ヒーローの夢

猪俣誠也side

極一般的な家庭に生まれた、極一般的な少年は極一般的な暮らしを提供されていた。

俺の家族の形が世間一般の家族とは違うと大きくなってから知った。

当時はそれが普通だと思っていたから俺は普通にみんなに愛情を貰い、与え生活していた。

人を殺しても、人を陥れても、それは俺の中での生活だった。

零と出会ったのは学校でだった。

成績が優秀で整った顔は入学当初、結構騒がれていたのを覚えている。

ただ数日経てば性格が段々と分かるように、ターゲットは変わっていった。

「俺、猪俣誠也。よろしくな」

誰ともなれ合う気のない一匹狼という表現がここまでしっくりくる人はなかなかいないだろう。

ゲームでキャラクターの親密度を上げていくように、俺は零の親密度を上げようと話しかけていた。

中々手ごわかったが、生活を共にしていくことでゆっくりと親密度が上がって行ったように感じた。

「俺、ヒーローになりたいんだ」

ある時俺は零にそう言った。

ガキだとか現実を見ろとか言われると思ったが予想外な言葉が飛んできた。

「お前ならなれるかもな」

一瞬自分の耳を疑ったが、確かに言った。

「この世界にお前みたいなやつがいるのが唯一の救いだろ。俺みたいに感情を理解していないやつ、何も守れない」

零は無表情だった。

どんな授業でも淡々と訓練をこなし、辛い時、苦しい時でもそれはあまり変わらなかった。

ただ、零の中で一つだけ誤算だったことがある。

それは俺が零よりも感情を知らない生き物だったということだ。

殺せと言われれば殺す。

それが普通で当たり前。

毎日ご飯を食べるのと同じくらいのもの。

そこに俺の感情や意思は存在していなかった。

ただ、そんな俺にも憧れるものは合った。

それは男子が一度なら通る道であろう、戦隊ヒーローだ。

どんな時でも仲間を見捨てず、情に厚いレッドに憧れた。

クレバーな仲間や、無気力な仲間、ヒロインなど様々なメンバーがいたが俺はレッドに憧れた。

誰かを守るために自己犠牲も働くレッドを今なら高評価するか分からないが当時の目標はその人だった。

「俺、レッドみたいに人をたくさん救えるようになりたいんだ」

学校の二者面談で先生に言った。

それを先生は間違いだと叱った。

その時俺の中に違和感が芽生えた。

「なぁ零、俺達は何を守ってる?」

昼休み、焼きそばパンを食べながら零に聞いた。

「社会の秩序だ。習っただろ」

「そうじゃなくて!そうだけど…」

教科書に書かれていることが全てなのだろうか。

俺達は社会の秩序のために、大多数が幸せな生活を送るために任務を遂行させる。

そう思っていた。

零達と任務に行ったあの日、俺は間違った行動をとった。

ただ、俺の中ではそれが間違った行動だとは思えなかった。

何らかのアクシデントのせいで一般人が巻き込まれており、守った。

後悔はしてない。

俺が憧れるレッドも同じ行動をとっていたと思う。

あの時俺は死んだと思った。

爆発に巻き込まれて、全身が痛くて熱くて終わったと思った。

それでも次に目を覚ましたのは家だった。

「目が覚めたみたいだね。おはよう」

優しい声であいさつをしてくれる先生に俺はあの時のことが夢だったのではないかと疑った。

しかし体を動かした瞬間、それは夢では無かったとすぐに理解した。

「…右半分麻痺?」

「あぁ爆発に巻き込まれて右腕と右足の損傷が激しかったんだ。けど心配いらない。君は新しい手と足を得た」

自分の体がサイボーグのように変化していた。

本物の腕のように本を持つことが出来て、本物の足のように歩くことが出来る。

慣れない体ではあるが、世話をしてくれた人たちがいた。

それが朝比奈花音の家族だった。

今思えばあの人たちは研究者か何かで俺のことを監視していたのだろう。

ただあの人たちといる時間はとても安心できるものだった。

体を動かせるようになると、いつものように家で生活することが出来た。

ただ普段と変わったのは家に地下があると知ったこと。

そこで俺の腕と足のメンテナンスを行った。

俺のメンテナンス以外に部屋が何個もあった。

ふと、その中身が気になった俺は扉を開けた。

すると大人が子供を実験道具のように扱って、ノートに記録している姿が見えた。

あの時の光景は一生忘れられないと思う。

「何してんの?こんなところで」

背後に気配がしなかったため驚いたが俺と同じくらいの男が立っていた。

「俺は誠也。お前は?てか、これなんだよ」

少し考える仕草をしてから俺の手を引き別の部屋に入った。

「ここは?」

「僕の部屋さ。呼ばれるまでここに待機している」

何もない部屋だった。

ベットだけが置かれていて、その他には何もなかった。

「僕達は実験材料なんだ」

あまりにも衝撃的すぎて戸惑いを隠せなかった。

「見ただろ?研究者たちが子供で実験してる姿を」

そんなことがあってもいいのだろうか?

「何のために?」

恐る恐る聞くと、口角を上げた男が答えた。

「社会の秩序のために」

その言葉に俺は頭が真っ白になった。

「僕、君のこと知ってるよ。裏の学校で成績優秀だった君が一般人に情けをかけて死にかけたって」

ずっと変わることのない笑顔に俺は恐怖を感じた。

「確かに死にかけたけど…お前、実験材料にされるの怖くないのか?」

今思えばこの質問は最低だった。

「怖くないね。もう…慣れたから。僕が良い子にしていればそこまで酷いことはされない。僕は、君に聞きたいことがあるんだ」

「何だよ」

「君の中で命令が絶対なら誰でも殺す?犬も子供も関係ない?」

実際にそんな依頼を受けたことが無かったため、分からなかった。

「ちなみに君達も実験対象だよ。どうやってるのかは知らないけどここにいる子供全員が実験対象。大人はただ実験してるだけ」

今日初めて会った男の話を信じるべきか。

生活してきた環境を信じるべきか。

俺はどちらを選ぶか悩んだ。

「名前は?」

「名前?そんなものないけどしいて言うならナンバー10」

そう言って俺を部屋から追い出した。

たくさんの疑問と違和感は日々募って行った。

今まで通っていた学校に行かせてもらえなくなったり、外出許可が下りなかったり。

俺の世界が小さくなっていくのを感じていた。

俺の話し相手は花音の家族であるあの三人が多かった。

「なぁ、名前のない人って存在してる?」

三人は『していない』と答えた。

「俺の妹は花音って名前。みんなそれぞれ人生の最初に名前という大きなプレゼントをもらうんだ」

その言葉に俺は胸騒ぎがした。

だったら名前のないあいつは人間ではないと言う事だろうか。

人生で最初にもらえるプレゼントは当たり前なんかじゃなくて、特別だ。

それに気づくにはあまりにも遅かった。

体のメンテナンスで地下に行った時、俺はまたあの部屋に行った。

「ようこそ。何の用?」

長袖、長ズボンの内側が気になった。

「何するんだ!」

怯えた声が耳に入って来たが辞めなかった。

案の定、その体には痛々しい傷跡があった。

「俺はヒーローになれるって信じてた。けど…世界にはヒーローよりもヴィランが必要なんだね」

すべて壊して新しくすれば怖い思いをする子供がいなくなる。

単純で簡単なことに気が付いてしまった。

「ここから出て復讐しないか?」

俺の問いに驚いてはいたものの立ち上がった。

「ここから出られるのか?」

その目は希望に満ちていた。

すぐに俺達は家を出た。

実験対象が脱走したと警報が鳴り響いたがそんなものどうでもよかった。

「無理じゃないかな?」

警備が増えて、見つかるのも時間の問題だと感じた。

申し訳なさそうな顔をするそいつに腹が立った。

「嫌じゃないのかよ。あんなとこでずっとおもちゃにされて!」

胸ぐらをつかんで俺は必死に声を出した。

だが、その目を見て俺は言葉に詰まった。

「それ以外の生き方を知らないんだ」

普通ではないことであっても毎日行えばそれは日常として刷り込まれる。

そんなの俺が一番よくわかっていたのに、ひどいことを言った。

「教えてやる。来い」

そいつはこの一瞬で目の色を変えた。

「誠也!」

俺達を探していたであろう、あの三人に見つかった。

「何してんだ。こんなところで」

心配しているように見えるその顔は偽りだ。

俺達は実験対象。

俺達の間には大きな壁がある。

「俺はここを出て社会をひっくり返す。その時まで精々遊んでるんだな。俺達が普通に暮らせるために」

三人は俺達のことをただ見つめていた。

「こんな景色だったんだ」

初めての外に興奮を隠せない様子だった。

「名前は人生で最初に送られるプレゼントらしい。テンって呼べばいいか?」

俺の目を見て軽く笑った。

「好きに呼んでよ」

これが俺の第二の人生の始まりだった。

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