スイカ
@komugiinu
第1話
農婦はこともなげに言った。
「スイカを食べている時は、みんな子どもの顔になるだろう?
うちのは特に甘くて美味しいからねえ。」
「そのまま
みんな子どもに戻ってしまった訳ですかー」
(そんなバカな!)
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「えっ、私がアルファ国へ嫁ぐのですか?」
ベータ王国の第1王女、アンジーは不思議そうに尋ねた。
「向こうの国王の要望でな、
おまえを見て一目で気に入ったらしい。
あの国ではどちらかが成人していれば結婚できるそうだからな。」
「でも、あの国の第1王子はまだ8歳のはず、
年頃になる頃には、私は30になりますよ。
どちらかと言えば
末の妹のシシーの方が釣り合うのではないですか?
ねえ、シシー?」
シシーは口を尖らせた
「うん、この前遊びに来たときに、王子様はシシーと指切りしてくれたのにー」
「向こうの王は女好きで有名だ、
あわよくば自分が先に、おまえに手をつけるつもりなのかもしれない。」
王妃は眉をひそめた、
「まあ嫌ですわ、そんな恐ろしいこと。」
「だいたい私は来月、
騎士団長のカイル様との結婚を控えております。」
「しかし、アルファ国と諍いは起こしたくない
すまないが諦めてくれ。」
政略結婚とは残酷なもの
2国間の平和のためには仕方がない、
こうしてアンジーは、最愛の婚約者と別れ
アルファ国へ嫁ぐことになった。
アルファ国へ向けて、花嫁行列はゆっくり進む、
侍女、護衛の兵士、その他身の回りの世話をするもの30人以上を伴った
華やかな行列は隣国へ向かった、
国境を越え、アルファ国に入った一行は
のどかな農村で宿を取った。
村人たちのもてなしを受け
つつがなく出立日を迎えた朝、
宿の中に子供が走り回っている。
「どうした、ここは幼稚園か?」
「いえそれが、彼らの服が
誰も彼もブカブカなのです。」
その時侍女が血相を変えて飛び出してきた。
「ベッドの中の姫様が消えて、小さな女の子になってしまいました!」
同行してきた若手の騎士や、使用人の見習いなど、姫様を含めた8人が消え、代わりに8人の子供たちが増えていた。
「どういう事だ⁉︎」
「昨夜、彼らは、騎士の1人が、
畑から盗んできたスイカを8等分して
みんなでこっそり食べていたそうです。」
「ひ、姫様!
そんな下品なことを!」
「エヘヘ、スイカ大好きー」
スイカに毒が入っていたのだ!
いや、呪いのスイカだ!
一行は大騒ぎになったが、原因はわからず、
結局そのまま王宮に向かった。
アルファ国の国王は驚いた、
「何だこの子どもたちは?」
「おたくの国のスイカを食べて
こんな姿になってしまったのです。
どちらかと言えば、責任はそちらにあります。」
「うーん、こうなったら
とりあえずガキンチョどもは、国へ帰せ。
姫はー
仕方がないのう、
そのうち元に戻るかもしれん。」
不測の事態に陥った王宮だったが、
急遽、婚約式ということにして、8歳の王子と5.6歳くらいになってしまった姫との間で何とか無事に終了した。
(ちぇ、あの姫が、
あの城で見たような美女に成長するのには、
あと14.5年かかりそうだ。)
「陛下、何をお考えですか?」
王の数々の浮気のせいで、嗅覚が研ぎ澄まされた王妃が横で釘を刺した。
「いや、あれはあのままでも、
なかなか似合いの2人だと思っていたんだ。」
その頃
花嫁一行から抜け出した8人が
騎士団長の屋敷に到着した。
「アンジー!」
「カイル様、会いたかった。」
「全て上手くいったか?」
「はい、向こうの国王は、花嫁はアンジー様だと思っております。」
「アンジー、すまない、
貴女は伯爵家の養女という身分で私に嫁ぐことになる。」
「かまいませんわ、カイル様と一緒になれるのでしたら。」
アルファ国の王宮の庭園に、
小さな2人の姿があった。
「アンジェリーナ=ルシニーナ様」
「王子様は、シシーって呼んで。」
「そうだね、
2人だけの時はそうしよう、
じゃあ、シシー、
両親と離れて寂しいだろうけど、
この国では、僕が貴女の婚約者だ。
貴女のことは僕がしっかり守るから
何でも頼ってくれていいんだぞ。」
「うん、ありがとう王子様、」
見かけた女官たちは、微笑んだ。
「何と可愛いらしい光景でしょう、」
「それにしても、王子は、急に頼もしくなられましたわねえ。」
王子はシシーの手をとった、
「政略結婚は、大切な事情だけど
それで不幸な人ができてはいけないんだ、
僕たちはこれから2人で、ずっと幸せになろうね。」
「うん、王子様指切りだよ!」
スイカ @komugiinu
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