居酒屋の2階の俺のアパートにゴキブリハンターがやってきた
多田島もとは
第1話
俺は虫が嫌いだ。
心の準備もなく視界に入ろうものなら、立派な大人になった今でも情けない悲鳴をあげる自信がある。
そんな俺の住む古いアパートの1階、元不動産屋の空きテナントに新しく居酒屋がオープンした時の俺の気持ちを理解してもらえるだろうか。
名前を出すのも悍ましい、黒くてテカテカして素早く動くヤツ……ゴキブリだ。
カブトムシは怖いと思ったことがない。
ヤツより大きくツノまで生えていて、ヤツと同じように空も飛ぶ。
しかし動きは重鈍だ。そこがいい!
もしゴキブリがゆっくりとしか動かない生き物なら平気だっただろう。多分。
家の中の片隅をカサコソと蠢く黒い影は日増しに数を増していく。
対抗策を考えたが、殺虫剤、あれはいただけない。
もしヤツが冷蔵庫の下に逃げ延びた後、そこで死んだらどうなるのか考えたことがあるか?
日に日に腐り損壊していく元ゴキブリだったものは、粉となり臭気となり部屋に留まり続けるのだ。
そんなわけで俺はゴキブリホイホイに信頼の重きを置いている。
何より姿を見なくて済むのがいい。
2DKのアパートの至る所にゴキブリホイホイが設置されるようになって数週間。
数は減るどころか、新品と交換するたびに家を模した小さな箱は次第に重さを増していく。
ビールを飲みながらテレビを見ていたあの日、手を伸ばしたツマミから黒い影が逃げていくのが見えた。
ハハハハ、もう無理だな!
俺はこれ以上ここに住むのは諦め、次のアパート探しを始めた。
近くに飲食店がないこと、それを最優先の条件にしたのは言うまでもない。
転居を決意してから、祈るような気持ちでゴキブリホイホイの成果を確認することがなくなったからか、俺がその異変に気付いたのは少し後になってのことだった。
今になって思えば、頼もしいアイツはあの頃には同居人になっていたのだろう。
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