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 翌日から、おれたちは非常に忙しくなった。

 アレクシアが、自分の仕掛けたアンチ魔法の解除のため、村の周囲に埋め込んでいたその髪の毛を撤去した途端、エイルから笑里の魔石に連絡が入った。


 それはコンサートの依頼だった。

 おれと笑里は二つ返事だったし、ユミヒリも即答してくれた。もちろんOKだ。


 七曜制が採用されているこの世界で、火曜日にはエアリー&ストリングスと銘打めいうったクラシックコンサートが組まれ、続く水曜日にはユミヒリ&エアリーのロックコンサートが、定期公演とされた。


 エアリー&ストリングスのストリングスは、カトリーヌと風見が加わったからだ。

 バヤンにも打診したのだが、流石にもう少し時間が欲しいとの事だった。

 井上のオーボエは結構使えるのだが、あいつは空間転移魔法の構築にご執心だったので、今はそれどころではないようだ。


 アレクシアはもちろん、楽器は演奏できないから問題外だが、彼女はグレンライヤーにマインドコントロールされている反政府組織とのパイプ役を担っていた。

 今まで気づかなかったが、笑里の異空間収納に入ってしまえば、アレクシアのアンチ魔法もミサンガによる精神支配も無効となる事が分かった。

 要するに、異空間収納にいる間は、反政府組織の彼らはグレンライヤーから干渉を受ける事がなく、自我を取り戻せているのだ。

 彼らは、精神支配されている時の記憶はあったし、その自覚もあったから、笑里の異空間収納に収監されている事に対して、不平不満を口にする事はなかった。


「仲間をあいつから解放してあげたいし、お父さんも助けたい」

 アレクシアにはそんな強い思いがあったからか、ユミヒリがムーンライトに関わる賊の討伐に赴く時は、アレクシアも同行するようになっていた。

 グレンライヤーが改心するとは思えない以上、その命を絶つ以外に、彼らを解放してやる事は出来ないのだ。


「わたしも付いていくよ」

 そんな時、カトリーヌは常にアレクシアに付いていた。

「ついて来なくていいわよ」

 アレクシアは仏頂面を見せるが、カトリーヌも下がらない。

「アレクシア、あんた弱すぎるから見ていられないのよ」

 核心を突かれたアレクシアは、物凄い顔でカトリーヌを睨むのだが、それには反論しなかった。

「ふん。勝手にしたら」

 アレクシアの剣技は、ユミヒリやカトリーヌに比べたら、どうしても見劣りするものだった。彼女自身もそれはよく分かっているだろう。


「言い方が悪かったわよ」

 カトリーヌも少し感情のトーンを下げた。

「わたしもグレンライヤーには恨みがあるの。前世では二宮といって、わたしたち家族を死別させた男なのよ。あいつはわたしたち家族の敵なの」

「そう……」

 アレクシアもそれ以上突っ込んで聞く事はなかった。


「わたしたちは帰るつもりはないよ」

 ミオはそう言った。

 彼女の後ろではユウ・ヒロ・リョウが頷いてみせた。

「おれたちにはよぉ、こっちの世界の方が性に合ってんだよ」

 ユウの言葉にヒロが続いた。

「唯一の欠点が、食い物だったが――」

「バルキュリーやルマンダの料理を食えるんなら、問題ない。――それとアリー、出来るだけ日本食のレシピをこの世界に置いて行ってくれないか? 洋食もいいけど、おれ、やっぱ日本食なんだよ」

 とリョウが言った後、ミオが締めくくった。

「わたしたちは残るけど、安心して。有栖川君たちの帰還の手伝いはするつもりよ」


「わたしは帰りたい」

 と風見は目に涙を溜めながら言った。

「お父さんやお母さんに悲しい思いをさせたくないの。特に……お姉ちゃんはわたしが死ぬ瞬間を見ていたんでしょ?」

 とおれを見た。

 おれはその場にはいなかったが、一緒に楽器店に来ていたんだ。その瞬間でなくとも、凄惨な風見の最期を目にしたのは間違いないだろう。

「妹が潰れた姿なんて、一生消えることのないトラウマ級の出来事よ。もしかしたら、お姉ちゃんの人生はわたしのせいで滅茶苦茶になったかもしれない。――だから、わたしは元気な姿で帰りたいの。わたしのために泣く家族の姿なんて…………そんなの辛すぎるわ」


「風見……」

 そっと井上が風見の肩に手を置いた。

「だいじょうぶだ。理論は完璧だ。後はここにいるみんなのユニークスキル検証して、具体的な実証実験を行うだけだ」

「井上君」

「必ず帰ろうな。おれだって両親を泣かせたくはないよ」

「うん」

 井上の言葉に風見は力強く頷いてみせた。


「キミにも、待っている人がいるんでしょ?」

 と笑里がおれの横に並んだ。

 

「笑里さんも一緒に――」

「帰らないよ」

 と笑里は笑った。

「帰った所で、誰もいないのよ。キミを見かけたとしても、こうして隣に立つ事は出来ないのよ。それにわたしは、きっと死んでいると思うわ」

「笑里さん」

「心臓が止まった体に戻ったところで、起き上がれるわけないでしょ? そんなのまるでゾンビだよ。アハハハハ」

 笑里の笑い声はいつもより上ずっていた。

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