結婚しよう

あの事件から数日後、この件に関して日本ではものすごい量の情報がネットで出回っている。

あれは隠蔽だったのではないかと過去の記事を持ってきて憶測でネットに上げる人。

この現実を非難している人。

その対応に追われている人。

様々な人が今日も生きている。

天音君が用意してくれた場所でテンは生活を始めた。

監視はついているにしろ、割と普通な生活を送れるように頑張ってくれている。

たまに遊びに行ったりもするが、中々打ち解けてくれる感じはしない。

「これ、お二人のせいですよね?ネットをハッキングしたのって零さんでしょ?」

「証拠は?」

「んー!ないですよ!」

痕跡が残らないようにハッキングするのはお手の物。

ただ天音君にはバレてしまうようだ。

今、世間ではこの事件で賑わっている。

様々なメディアでこのことに触れられて、上も隠し通すことが出来なくなった。

この事実が公になったことで子供たちは保護され、今後の未来を保証された。

大きな会社だったのでその影響はとんでもなかったそうだが、それ以上に罪を犯したのだから裁かれるべきだ。

「どうせすぐ他のブームがくるさ」

いつかきっと忘れられてしまう。

影が薄くなったところでまた、同じように悪さを考える人が現れる。

「そん時は私達が絶対に捕まえようね」

あの日、零がじゃんけんで負けるのは明白だった。

誠也さんにデータを貰ったことで右手は絶対にグーしか出せなかった。

「何であの時、負けたの?何か頼みがあるって分かってたの?」

久しぶりに学校に向かう途中、私はどうしても聞きたくなって聞いた。

「何となく」

一緒に時間を共にするというのは相手のことを知ることにつながる。

言葉に表せないが感覚でわかったという事だろう。

「今度、誠也さんのお墓行こう」

爆発後、遺体は回収されたようで死亡が確認された。

ちゃんと遺体があって埋葬できたことにホッとした。

「おはよう」

教室に入るとみんなは私達を心配そうに出迎えた。

「怪我してるじゃん!二人とも」

「もう大丈夫なのか?」

「無理すんなよ!」

「何でも言って。手伝うからね」

私と零は顔を見合わせて笑った。

「影井が…笑った!」

一瞬で表情を戻したが、その一瞬をみんなは見逃さなかった。

購買で昼ご飯を買って教室に戻って、机をくっつけた。

こんな幸せな時間をもっと大切にしたいと思った。

何でもない日常を特別にして、零と一緒に笑っていきたい。

時間はあるようでない。

あっという間に死んでしまうかもしれない。

だからこそ今、この瞬間の幸せを絶対に手放したくないと思った。

「零、今度この映画見に行こう」

「何それ」

私のスマホを覗き込む零の顔が近くて思わず驚いてしまった。

「あ、いや、えっと…学園ものの恋愛。アニオタ女子と校内ナンバーワンモテ男のラブストーリー!気になるでしょ」

必死に照れ隠しをしようと早口になってしまった。

「お前の挙動の方が気になる」

「別に照れてないし!顔近くてびっくりした演技!」

そう言うと零はゆっくりと顔を近づけてきた。

「これはまじな奴だな。俺にお前の演技が見抜けないとでも?」

盛大なデコピンを食らい痛がっていると、再びその顔が近づいてきた。

「え、何?」

頭を軽く抑えられて、顔が固定されたと思ったら柔らかい何かが唇に触れた。

目の前のドアップな顔に驚いて、無理やり離れた。

「い、いやいや。何してんの?!」

私が騒いだからかクラスメイトの視線が集まった。

「愛おしいと思ったやつにキスすんだろ?ドラマで見た」

平然な顔で説明する零に顔が爆発しそうなくらい熱くなった。

「今ここでする!?恥ずかしいって!」

「なら放課後、部屋行く」

零の恋愛知識はドラマからで、ふとした時にかっこいいのを辞めて欲しい。

まるで白馬の王子様のような発言をするのは本当に恐ろしい。

クラスメイトが次々に声を出した。

「まじ?まじで付き合ってんの?」

「恋人になったんだ!いいなぁ」

「影井が朝比奈を溺愛!?スクープもんじゃん!」

次々に浴びせられる祝福の言葉に私は死ぬほど恥ずかしかった。

「すごい相性よさそうだよね。二人」

「めっちゃ応援するわ」

恥ずかしさもあったが同時に嬉しいと感じた。

「花音」

「何?」

食べないとお昼休憩が終わってしまうのでメロンパンを口に運んだ。

口の中いっぱいに広がる味に幸せを感じた。

机の上に置かれた飴を見て、零を見た。

「任務成功の飴?」

首を横に振るので何のための飴なのか聞いた。

「結婚しよう。指輪はまだ買えないから飴で」

開いた口が塞がらないと言う言葉の意味を理解した。

教室中に響き渡る歓声の声よりも自分の心臓の音の方がよく聞こえた。

「何があるか分からない。だからもっとずっと一緒にいたい」

本音を言うことが中々出来なかった零が、こんなにも成長した。

お陰様で私が困るくらいには成長している。

「プロポーズ?」

零の顔を見て聞いた。

「それ以外に何があんだよ。恥ずいし」

「じゃあ今じゃなくてもいいじゃん!」

人前で公開プロポーズしてる人が恥ずかしいとか言わないで欲しい。

「今が良かった。何か…幸せだと思ったから」

その言葉に私はハッとした。

「そうだね。私、今幸せ」

この日常を特別な幸せだと言えるくらいには危険なことをしている私達。

この先の人生が長いか短いか分からないが、今を大切にしたいという気持ちは同じらしい。

机の上の飴を包みから出して口に入れた。

「影井花音かぁ。変な感じ」

そう言って笑えばクラスのみんなも盛り上がった。

零は幸せそうに私を見つめて抱きしめた。

「離さねぇから」

力強い言葉に安心する。

「私もだよ」

腕を回して、零の鼓動を聞いた。

「お前がまた共感しすぎて壊れたとしても俺がいる。だから俺を信じろ」

初めて会った時はとても怖い人という印象が強かった。

けど今は違う。

何よりも真っすぐで、ちゃんと感情を持っている。

「お前だけを想う。そしたら多分、俺は間違わない」

この本音を言うのに心底苦労したと思う。

だけどその真っ直ぐさは嫌いじゃない。

零の心臓の音が速いのが分かる。

「零ちゃん緊張してたんだー!」

顔にはあまり出ないが、私に隠すことなんてできない。

「うるせぇ」

大切な人との大切な時間をこれからも守っていきたい。

そのために私達は今日も前線に立つ。

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共感したら壊れる世界で、君だけを想う 杏樹 @an-story01

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