第5話 色々疑われて牢屋での生活が始まりました。
「いてててて……」
目が覚めた俺は、体中の節々に痛みを感じながら起き上がる。
『オハヨーアイボウ。キョウモソトハイイテンキダゾー』
剣が眠そうな様子で挨拶をしてくる。
「ああ。おはよう。……それで何か変わった事はあったか」
『イヤ、ナニモ。シイテイウナラ、ショウニンガヤッテキテ、アワテタヨウスデ、カエッテイッタクライダナ』
いやあるじゃん、変わった様子。心の中で剣にツッコミをいれながら石を手に取り、石壁に線を描く。
(今日で四日目か)
俺は今、村の地下にある牢屋の中にいた。
物見櫓で弓強盗の二人を倒した後、俺の体を借りてる剣は十メートルの高さを飛び降りる。
「よっ、と」
無事に着地し、剣を地面に突き刺す。どうやら盗賊との戦闘は終わったらしい。
「じゃあ、相棒に体を返すぞー」
気の抜けた声を聞いた瞬間、自分の体の感覚を取り返した気になった。
「すげぇ、体がだるい」
『ダロウナ。アイボウノタイリョクトマリョクヲ、ツカイキルツモリデタタカッタカラナ。イマノアイボウジャ、ニサンニチハマトモニウゴケナインジャナイカ』
剣は軽口を叩く感じで告げる。
『コレカラマオウヤマゾクトタタカッテイクンダ。コノテイドデウゴケナインジャ、サキハオモイヤラレルゾ』
剣の言葉に静かに頷く。この先、俺は魔王と戦っていくんだ。この程度で疲れたなんて言っていたら、どこかで倒れてしまうかもしれない。
(とりあえず筋トレから始めるか)
剣を支えに上体を起こそうとする。しかし、視線を感じ顔を上げると、鍬や草刈り鎌を構える村人の男性が化け物でも見るような形相でこちらに近付いてくる。
(あれ、やばくね)
『アア、ヤバイナ』
初めて剣と意見が一致する。逃げ出したいが、体が思う様に動かせない。絶体絶命の危機。どうするか悩んでいると村人の後ろから声が聞こえてくる。
「皆の者、静まりたまえ。この者は盗賊から我々を守ってくれた方。粗相があってはならぬ」
声の主である初老の男性は、村人と俺の間に立ち言い聞かせるように告げる。村人は初老の男性の言葉に対し、構えていた農具を静かに下ろした。
(助かった)
俺が安堵したのを束の間、今度は俺の方を見やりこう告げた。
「しかし、あなたはこの村の者にあらず。先程の盗賊の仲間かもしれぬ。なので、しばらくは村の牢に入ってもらい、処遇の判断は外部の者に任せるとする。良いですな」
言葉を言い終えると、いつの間にか近くにいた男性二人に両脇を抱えられる。抵抗する力も残されていない俺はされるがまま牢屋に連れていかれた。
俺が入れられた牢屋は簡素な作りで、掘られた穴に鉄格子に鉄の扉が嵌めらているだけ。広さは大人が二人川の字で寝たら狭く感じるほどで、奥にある木の板をめくると穴が掘られており、そこでトイレをするようだった。あとは隙間だらけの茣蓙の様な物が二つと、腰まである高さの瓶と水、水をすくって飲むようであろう柄杓。そしてずっと燃え続けている灯火器があるだけだ。
(トイレットペーパーが欲しい)
現代人である俺は、古代の暮らしの不便さを体感していた。小便なら割かしどこでも出来るが大便ともなるとそうはいかない。
『ムラノヒトニタノンデ、オシリガフケルハッパヤクサヲ、トッテキテモラエバイイジャン』
剣はそう言ったが、部外者で盗賊の仲間疑惑がかけられている俺が頼める物なのかと思案してしまう。
「あっ、あの!お食事をお持ちしました!」
甲高い声女性の声が牢屋に響き渡る。
(飯の時間か……)
俺は立ち上がり、牢屋の外を見る。そこには中学生くらいの女の子が緊張した様子で立っていた。
「あ、あの、ご飯です!あと、お着替えも、お持ちしました!」
トレーにのせられた朝食を受け取って床に置いてから、やや大きめの包みを受け取る。服が入っているらしい。
「お洗濯する物があれば、そこに包んでお渡しください!あとで取りに来ます!」
そう言って頭を下げる少女。
「ありがとうございます。なんか、ここまでしてくれて」
俺が頬をかき照れながらお礼を言う。囚人扱いと思っていたから少し嬉しかった。
「いえ!部外者の方なのに、村の危機を救ってくれた方ですから!」
少女は勢いよく頭を下げる。
「それから……」
少女は息を大きく吸って吐き出す。
「あの時、盗賊から助けて頂きありがとうございました!目つきが怖かったけど、本当に嬉しかったです!」
お礼を言うと、少女は出口に駆け出していく。少し顔が赤くなっているようだけど、灯りのせいだろう。
「だってさ。目つきの怖い人」
『ハア!?オレジャナクテ、オマエノコトダロ!」
剣のクレームを聞き流しながら、少し冷めた朝食を頂くのであった。
異世界転生した冒険者の異世界冒険譚 水無月ジュン @minadukijune06
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