砂漠の異世界に迷い込んだサイバーパンク女装傭兵は妖艶に嗤う
江土木浪漫
第1話:砂漠横断ゴブリン鉄道
一面砂しかない死の大地、砂漠を二つに切り裂くように敷かれたレール。その上を砂埃をあげる蒸気機関車。ゴブリン鉄道が誇る街の生命線『幌馬車』が黒い煙を巻き上げ走る。
複数の貨車、後部に二台客車を引っ張っていた。
砂漠の街の生命線、海の街から運び出された水と塩を運ぶ蒸気機関車。
その後ろ姿を追う、迫りくる爆風のようにも見える舞い上がった砂。
砂の中に潜りしはたなびくポンチョ。ドワーフの統領が率いる盗賊団『ラグナ一味』の集団が列車を追う。
六本足の馬一頭と砂色の鱗をしたの四足歩行のドラゴンが三頭。ドラゴンは銀色に輝くバリスタと盗賊団の男たちを積んだ荷馬車を引いており、ガラの悪い男たちが客車の屋根に狙いをつけてバリスタで狙いを定めていた。
「いいかぁ! サボテン畑前に行くまでに済ませるぞ!!」
六本足の馬に乗った、鍔の長い帽子をかぶった男。ラグナが大声で確認を取る。
地平線の彼方に引かれる緑色の線、あそこが今回のタイムリミット。仕事の開始を告げるように、ラグナの号令が鳴り響く。
「撃て!!」
「ってぇー!!」
それと同時にラグナの号令により、バリスタから鉄の矢が放たれる。
鎖がじゃらじゃらと音楽を鳴らし、鉄矢が放物線を描き貨車の屋根へと飛来する。
ガキンッ、という金属音が鳴りドラゴンが馬車から解き放たれる。
放たれた鉄の矢のうち二本が屋根に突き刺さる。じゃらじゃらと音を鳴らし、引きずり出される鎖。
騎手が馬車との連結を切り、部下達が馬車から錨を降ろす。
ガキンッ、と金属音が鳴った。鉄の槍に繋いでいた鎖が出切ったのだ。
馬車は勢いよく引きずられ、砂に線を描く。
獰猛な鉄の馬に引きずられる馬車。彼らを引いていたドラゴン達は怪我をしないよう離された。コントロールが効かず、あっちこっちへと振り回される。
「錨を降ろせ!!」
ラグナの再度の号令。荷馬車という船から砂の海に、重い鉄製の錨が落とされる。重い鉄は砂の海に沈み、機関車の足を引っ張り速度を緩める。
「よーし、よしよし。これでいい」
ラグナがスカーフの下で獰猛な笑みを浮かべた。
機関車の馬力はけた違い、たかが錨を降ろした馬車程度では到底止めることはできない。
だが止まらないだけだ。重量・ブレーキという障害が、機関車の動きを阻害する。
機関車の勢いが弱まり、速度が落ちる。
スカーフをずらし、大声で叫んだ。
「わかっているか馬鹿共、車内で銃は使うな! 水と塩は狙うな!! その小さい脳みそにこの二つをしっかりと刻み込んだ馬鹿から乗り込め!!」
砂漠という街において水は、野菜や果物という水分補給の代替品こそあるもそれでも尚必需品である。そして常に暑い光がじわじわと水と一緒に奪う塩分、それを補うための塩もまた生命線だ。
もし運搬している水のタンクに傷をつけ、数十リットルも無駄にしたら? 塩の貯蔵個に穴をあけて砂漠にぶちまけたりしたら?
そうなったが最後一族郎党、親戚までが縛り首となってしまう。水の意図せぬ破棄は、それほどまでに重罪なのだ。
「応っ!!」
それを理解したのかしていないのかは不明だが、ラグナの号令により部下たちはぴんと張った鎖の上を、曲芸めいた足取りで器用に伝っていく。
既に馬で追いつける程度の速度に落ちたとはいえ、進んでいない訳ではない。タイムリミットはサボテン畑まで。そこを超えたら最後、警備隊に現行犯で捕まりかねない。故にそれまでに
だが現状、ラグナの想定通りに事が運んでいる。このままいけば後は積み荷の宝石を盗み取るだけ。
とはいえ油断はしない。懸念点を常に考え、感じ取れるよう備えるのがプロの列車強盗のあり方というもの。
「……あん?」
だからこそ、取るに足らない筈の懸念材料も目ざとく見つけてしまう。
双眼鏡を覗き込んでいたラグナが、疑問の声を出す。
「んだ、ありゃあ……?」
ラグナは双眼鏡で客車の屋根を覗いた先には、奇妙な人間が屋根の上に座っていた。
この大陸には存在しない、花魁のような派手な花柄の着物とポニーテールを風ではためかせた、子供のように見える小柄な人物。手には、やけにサイケデリックな原色で彩られた鞘に収められた刀。
噂でしか聞かない侍、にしては服装が歌舞伎すぎているし、何より鞘の色があきらかに異常だ。太陽の光を浴びてギラギラと七色に輝いている。
「どうしやした親方!?」
「いや、なんでもねえ……」
部下の問いに、ラグナは被りを振って気持ちを切り替える。
奇妙な服装をした人間が列車の屋根に上っている。異常と言えば異常だが、護衛がいることくらいは想定の範囲内。恰好こそ見たことも無い不気味なものであるが、ただ見た目がおかしいだけであれば計画を変更するまでの判断はできない。
「総員抜刀! ぶち殺して奪え!!」
故に少し引っかかりを覚えつつも、武器を抜くよう号令をかける。
ラグナの号令に、沸き立つ部下達。我先にと鎖に足をかけ、曲芸めいて客車まで登り上げる。
客車の屋根に上っている謎の人物は、鞘から刀を抜いた。太陽の光を浴びて、刃が銀色に輝く。
「たった一人で、何しようってのか知らねぇが」
あと数十歩も渡れば、ラグナの部下達が列車に乗り込む。
鉄の矢か鎖を斬り落とそうにも、龍も噛み千切れぬ強化合金で出来た特別製。そう斬れるものではない。
そして、仮に乗り込んでくる連中を全て切り伏せるという自信が故の待機だったとしたら……死んでも仕方のない、とんでもない馬鹿だ。
たかが鉄を斬った程度で調子づいたか、それとも烏合程度全て切り伏せられると思っている馬鹿か。
どちらにせよ、一味のやることは変わらない。殺して奪うだけだ。
「とはいえ、念には念を」
ホルスターから拳銃を取り出し、照準を合わせる。
あれが全ての部下を切り伏せるとは到底思えないが、かといってそのまま放置しては、何人か犠牲が出るのは避けられない。
回避できる手段があるのならば、無用な浪費は避けるべきだ。
それに烏合とはいえ多数を相手をするとなれば、完全視覚外であるラグナへは注意が向かない。死角からのピストルは対応できないだろう。
「蛮勇を持つからこうなるんだぜ」
子供のようにも見える者を撃ち抜くのに若干の抵抗はあるが、ラグナも仕事だ。そこは割り切る。
そしてラグナがトリガーを弾いた直後、いともたやすく斬り捨てられた鉄の鎖と、重力に従って落ちていく部下を目撃し目を丸くした。
「……なっ!? 龍を鱗に歯を立てるっつう鉄矢を!?」
ラグナの驚きと同時、放たれた弾丸は客車の屋根にいた人物へと吸い込まれていき……刀身を中心部分からへし折った。
宙を舞い砂に落ちる刀の切っ先と、垂れ堕ちる鎖から落下する部下達。驚愕に帽子を押さえ、ラグナは馬を止める。
あれは普通の剣や刀じゃ決して斬り落とせない、特注の代物だ。それこそ特別な鉄を使わなければ……。
「一体、ありゃあ……」
部下達の怪我はない。精々が落下が原因の打ち身程度、心配するほどではない。
本来ならば決して斬り捨てることなぞできない鉄矢を斬り落とした人物を乗せた列車は、鎖と言う重しから解き放たれ本来の速度を出す。
もはや今から追いつくこともできない。ラグナとその部下達はただ茫然と、客車を見送った。
◆
ゴブリン鉄道を走る幌馬車の客室、花魁のような煌びやかな着物を着た人物は、客室の壁にもたれかかりながら、折れた刀身を見つめてため息をついた。
「そろそろ寿命だとは思っていたけど、まさかピストルの弾程度で折れるとはねぇ」
無茶させすぎたなー、とぼやくその声は、一件女性のように見える外見とは程遠いくらい低い。誰がどう聞いても男の声だ。
彼の名は加藤空亡。現状ゴブリン鉄道に雇われている傭兵であり、そして、この世界に降り立った『迷い子』と呼ばれる存在……いわゆる、異世界転移者である。
真っ二つに折れ飛んだ刀身の断面にそっと触れる。まるで猫の舌のようにざらりとしている。
「そろそろ買い替えよっかなって時に、だもんなあ。元居た場所だと使い捨てだったし……まあ、刀身だけだからまだ大丈夫、かな? いうてこれ大量生産品だし、そこまで特別な素材使ってないでしょ。……少なくとも、刃の方は」
ため息を吐き、刀を座席の向かい側に置いた。
元の世界から持ち込んだこの刀はこの世界においては特別性だが、その特別さは刃ではなく柄の方にある。多少刃が壊れたところで、取り換えればいいだけの話だから問題ではない。
とはいえ思わぬ出費を生じさせられたのは事実。鉄の刃も決して安くはない。
「……修復能力でも授かってくれればありがたかったんだけどねえ」
窓の外を延々と流れる砂漠を眺めながら、空亡はため息を吐いた。
空亡はこの世界の住人ではない。ある時突如、この世界へと迷い込んでしまった異世界人である。
聞いた話では異世界から転移してきた、もしくは転生してきた人物は特別な能力を持つという……が、少なくとも空亡にそんなものは存在しない。
死地に赴く度胸も、相手の動きを見切る観察眼も、死が目の前に迫ろうと冷静に判断できる思考回路も、あらゆるものは自前のもの。元の世界にいた頃から持ち合わせ、研ぎ澄ませたものばかり。
強いて言えば肌に焼けない白い肌くらいなものだが、特別な能力と言うにはあまりにも弱い。
かといって知識の方はどうかというと、こちらの方も何か特別なものができるという訳ではない。
空亡の元いた世界は一次産業が全て工場で賄える程文明が進み、肉も野菜も巨大なビルで機械が栽培・出荷を進めることができるようになっている。今や自然や動物を利用した農業は金持ちの道楽となってしまったくらいの技術水準で育ったのだ。
当然、そんな世界で育った人間である彼がその世界で得た知識の中に、文明レベルが格段に劣るこの世界で役に立てるようなものは無い。持ち合わせているものは精々が殺しの技術程度くらいなものなので、こうして自由気ままな傭兵暮らしをしているのであった。
元の世界となんら変わらない生活。監視カメラもドローンも無いというのは空亡からすれば有難いものであったが、その代わり覚えなければならないものが山ほどある。諸々込みで考えれば元の世界での仕事とし辛さは変わらないのかもしれない。
空亡の耳に、こちらへと向かってくる足音が入る。壁にかけられているショートソードの近くに座り、いつでも手を伸ばせるように構えておく。
数回のノックの後、扉が開いた。
「ラグナ一味の撃退を確認、お疲れ様です」
こちらに迫る者の正体は、ゴブリン鉄道『幌馬車』の車掌であった。
彼からかけられた労いの声に、空亡は緊張を抜き、ショートソードを抜こうと構えていた手を誤魔化すように、車掌ゴブリンの言葉に振って返した。
子供程度の背丈、緑色の肌にぎょろりとした目と尖った耳が特徴的な亜人。通称耳長の小人族。この鉄道を取り仕切る種族、ファンタジー小説や漫画、ゲームなどではよく敵に位置させられているゴブリンだ。
ある程度ファンタジーもののアニメを見ている空亡からすれば、やはりゴブリンといえば雑魚キャラ、簡単に倒される魔物という印象が強い。
もっとも、そういった認識を口にした瞬間、この世界では差別主義者として糾弾されるので決して口にすることはないが。
「どもども。積み荷無事だった?」
「ええ。お陰様で、この幌馬車の被害は客車の屋根くらいなものです。それ以外には傷一つありませんでした」
「そりゃよかった」
空亡の言葉に、ゴブリンは笑顔で返す。
本来なら取られても問題ないようダミーの宝石を漁らせたところでトカゲの尻尾切りのように客車を離す想定をしていたのだが、空亡のお陰でそれらもせずに済んだ。被害の想定内とはいえ、客車もダミーの宝石も安くはない。それが護られたというのだから、笑顔もひとしおであろう。
「そっちの方に被害は言ってなかったみたいで」
「そっちの方……と申しますと」
車掌ゴブリンはふと、折れた刀を一瞥し、あらまと口に手を当てる。
「ああ……壊れてしまいましたか」
「予備の武器はある、依頼に支障は出さないから心配しないで」
折れた刀を腰に下げていた鞘に仕舞い、壁に立てかけていたショートソードの鞘を叩く。
刀が折れてしまったのはかなり手痛いのだが、それを表に出さない。ここで信用を失ってしまっては次の仕事に悪影響が出かねないし、何より護衛依頼の額を減らされるかもしれない。
武器の破損は傭兵の怠慢、メンテナンス不足。そういった理由で足元を見られ、無事にたどり着けたとしても報酬が減額される……なんて話は珍しくない。
事実、依頼継続に支障はないと示したところ、ゴブリンはあからさまに安心したように息を吐いた。こういったやり取りは、世界が変わっても変わらないものらしい。
「ええ、安心して仕事を最後まで任せられそうです。……まあ、この後強盗が襲撃に来る可能性は低いですが」
「低いって、どういうこと? まだ街までの距離は──」
「ラグナ一味……いえ、あらゆる強盗はサボテン畑前まで来ると踵を返して武器を仕舞い、襲わなくなるのですよ」
「そりゃまたなんで」
空亡の疑問に、車掌ゴブリンは「こちらの方の窓をご覧ください」と廊下に出るよう促す。
頭に疑問符を浮かべながら客室の外に出ると、廊下はどこか薄暗い。先ほどまで照らされていた日の光が、突如として現れた古木の壁にさえぎられていた。
こびりついた藻、フジツボのような貝類。砂の飛沫を上げ、古木の壁が砂を進む。
窓からその壁を見上げると、なだらかな曲線を描くその壁は、元の世界で見た豪華客船の船底を思わせた。
「……なにあれ、船? えっ、でもここ砂漠だよね!?」
「サボテン畑の一つ前の区域は、幽霊船の縄張りとなっておりまして」
「砂漠に幽霊船? 幽霊の海をさまよっているとでも言うのかい?」
「いえ、このあたり一帯は湖だったようですので、彷徨っているのは海ではなく湖ですね。……とはいっても、エルフが二代くらい代替わりするくらいも昔の話らしいですが」
からかい半分に言った言葉に、衝撃の事実で返すゴブリン。
まさか本当に幽霊の水辺を進んでいるとは……いよいよもって元の世界とは何もかも違う、とため息が漏れる。
それを迎撃しなければならないと取ったのか、ゴブリンはくすりと笑い言葉を紡いだ。
「基本こちらから手出しをしない限りは安全なのですが、あなたのような人が武器を所持しているのを見られたら……船に縛られた幽霊が襲ってくるとか」
ゴブリンの言葉に、ぞっと怖気が走る。
空亡にとって武器とは、一種の精神安定剤。これが無い状態で過ごすなぞ想像もできない。破損した刀をどうしようか悩んでいて、まだショートソードを装備していない状態でよかった、と心から安堵した。
窓から覗く幽霊船の様子を、隈の濃い顔を上げて観察する。
古びた船底には所々穴が開いており、フジツボや貝類が所狭しとへばりついている。
貝類も幽霊になったのか、と興味深く観察していると、すぐに壁は過ぎ去り太陽の光が差し戻った。
「あれも一種の観光名物なのかな?」
過ぎ去った幽霊船を思い出しながら、ふと呟く。
砂漠を走る幽霊船、一目見ようとかなり強みのある名物として客が着そうなものだ。
「まあ、現状そういう形となっておりますが……」
だが車掌ゴブリンは、空亡の言葉に頬をかきながら、トーンの落ちた声で答えた。
「現状、あれのせいで開拓が進んでいない状態でして……あれを名物として観光客を多少呼び込むことで多少利益は得られているのですが、それが街の発展に釣り合ってるかというと……ですね」
「そっか、開拓に使う道具も武器として見られるかもしれないとなったら中々進まないよねー」
「ええ、開拓者という者は荒くれ者が多いですからね。彼らに作業を任せようとすると、あの幽霊船が邪魔をしてくる訳です。それに単純な話、船の巡回ルートによって建築物が潰されるという懸念が」
車掌ゴブリンの言葉に、空亡は確かにと苦笑いで答える。
安心して夜を眠れず、安心して昼に寝床を置いておけない。それも押しつぶされるのが原因で、予兆も無く。すぐそばに安全に暮らせる土地があるというのに、そんな地区に住みたい者がいるとは思えないし、そんな場所で畜産や農産ができるとも思えない。
「ソル・ウィリデの人口は増えるばかりですが、それに比べて領地が圧倒的という程ではありませんが足りていません。広げた農場が破壊されると、それだけ飢える人が増えてしまう。全く、目の上のたん瘤にも程がありますよ」
なので我々鉄道輸送業は儲かっていますがね、とゴブリンは笑いながら言った。
とはいえ、儲かっているからとはいえそれが充実に繋がるとは言えない。金があったとしても休みが無ければ使えない。休みを得るためには領地を開拓しなければならないが、それには幽霊船が邪魔すぎる……と、どうも空亡が思っていた以上に、あの船は街の厄介者のようだ。
車掌ゴブリンはパンと手を叩いて、話題を切り替えるように口を開いた。
「到着まであと一日程度かかります。しばらくお眠りになられたらいかがですか?
オッドマン、この世界において空亡のような普通の人間はそう呼ばれている。
弓を扱え、鍛冶を行える力を持ち、美術的な装飾を作ることができる、それぞれの種族の特長を持った万能性──と言えればよかったのだが、その実はただの器用貧乏である。
エルフのように目が良くなく、ドワーフのような力もなく、ゴブリンのような手先の器用さもない。
どこの種族に交じっても数合わせの戦力になるが、どれだけ極めてもそれぞれの種族には敵わない中途半端で器用貧乏な種族……それが空亡含めた、
人によっては侮蔑の意味合いとなるが、空亡は特に気にした様子もなく頭を掻く。
「あはは、心配かけちゃってる? ごめんねー、どうも……慣れなくて。それに眠らないのは慣れてるから大丈夫だよー」
「ああ、それは……確かに、機関車というものは馬車に比べれば静かとはいえ、それなりに揺れますし、我々鉄道マンにとっては環境音のようなものですが、普段乗らない人からすれば騒音ですからね……失礼いたしました。では、御用がありましたらまたお声かけください。あなたは我々にとって重要な、護身の剣なのですから」
そう言ってゴブリンは、空亡の部屋を去った。
そういうことではないんだけどなー、と思いながらも口には出さず、窓をぼうっと眺める。
窓に流れていたサボテン畑の景色が徐々に遅くなっていく。機関車の勢いが弱まっていくのを感じ、やがて止まった。
外では様々な人が、リレー形式で木箱を次々と詰め込んでいた。あの箱の中身は、食用としてここで栽培されているサボテンだろう。
空亡は個室の隅に置いていた鞄から平たいパンを一斤と皮袋に詰まったジャムを取り出す。
ドワーフに交じったゴブリン達がサボテンの詰まったコンテナを運び込む様を眺めながら、パンで皮袋からデーツジャムを掬い取り、口の中に放り込んだ。
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