第21話 四天王の話

「凛音、来たぞ!」


 その日は唐突にやってきた。ディーノに声を掛けられ、一瞬それが何のことかわからず、咥えたするめを咀嚼しながら、凛音は首を傾げる。


「ん?」

「するめ食ってる場合じゃねぇ! ハートブレーカーだよっ!」

「えええっ? 今ぁ?」

 ちょっとだけ面倒。もうお風呂も入ってしまったし、あとは寝るだけだったというのに。

「いいから、行くぞっ!」


ディーノが人間の姿から本来の姿へと変化する。宙に魔法陣を描くと、凛音はするめを嚙み千切り、輪の中へと飛び込んだ。ディーノも後を追う。


 魔法陣を抜ければ、いつもの場所。アビスゲイトの前。


「ぱぴぷぺポニーの、らりるれ輪舞!」

 ステッキを手に、お決まりの呪文を暗唱する。軽くステップを踏みながらくるくるとステッキを回せば、その体が光に包まれた。

 ぽいん、ぽいん、と生成される戦闘用の魔法服。レースもフリルもいつも通り可愛く揺れて、髪がきゅるんと伸び、トップで纏まる。

 最後に頭の上に大きなリボンが結ばれれば、完成だ。


「涙の雨は、私が照らす! ポニー・レイン=サンシャイン参上!」

 可愛くポーズを決め、ウインクを一つ。


 いつも通りだ。


 しかし、今回もまたいつも通りではない事態が待ち受けていた。


「あれ?」

 そこに宿敵アモール・ヴァンデロスの姿はない。代わりに、久しぶりに見た別の顔があったのだ。


「うわ、四天王じゃん。めちゃくちゃ久しぶりに見た~! え? なに? やっぱアモールなんかあったわけ? 具合でも悪い?」

 あまりに気さくな声掛けに、久しぶりの登場となった四人が顔を見合わせる。


 ハートブレイカー四天王。

 名前は……憶えていない。なんだか長ったらしい名前だったので、諦めたのだ。横文字は苦手な凛音である。


「ポニー・レイン=サンシャイン、お前に聞きたいことがある!」

 赤い髪の鬼っぽい見た目の、四天王の一人が口を開く。

「聞きたいこと? なによっ」

 戦闘が始まらないのは何故なのか? 今度ハートブレーカーが来たら、本気で戦って結果を出すと決めていたのだ。それなのにアモールはいないわ、聞きたいことがあるなどと言われるわ、全然思い通りにならない。


「お前は……なんだ、その、あれだ」

 ゴニョゴニョと言い淀む。ここまで来て質問すらしてこないとはどういう了見か。


「お前が聞け!」

 赤鬼が、隣にいた青ライオンに話を振った。

「何故我がっ! お前が言え!」

 青ライオンは、黄色ドラゴニュートへ。


「なんだこれ?」

 ポニーの半歩後ろで、もふもふ姿のディーノが声を出した。

「知らないわよ。大体、四天王がここに来たのってどれくらいぶりなわけ? すっごい久々に会った気がするんだけど?」

「確かに……。ああ、ポニーがびゃーびゃー泣いた時以来な気がするなぁ」

「ちょっ、それは禁句!」


 ポニーは過去、一度だけだが、敵を前にマジ泣きしてしまったことがあった。あの時のことは、黒歴史でしかない。しかし、言われてみれば、確かにあの日を境に、四天王は現れなくなった気がする。理由はわからない。戦闘中にギャン泣きする魔法少女など、四天王がいなくても倒せるだろうということか? だとしたら大ボスであるアモールが前線を離れ、四天王だけで倒しに来るのが筋のような気がするのだが。


「そういや、あの辺で色々変わったのよね。アモールの戦い方も、出現の仕方も」


 それまで不定期開催だった出現が、なんとなく定期的になり、戦闘内容が格段に楽になった。体への負担が減ったのを、ハッキリと覚えている。そもそもあの時は、戦闘それ自体で涙を流したわけではなく、あまりにも理不尽なことが多い仕事へのストレスがマックスで、感情が爆発して泣き喚きながら会社の愚痴を言う、という謎展開だったのだ。


 視線を戻すと、四人はまだ「誰が言うのか」で揉めている。


「ねぇ、今日はアモール来ないの?」

 声を掛けると、四人はギギギと小刻みに首を動かし凛音を見、言った。

「来ないの? ではない!」

「お前はアモール様の居場所を知っているだろうっ?」

「あの話、本気で考えているのかっ?」

「この世界でアモール様と結婚するというのは真実なのかっ!」

 テンポよく飛び出したセリフの中に、とんでもない言葉が混じっている。


「……今、なんて?」

 ポニーがステッキを胸に、聞き返す。

「私とアモールが、なんて……?」

「だからっ」

「我々は確認しに来たのだっ」

「魔法少女であるお前をめとると、アモール様が言い出したのだっ」

「本気なのか、ポニー・レイン=サンシャイン!」


 あごが外れそうなほど口を開け、思いっきり首を傾げてみる。四天王たちの表情は真剣で、冗談を言っているようには見えなかった。いや、そもそも冗談を言い合うような間柄ではないのだ。


「おい、ポニー、どういうことだよっ?」

 ディーノまでが一緒になって訊ねてくる。

「どういうもこういうも……なんでそんなことになるのよっ! んなわけないでしょうがぁぁぁぁ!」


 ステッキを掲げ、暗唱する。


「サンシャイン・シャイニングアロー!」


 ステッキから光が放たれ、光が幾重もの矢となり放たれる。しかし、四天王へ向け勢いよく飛ぶ光の矢は、届くことなく弾き返される。


「これはどういうことだ?」


 カツン、カンカンッと矢が落とされ、そこに姿を現したのは、当の本人、暗黒の王アモール・ヴァンデロスその人だったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る