第18章「交差点のラップ、孤独の行進」
「さっきの子……またいた」
ことねは、町田駅の北口を出てすぐの広場で、
前にも見かけたあの少女の姿を見つけた。
フードを被り、大きなヘッドホンを肩にかけて、
ひとり、地面を睨むように立っていた。
その姿に、ことねは何かが“引っかかって”いた。
「……あの子、ただのリスナーじゃない。
たぶん、あれ――ラップしてる」
少女の名前は咲良レイ。
町田南側の裏ストリートで活動する、女子2人組ユニット**Raw Prayers(ロウ・プレイヤーズ)**のMC。
パートナーはDJ・鳴海ほのか。
音数の少ないLo-Fi系トラックに、咲良レイの吐き捨てるようなリリックが乗る。
彼女たちはSNSには一切楽曲を出していない。
ライブもアングラ箱のみ、客層も“ガチ勢”ばかり。
「わたしたち、バズるためにやってないの。
自分のために吐いてるだけ。……そういうの、嫌い?」
そんなスタンスのユニットが、次のBackyard Beat予選で、Silent Riotと初対決することになるのだった――。
🎧夕暮れのカフェ“glowin’ beanz”
「次、予選B組って、対戦相手決まったらしいよ」
芽依がスマホを覗きながら言った。
「Raw Prayers……って聞いたことないんだけど」彩葉が首を傾げる。
「……わたし、見た」ことねが静かに言った。
「町田駅前で……たぶん、あの子。音、背負ってた」
「どんな子?」と彩葉。
「……声が、孤独だった。
でもその孤独を、飼い慣らしてた感じ」
「うわ、それやばいやつじゃん……」芽依が笑いながらも緊張を隠せない。
🎤Raw Prayers – 咲良レイ ラップ(夜の空き地セッション)
『言葉なんて 届かない
そもそも誰も 信じてない』
『わたしの声は 武器じゃない
ただの 毒針 吐くたび軽くなる』
『ラップなんて うるさいだけ
それでも残る この“痛みだけ”』
『バズらなくていい 褒められなくていい
見てなくていい 黙って聴いてりゃ いい』
その夜――
町田総合高校の帰り道、ことねはぽつりとつぶやいた。
「……わたしも、ああなってたかもしれない」
その言葉に、横を歩く彩葉は一瞬止まりかける。
「ことねは、ラップで誰かに届けたかった。
でも、レイちゃんはきっと、誰もいらないんだよね」
「……だから、ぶつかってみたい。
それで、わたしがどこまで響くか、試したい」
根津猫丸が、ベンチに腰かけながらタバコをふかしていた。
その横を、Silent Riotの3人が通り過ぎようとする。
「やあ、音の人たち。今日もビート鳴ってる?」
ことねが振り返り、ちょっと笑って言った。
「……うん、鳴ってる。でも、ちょっと怖い」
「怖いなら……音に頼ればいいさ。
音ってのは、“怖さの代弁者”でもあるからな」
そして、猫丸はそっと言った。
「音の交差点で、君たちは誰とすれ違う? そして、何を失い、何を得るんだろうねぇ」
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