第5話 蜘蛛の糸
それにしても死んだはずの両親と妹美咲が、地縛霊(じばくれい)となってこの家に憑いてしまったので、悠馬は一時はどん底に突き落とされたが、それも束の間、何てことはない地縛霊となって家族が目の前に現れ、悲しみなんか何も無かったかのように元気になり、以前と変わらず毎日楽しく過ごしている。
「お母さん岡崎での生活が始まったけど、やっと学校生活にもなれたんだ」
「そうなのね。お母さんも安心しているのよ」
「あんな惨劇があったなんて信じられないね」
一方の祖父母たちには地縛霊が見えないので悠馬の事が心配で心配で仕方がない。精神的な打撃で、とうとう狂ってしまったのではなかろうかと、悠馬の事をとても心配している。
「オイ!また悠馬が独り言をブツブツ楽しそうに話している。あの事件以来ショックで精神に異常をきたしたんじゃないだろうか?」
「本当にいつも誰かと話しているように、笑顔でブツブツ言って……気味が悪い」
「精神病院で診てもらおう」
心配した祖父母によって強引に精神科を受診させられてしまった。
「ヤメテ!ヤメテ!僕は精神異常者じゃない。ちゃんと両親や美咲が目の前にいるじゃないか!」
「ウウウウウウウウッ!嗚呼あああああああああ💢💢💢💢💢💢💢何で!何で!何で!俺が精神病院に入らなくてはいけないんだよ?」
「先生……先生……患者さんが暴れています。お願いします」
ダッダッダッダッダッダッダッダ
先生が慌てて駆けつけて来た。
「先生……お願いします!」
ストレッチャーに乗せられ器具で拘束されて悠馬は診察室に運ばれていった。
「ハッ!何なんだ???」
どうも……タイムリープして時を飛び超えてしまったみたいだ。
「あなた……心配したのよ。やっと目が覚めた?」
「俺はどうなったんだ。俺は高校生だったじゃないか?おじいちゃんとおばあちゃんに病院に無理矢理連れて行かれ……」
「ふっふっふっ!でも……良かったわ」
「お前は……お前は……誰だ!」
「何を言っているの?優衣……優衣よ……」
「お前は……お前は……彼氏が何人もいる女で、俺を苦しめた女?」
「あなた……その話、翔太君が言った話でしょう。何言っているの。あの時その話は間違いで、あなたととことん話し合ったじゃないの。忘れた?」
「アアアアアアアア……???嗚呼……???ああああああああああ??????俺はどうなってしまったんだ?俺は確か……慶応の学生だったのに……」
🌃✨ ✨ ✨ ✨ ✨🌃
これは一体どういう事?
全てがおかしい?
精神病院に入院を余儀なくされていたのは、悠馬だったのだろうか?
既に30代の夫婦になっていた悠馬と優衣だったが、現実世界ではダンスサークルで知り合い交際に発展したが、優衣には彼氏が何人もいて悠馬は人間不信に陥り、それ以降、麻雀、ダンスと浪費癖が激しくなって生活が堕落し、自殺も考えるようになった。
俺は確か大学時代ダンスサークルで優衣と出会い恋に落ちて、幸せの真っ只中にいたが、唯一の友人翔太から「俺も優衣と付き合っている。同時に多くの男性と交際する女だ。他にも何人も付き合っているらしい」と聞かされ、ショックを受けた。
そこで…悠馬と優衣は徹底的に話し合ったが、翔太の裏工作で悠馬は精神に異常をきたすようになる。
翔太にとっても優衣を悠馬に奪われたくないので必死なのだ。翔太は友達が多く社交的だった。そこで優衣をどんなことをしても悠馬に取られたくなくて恐ろしい裏工作をした。
一体どういう事?
悠馬は成績優秀にしてイケメンでスポーツ万能のパーフェクトボーイ。こんな男に恋心を抱かない女子などいない。
翔太は善良な友達のふりをしているが、腹の底では嫉妬に狂い悠馬を地獄に突き落としたいと思っている。
「悠馬俺に1人くらい譲ってくれてもいいじゃないか?俺は優衣とは高校が一緒で、同級生の優衣とは友達としてグループ交際していたんだ。それなのに優衣まで奪うなんてあんまりじゃないか💢💢💢」
翔太は憤慨していた。モテモテの悠馬を思う女子は星の数ほどもいる。それなのに自分の全てと言っていいほどの優衣まで奪われ悔しさでいっぱいだった。
翔太は社交的で男女ともに友達が多い。けれどもそれはあくまでも友達として都合が良いから女子も翔太と付き合っているだけの事。どういう事かと言うと、翔太と悠馬はいつも一緒にいる大親友だ。
女子たちにすれば社交的で明るい翔太が大好きだ。それと……一番の狙いは翔太の大親友悠馬との「恋のキューピット役」になってくれることが最大の目的であった。
翔太はある日、それを利用して悠馬と女子を誘って遊びに行ったことがあった。
「翔太あなたの友達の悠馬君紹介してほしいのよ」
(俺は顔が広かったから、悠馬を好きだっていう女子を誘って3人で出掛けて、悠馬の紅茶に睡眠薬を入れて眠らせ、その女子と悠馬のキス場面を携帯に収めたんだ。それを優衣に見せて引き裂こうとしたんだ。女子もその話に乗ってくれたんだ)
一体どういう事?
「あのさー。悠馬ってモテるだろう。君が悠馬を独り占めしたいのだったら既成事実を作って、他の女が近づかないようにしないといけないと思うよ」
「それどういう事?」
「だから…キス写真を撮っちゃうって事さ。流石にキス写真まで見たら女子も悠馬に近付かないと思うよ」
「どうして?」
「だって……そんなことしたら自分が傷つくだけじゃないか。そんな彼女のいる男に近付いて遊ばれて捨てられるかもしれないのに、そんな危ない橋渡ると思う?」
「本当ね。私だけのものにするって事ね。その話に乗るわ」
いつも悠馬の「恋のキューピット役」に辟易していた翔太。それなのに優衣とは友達で付き合いが長いのに、優衣とまで付き合い出すなんてあんまりだ。そう思っている翔太。
(俺は高校の同級生の優衣とは友達としてグループ交際していたんだ。それなのにあんまりじゃないか!だから俺は顔が広かったから悠馬を好きだっていう女子を誘って3人で出掛けて、悠馬の紅茶に睡眠薬を入れて眠らせ、その女子と悠馬のキス場面を携帯に収めたんだ。それを優衣に見せて引き裂こうとしたんだ。いつだって俺の大切なもの全部奪いやがって許せない!💢💢💢)
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人間のねたみ、そねみ、うらみ、それは到底逆立ちしても叶わぬ相手と知ると、ねたみ、そねみ、うらみの心が沸き上がって来る。
例えば地位、名誉、才能、美貌をねたみ相手が不幸になればと、いう悪魔の心が沸き上がって来るのだ。
正しく翔太自身の事だ。善良な友達の仮面をかぶり親切を装い、今正にイケメンで成績優秀にしてスポーツ万能のパーフェクトボーイの悠馬をねたみ、そねみ、うらみ地獄に突き落とそうとしている。
芥川龍之介の蜘蛛の糸は、これから登場するあらゆる人物に当てはまる。そこで簡単にあらすじを読み解いていこう。
★芥川龍之介の蜘蛛の糸
ある日、お釈迦さまは極楽の蓮池のほとりを御歩きになっていらっしゃいました。はるか下には地獄があり、犍陀多(かんだた)という男が血の池でもがいているのが見えました。
犍陀多は生前、殺人や放火など、多くの凶悪な罪を犯した大泥棒だったので御座います。しかしそんな彼でも一度だけ良いことをしておりました。それは深い林の中を通っていると、小さな蜘蛛が一匹、路ばたを這って行くのが見えました。犍陀多は早速足を挙げて、踏み殺そうと致しましたが、「いや、いや、これも小さいながら、命のあるものに違いない。その命をむやみにとると云う事は、いくら何でも可哀そうだ。」小さな蜘蛛の命を思いやり、踏み殺さずに助けてやったのでございます。
そのことを思い出したお釈迦さまは彼を地獄から救い出してやろうとお考えになり、地獄に向かって蜘蛛の糸をお垂らしになりました。
血の池で溺れていた犍陀多が顔を上げると、一筋の銀色の糸がするすると垂れてまいりました。これで地獄から抜け出せると思った犍陀多は、その蜘蛛の糸を掴んで一生懸命に上へ上へとのぼったので御座います。
地獄と極楽との間はとてつもない距離が御座います。疲れた犍陀多は糸の途中にぶらさがって休憩しておりました。しかし下を見ると、まっ暗な血の池から這い上がり蜘蛛の糸にしがみついた何百、何千という罪人が、アリの行列ようによじ登って来るではありませんか。このままでは重みに耐えきれずに蜘蛛の糸が切れてしまうと考えた犍陀多は怒りに震えて「こら、罪人ども。この蜘蛛の糸はおれ1人のものだぞ。下りろ!下りろ!」と大声で叫んだので御座います。
すると突然、蜘蛛の糸は犍陀多がいる部分でぷつりと切れてしまい、犍陀多は罪人たちといっしょに真っ暗闇の中、血の池の底へ石のように沈んでしまったので御座います。
自分ばかり地獄からぬけ出そうとする、犍陀多の無慈悲な心が、御釈迦様の御目から見ると、浅間しく思召されたのでございましょう。
この一部始終を上から見ていたお釈迦さまは、悲しそうな顔をして蓮池を御去りになられました。
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