リアル
あの日から私達は学校から受ける任務の中に『猪俣誠也』が関係しそうなものを探した。
片っ端から情報収集を行い、任務を遂行させた。
しかし未だにつながりを探せなかった。
「爆破予告!?テロじゃん」
授業中、クラス全員に任務が課せられた。
警察も動いている中で私達のところに依頼が来た理由が殺害対象が警視庁だからだ。
「警察相手によくやるなぁ」
クラスメイトは犯人に対してドン引きだった。
情報班や避難誘導班など様々な部隊に分かれてこの状況を何とは打破しようと考えている。
私と零は現場付近に行って犯人と思われる人の特定をすることとなった。
「こういう犯人は現場付近にいることが多い。警戒しろよ」
「うん。けど…」
街は普通だった。
ただ、いつもと同じような光景にどう警戒したらいいのか分からなかった。
「公表されてないんだよ。犯人が犯行に及んだ理由が万一、警察の立場を狂わす物だったら困るだろ?『警察は正義の味方で潔白』なんてありゃしねぇのに」
そうやって権力のある者だけが楽しい思いをしている社会に嫌気がさす。
「数人の犠牲はやむを得ないってやつな。トロッコ問題って言うんだろ」
「零ならどうするの?」
誰かを捨てて誰かを守る。
その究極の決断を私は出来ない。
「世界が滅ぶのとお前が死ぬのだったらお前をとるな」
軽く笑いながら歩く零のその言葉は半分本音で、半分嘘だと思う。
そんな選択をする人生はできれば歩みたくないと思った。
「世界滅んだら私も死ぬけど」
警視庁に入ると異様な光景が広がっていた。
「星城学園のお二人ですか?」
すぐに声をかけられて別室に連れていかれた。
「あの、何であんなにたくさん子供がいるんですか?」
黄色い帽子をかぶり、校章の入った制服を着た小学生くらいの子供たちがフロアにあふれかえっていた。
「社会見学です」
「え、でも…爆破予告あったんですよね?」
その人は『はい』と平然に答えた。
「何で爆発するかもしれない場所にわざわざ?おかしいでしょ」
「言えるわけないでしょう。それにただのいたずらですよ。そうでなくても先鋭部隊が阻止してくれます」
恐ろしいと思った。
「これが闇なんだよ。正義の欠片もない」
零の耳打ちに私は何の声も出なかった。
「優秀な生徒なんだろう?君達」
入って来たのは誰か分からないがお偉いさんだということだけは分かった。
周りの人たちの空気が一瞬で変わった。
「分かるだろう?社会の秩序の安定。そのためにも犯人を見つけ出して未然に防いでくれ」
私はただ下を向いていることしか出来なかった。
「花音、俺はお前を信じてる。自由にやれ」
優しくて大きな手が頭を覆った。
「タイムリミットは残り3時間。資料に目を通してくれ」
渡された資料には『正義の仮面をかぶった悪党の顔を消す』という文字が大きく書かれていた。
「犯人に心当たりはないのか?」
零の問いにもう一枚の紙が渡された。
「リストがあるのになぜ動かない?一体、何を隠したいって言うんだ」
「…最悪」
私の言葉に反応した零が、私の持っていた資料に目を通した。
「お偉いさまの隠蔽工作。好きだなぁ」
呆れる零に笑う警察。
警察の中でもかなり権力を持った息子の隠蔽が良く行われていたそう。
暴行や未成年飲酒、不同意わいせつ罪などその罪状は多岐にわたるものだった。
「今まで行ってきた隠蔽に腹を立ててその被害者が事件を起こそうとしてるんでしょ?何で止めないんですか?貴方たちが蒔いた種ですよ?隠蔽工作何て行わなければ被害者の数が減ったかもしれない。こんな事件も計画しなかったかもしれない。犯罪者を…生まなかったかのしれないのに」
私は社会に対する信用を一気に失った気がした。
権力があれば、立場があれば罪に問われないなんておかしすぎる。
情報班に容疑者リストを送り、できるだけ多くの情報を調べてもらった。
「多分、この人だって」
送られてきた人物を零に共有した。
「梅野コハル。24歳。大学院生。挙げられる動機は復讐。間違いなさそうだな」
家もここから近く、可能性は大いにあった。
復讐は復讐を生む。
その人はきっと自分をコントロールできない程何かに追い込まれたに違いない。
「君達はただ阻止してくれればいいんだ。余計なことを考える必要はない」
「私達は人間なの。生きてるの。あなた達の駒になるつもりはない」
私と零は外に出て空気を吸った。
あの空間にいたら私達が人間ではなくなってしまう気がした。
「ムカつくし、意味わかんない。頭おかしいよ」
零は無表情のまま私の隣を歩いた。
青信号なのに足を止めた零は静かに言った。
「お前は変わらないでくれよ」
周りが足を動かす中、私と零だけが止まっていた。
まるで零が時が止まるのを願うように魔法をかけたみたいだった。
「俺はもしかしたらあちら側の人間になっちまうかもしれない」
「そんなことないよ。零はちゃんと分かってるよ」
「いや、分からない。だからお前が必要だ。絶対に離れんな」
不安げな顔に私は何がしてあげられるのだろう。
「私は…」
伝える言葉を考える。
演技ではなく、本音を丁寧に紡ぐ。
「何度でも教えるから。一緒にいよう」
零の満足げな顔を見ていると無線が繋がった。
『後には戻れない』
梅野コハルのSNSを特定したクラスメイトから教えてもらった。
「止めないと。ちゃんと話を聞かないと」
焦る私に対して冷静な零。
少し考えたのち、零はあることに気が付いたようだ。
「保育士…」
私達は顔見合わせて、もう一度中に入った。
「子供達ってどこにいますか?」
そこに梅野コハルがいるかもしれない。
「会議室です」
場所を聞き、私達は走った。
「間に合うかな」
走っているからか、焦っているからか声が震える。
「間に合わす」
何とも心強い答えを貰い、私達は会議室の扉を開けた。
やはり予想した通り、キャラクターもののエプロンをした梅野コハルがいた。
「梅野コ…」
「コハルん!久しぶりー。ちょっとあっちで話さない?」
零の言葉を遮って、声を発し梅野コハルの腕に触れた。
何の抵抗もせずについてくる彼女に私は何を言ってあげればいいのだろう。
小さな部屋に三人で入り、座った。
「何で警察を恨んでるの?」
私の言葉にハッと驚いた様子を見せた。
「誰?」
「警察から依頼を受けて来た。爆発を阻止しろと」
私達を睨みつけるその目には光が全く映っていなかった。
「止めさせないから。私は絶対にこの腐った社会を滅ぼす」
そう言って部屋を出ようとする梅野コハルを零が止めた。
「こいつの目、見てみろよ」
そう言って私を指した零。
梅野コハルと目が合い、ニコッと笑った。
「変な奴だろ?話くらい聞いてくれ。こいつは腐ってないんだ」
零の言葉に梅野コハルは動かされたのか座った。
「何があったの?教えて。何があなたを動かしたの?」
爆発の時刻まで一時間。
悠長にはしていられないが、彼女の人生を知らずして分かることは何にもない。
「私はただ、社会には正しくあって欲しいだけなの。辛い人に寄り添ってくれない社会なんて終わってる」
机を睨みつけながらゆっくりと口を開いた。
「経験したことある?大好きな人が死んで取り残されるって最悪な気分だよね。…私も一緒に死にたかった」
その目には涙がいっぱいに溜まっていた。
「おかしいじゃん。金と権力でのうのうと生きてるの。当たり前のように隠蔽してもみ消して。こんな世界、私達は幸せになることも許されない」
彼女の悲しみは誰にも分からない。
ただ、誰かが共感して寄り添ってあげれていればこんな選択はしなかったかもしれない。
「コハルさん。悪いけどまた隠蔽して終わるよ」
その言葉に梅野コハルは立ちあがった。
「ふざけんなよ、馬鹿にするのも大概にしろ」
「事実なの。それがこの社会なの」
誰もが幸せにとか、みんなで幸せになろうとかそんなことはフィクションの中だけ。
汚く濁った空気が循環するただのリアル。
「…やっぱりそうだよね。ならもういいや」
ゆっくりとドアを開ける姿に私は立ち上がった。
「爆弾はどこ?今ならまだ…」
「ないよ」
私達は驚いて目を合わせた。
「煙っぽく作ったドライアイス。私は誰かを殺したいとかって思ってないの」
振り向いたその目は死を覚悟している人のものだった。
「辞めて」
「世界があなたみたいな人だけで作られていれば誰も悲しい思いをしないのに。世に知らしめてよ。私は生きたって。梅野コハルはクソみたいな世界でただ、笑っていたかっただけだって」
犯行時刻の数分前、梅野コハルは死んだ。
急に倒れた彼女は事前に毒物を飲んでいたことが分かった。
助けられずに目の前で人が死ぬなんて最悪な結末だ。
これはファンタジー小説などではなく現実だと強く刻まれた日となった。
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