ヤンデレちゃんと病んでる君!

こふゆ

プロローグ

俺には愛がわからなかった。

好きという感情を理解できなかった。

ただそこにあることを理解しているだけであって、俺自身が発することも、ましてや受け取ることさえできない物だった。

そう、端的に言ってしまえば、俺は病んでいる。


「私と…付き合ってください!」


告白…それは、そんな自分にとって一番縁のないイベント。

何も、愛がわからないからそうなのではなく…クラスでもかっこいいキャラを演じているわけでもない、雑におちゃらけているだけの存在からみてすれば、それは当然のことであった。


「…」


少しの沈黙、カラスの鳴き声が夕暮れに染まった空に咲く。

それがどこまでも脳の奥に響き渡って、俺はその時に自分の脳みそが使い物にならないことを悟った。

…状況を整理しよう。

放課後に体育館裏まで呼び出されたと思えば、目の前にいるのはクラスで、いや学年で一番と言っても差し支えないであろうほどの美少女。


「だ、だめ…ですか?」


小さな身長を生かし、童顔から大きな瞳を覗かせる様は、はっきり言ってえぐいカワイイ…

涙目、可愛らしい声、たなびくロングの黒髪、そして何よりこの『青春』って感じの雰囲気が俺の思春期心を奮い立たせてくれる。

そして、一番の問題は。


そんな彼女が告白をしてきているということ!!!


それから、あくまで冷静に、丁寧に呼吸をして、頭に酸素を、体に血液を回す。

拳に力を込めて、少女の美麗な顔を見つめた。

早くなる鼓動とこわばる手を押さえ、口元が震えていることが悟られていないことを願いながら、息を漏らす。


「ごめん、付き合えない」


俺には、愛がわからない、伝わらない。

彼女の愛が俺に届くことはないのだ。

嫌悪はしていないし、せっかくの高校生活なのだから俺だって恋愛したい。

でも、俺は何もわからないんだよ。

わからないから…

ニコ、と精一杯の笑みを浮かべて正面を向いた時だった。


「ーッ?!」


…この感覚は、なんだ?

体の毛が逆立ち、冷や汗が垂れて、目の前の存在に身体中から危険信号が出ている。

目の前の『何か』に俺が、俺が。

彼女はゆっくりと表をあげ、張り付くような視線を向ける。

…なんで。


「…気づいていないようで、残念です」


嬉しそうに笑ってんだよ。

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