第4話 十六歳の葛藤
転校した先の新しい学校は、初日から本当に最悪だった。
まだ新しい制服が完成していなかったため、かつての高校の制服を身に着けた季節外れの転校生が珍しかったのだろう。
一斉にいろんなクラスの人間がわたしを見にやって来たし、こそこそ言っているのだってわかっていた。
もともと人見知りなのに加えて、話しかけられたって聞き慣れないイントネーションや語尾にびっくりしてフリーズしているうちに『お高く留まっている』とか『嫌な感じ』とみんな遠目にはもの珍しそうに眺めるくせに、話しかけてはこなくなった。
問題ない。
友達なんてほしいとも思わない。
こんな街、すぐに出て行ってやるんだから。
そう思っていた。
母の借りた小さなアパートはとても窮屈だったけど、海辺に近いところにあってそこだけは唯一嫌いではなかった。
学校が終わるとすぐにバスに乗り込んで帰ってくる十数分の道のりは、きらきらしていていつも目を奪われた。
見慣れない景色だったからこそ、小さく胸が揺れたのだと思う。
好きだったのは、夕暮れに海の向こうに見える門司港の景色だ。
オレンジ色のライトがチカチカと光っている。
夜は絶対に外へでちゃダメよ、と耳にタコができるほど言う母は自分が外へ出て、
言うわりに母は夜まで家に帰ってくることはなかったため、誰に注意をされることもなく、ふらりとその光景を見に行く外へ出るのが日課になった。
ちょうど秋になったばかりで気候にも恵まれていた。
公園というけど遊具ひとつない海沿いに小さく佇むみもすそ川公園のベンチに腰掛け、暗くなるまで過ごすことが増えた。
自分の部屋さえない小さなアパートにいても気が滅入るだけだ。
その日も帰るなり、長い髪をひとつにまとめ、ジーンズに履き替え、パーカーを羽織って外へ出た。
新しい生活はどう?と連絡をくれていたとかつての友達からの連絡もひとり、またひとりと途絶えていった。
入学して早々に連絡先を聞いてきた清水先輩も今は可愛い彼女ができたらしい。
どうでもいいのに、周りからそんな連絡だけは入ってくる。
人間関係なんて、どうせ終わりがくる。
ここで敗れてほろんだ平家の人間には申し訳なく思うけど、わたしはもうこれからの人生に希望なんてなかった。
ただ、こんな狭くて過ごしにくいところにだけはいたくないから大学は東京に行こうという目標はあった。
友達もいないし、勉強に励めばいい。
どうせ、離れたら終わるのだから。
ゆったり船が通り過ぎる様子をぼんやり眺め、何も感じられないわたしは、心がどんどんすり減っていくのを感じる。
バカだなぁと思う。
東京から来たという男にほいほいついて行ったくせにこんな風にまた戻ってくることになった母も、そうは思いつつ反抗できない自分も。
母は、自分が自由になれなかった分、わたしに執着するようになった。
あれはダメ、これはダメ。
言われたとおりに生き、母がヒステリックを起こさないようにとばかり先回りをして考えるようになった。
すでにわたしは母の操り人形だった。
何をしても希望を見いだせない。
きっとわたしはろくな大人にはなれないし、一生このままなのだろう。
「ああ、もうっ!」
大きな声で叫んで、顔を覆った。
どうしたらいいのかわからない。
もやもや、もやもやもやもや。
心がどんどん黒い影に覆われていく。
息をするのも苦しくて苦しくて、仕方ないのだ。
『大丈夫?』
そんなときに声をかけてきたのが、セイだったのだ。
誰このひと?と思って視線を上げると見たこともないきれいな顔をした男子生徒が立っていて、不意に止めていた呼吸を再開したら、思わず涙が出た。
声をかけるなら、空気を読みなさいよ……そう思ったのが、第一印象だった。
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