第5話 王宮の毒

ダンジョンから戻った翌朝。俺は、何事もなかったかのように王族用の朝食席へ向かった。


第七王子である俺の席は、誰とも目が合わない隅っこだ。―だが、その日だけは違った。


「……これは?」


銀のトレーの上、俺の皿のスープだけが微妙に濁っていた。

そして、明らかに不自然な香辛料の匂い。香りで誤魔化そうとした痕跡がある。


マギアが、俺の肩で小声で囁く。


「マスター。スープの中に《ダイヤロブスの根》が混入されています。胃に入ると数分で心臓が停止いたします。」


(チィッ…コイツら…。)


「これを平らげたら、死ぬか?」


「…いえ。私のスキルで補助すれば、今のユウリ様のステータスでなら、死ぬことはないでしょう。」


(よし…)


俺は何食わぬ顔でスプーンを取り、スープを口に含んだ。騒がず、抵抗せず、飲み干した。


背後で、誰かが小さく肩を震わせた気配があった。


数十秒後――心臓が締めつけられた。


(っ……これは……っ!)


激しい胸の痛みとともに、視界が白く染まる。

椅子から転げ落ちそうになる体を必死で維持していると、服の中に隠れていたマギアがスキルを発動する。


「《毒分解(アンチポイズン)》」


柔らかな光が全身を包む。体に回り始めた毒が分解されはじめ、心臓の鼓動が再び戻る。

呼吸が楽になり、体の震えが止まった。


---


> 《損害精算》スキル発動

・毒ダメージ(致死レベル)×1

・急性臓器停止 ×1

→取得:スキル《毒感知》Lv2、《致死抵抗》Lv1、《生命維持術》Lv1

ステータス:耐久+2、精神+3

特別取得:シークレットスキル《毒無効(中)》


---


(……確実に命を狙ってきたな。間違いなく、本気で俺を殺す気だった。)


ふらつきながら椅子に戻ると、周囲は誰一人として俺を見ていない。


全員、無関心を装っている。だが、その“沈黙”こそが毒より重かった。


「マスター。お命に関わる事案です。お部屋に戻って、しばらく休息すべきかと。」


マギアが服の中からこちらを見上げる。小さな体だが、その温もりははっきりとした“味方”だった。


(いいさ……これで、また強くなれた。損害は俺の糧だ。憎しみも、痛みも──全部、まとめて請求してやる)


王宮という“毒沼”に対して、またひとつ耐性が増えた。


皮肉なことに、大抵の毒を無効化できるようになったユウリは、この日からまともに食事ができるようになった。

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