誰かの声が 背中を押した』


『だから今 わたしが歌う

 誰かの 夜を 照らすため』


→ コーラス:彩葉の「Run… light…」が包み込むように重なり

→ 芽依のトラックが感情を拾って、刻む


Raw Prayersの咲良レイは無言で立っていた。

その背に、ことねがそっと声をかける。


「……あなたの言葉、刺さった。だけど、痛かった」


レイは一瞬、振り返る。


「そっちのは、痛くなかった。……けど、あったかかった」


「それって、悪いこと?」


「わかんない。でも……あたし、次は“伝えたい”って思ったかも」


――その言葉が、ことねの胸に深く残った。

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