第6話 みもすそ川公園

 みもすそ川公園のベンチに座って他愛もない会話をして、それぞれの課題をしたり、また会話をして。


 セイは頭がよさそうだったから、絶対彼が通っているのはクラスで噂されているあの学校だろうなと思った頃には、季節が巡っていた。


 いつも会うのは木曜日のこの場所だったけど、わたしは彼に会えるのが楽しみになっていた。


 母がヒステリックを起こしても、わたしに対してああしろこうしろと言って口やかましくひどい言葉で罵っても、クラスでひそひそと陰口をたたかれても、遠足で回ってくれる人がいなくて、ひとりで隠れてご飯を食べたことがあっても。


 セイに会えることを楽しみにできるなら、わたしはなんだって気にはならなかった。


 この気持ちはなんなのだろうかと考えるのが怖かった。


 好きとか憧れとか、今までには感じたことのない気持ちだった。


 だけど、恋にはしたくなかった。


 恋をしたら、いつかは終わりが来る。


 それは両親を見ていたら嫌でもわかること。


 恋は片道切符しかないのだ。


 気軽に乗り込むことはできても、簡単に戻ってくることはできない。


 友達はどんな人? 好きな子はいるの? 彼女は……いるの?


 聞きたいことは山ほどある。


 知りたい。でも、知りたくない。


 近づきたい。でも、近づきたくない。


 きれいな顔をしていて背も高く穏やかで優しい。


 文句の付け所がないのに、同級生の男子たちのように彼がどんな風に学校生活を送っているのか、想像さえもつかなかった。


 一度だけ、雨の日に行き違いがあって、セイに会えないことがあったため、何かあったら連絡すると連絡先を教えてくれた時、目に見えて嫌な顔をしてしまった。


 本当はとっても嬉しかったのに、ひとつまた彼と離れてしまう恐怖が頭をよぎった。


 近づけば近づくほど、彼は離れていってしまうのだ。


 その表情を見られてしまったからだろう。セイからスマホに連絡が入ったことは一度もない。


 どうでもいいメッセージはたくさん届くのに、本当に欲しい連絡は来ることはなかった。


 海の向こうを眺めて思う。


 ここは、天の川よりももっと遠い。


 そこで瞬いている星はもっともっと遠い。





 いつかの終わりを考えながらも、それでもこの生活を心の支えにしていた。


 だけどかけがえのない日々は、わたしが思っていたよりも早く終わりを迎えた。

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