第8話 それはあなたの街

 あれから、どのくらい時間がたったのだろうか。


 すごく、すごく静かだった。


 たまに観光客らしい人たちがエレベーターで上がってきて、端のほうで座りこんだわたしの姿を見て、うわ!と驚くことはあったけど、気にする余裕がなかった。


 この場所以外は外灯がほとんどなくて、道を右に進むか左に進むか。


 どちらに行けばセイに会えるのか。


 いや、会える確信なんてなかったし、こんな自分を見せるのが嫌だった。


 来てはいけないところに来てしまった。


 わかってはいたのに、わたしはここへ来てしまっていた。


 虫の音が聞こえ始める。


 過ごしやすい季節のため、熱中症になる心配も凍死する心配もなさそうだ。


 ここで朝を待って、それから考えようか。


 変な人さえこなければいいけど、と人間泣くに泣いたら妙に冷静になって、普段だったら絶対に考え付かないようなことを考えて目を閉じた……そんなとき。


『ま……み……ちゃん?』


 聞きたかった声が聞こえたが気がした。


『マミちゃん! なんで、こんなところに!』


 自転車が倒れる大きな音にびくっとして顔をあげると、セイが勢いよくこっちに向かって走ってくるのが見えた。


『セイ……』


『マミちゃん、なんで』


『セイこそ……どうして……』


 都合のいい夢かと思った。


『今日は部員たちと寄り道して……って、時間!』


 慌てて振り返ったセイの姿からして、二十二時ギリギリの時間なのだろう。


『大丈夫、頼めば渡りきるまで待っててくれるはず……』


『……や、こわい』


 セイに会えた安堵感か、先ほどまで感じていた恐怖なのかわからなかったけど、首を振ったらまた呼吸が乱れだし、自分でも何を言っているのかわからなくなった。


『……出てきたのか?』


 静かなセイの言葉に、何も答えられなかった。


 沈黙は肯定だった。


『……大丈夫』


 いつもと変わらない、優しい声だった。


 取り乱して泣いてしまったわたしの背をさすりながら、セイはわたしの手を引く。


『よかったら、俺の街を見てってよ』


 それはあたたかな声だった。

 

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