第3話 十六歳の葛藤
「ほっし~、やけに楽しそうに帰ってくけど彼女でもできたん?」
「え、あ……いや、そうじゃないっちゃけど」
待ちに待った木曜日。
ホームルームが終わってすぐに席を立とうとするとクラスの女子たちにからかわれた。
彼女……と言われてあのきれいな横顔を思い出したけど、マミちゃんからしたら通りすがりで最近話すようになった同級生くらいにしか思っていないんだろうなと思ったら乾いた笑いしか浮かんでこなかった。
マミちゃんは俺のことに興味がない。
こちらに対して質問をしてくることもないから言うタイミングをなくしてしまって、あとで出た会話で『そうだったの?』と言われることが多い。
こちらでの生活に思い出を作る気はないのか、人から距離を取っているようにも見える。
前の学校のひとつ上の先輩と連絡を取っているみたいだったけど、他に彼女ができたのだと平然とした様子で話されたのは少し前の話だ。
そのときこそマミちゃんの心理状態は極限に荒れていたし、うまい言葉が見つからなかった。
勝手な印象だけど、都会ではよくあることで、俺にとっては顔も知らない先輩だったけどマミちゃんとよくお似合いの青春ドラマに出てきそうなかっこいい人だったんだろうなとぼんやり思ったことはあった。
マミちゃんもいつかは東京へ戻っていく人だ。
友達はいらないと言っているし、ここでのわずかな思い出なんて、彼女にとっては不要なのだろう。だから、俺も自分のことは極力話さなくなった。
「急に自転車で学校来るようになっちょるし」
「それはトレーニングもかねて……」
「絶対嘘!」
「本当のこと言ってよ~」
女子たちにぎゃーぎゃー言われて、憐れむ様子でこちらを見ている友人達も助けようとはしてくれない。こっちはこっちであとでまたからかってくるのだろう。
彼女たちのほんの一部でも見習ってマミちゃんが俺に興味を持ってくれたらここでもちょっと話は膨らんだかもしれないけど、一方的な片思いでマミちゃんをこれ以上苦しめるのもな、と思ったらとてもじゃないけど言えなかった。
『セイ!』
こちらの姿を見つけると、ぎこちなく頬を緩める。
長い髪を風に揺らし、近づいてくるその姿を見るだけで今は十分だった。
とにかく彼女はよく目立つ。
たまにマミちゃんの目撃情報があってギクッとしたことはあったけど、誰にも言わずに木曜日の大切なひとときのことは守り抜いたつもりだ。
高校生になってから一気にみんな背伸びをし始め、好きだ、愛だ、恋人だと言い出したけど、どれだけ女子たちから呼び出されることが増えても、いつも遠くを見ている女の子のことが脳裏をよぎり、謝罪の言葉以外見つからなくなった。
窮屈な毎日だったけど、彼女の隣に座ると少しずつ浄化されていく。
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