もしかしたら、ここは乙女ゲームの世界かも。そして、私がヒロイん?

❄️冬は つとめて

第1話 転校してきたら皇子様と急接近。

今日から通う学園の職員室。


(カッコいい…… )


ざわめく朝の職員室、その中で一人ワインカラー色のブレザーの制服を着ている生徒がいる。


目があった。


(今、目があったわよね。)


短い黒髪、黒い瞳。背も高く均等の取れた肉体。恐ろしく整った顔立ち、憂いを帯びた顔。


(じっと、此方を見てる。)


男子生徒が女生徒を見つめていた。女生徒もまた、男子生徒を見つめ返していた。


彼女の名前は、アーデルハイド・フォン・アルム子爵令嬢。つい最近まで市井で育った庶子だ。

亜麻色の髪の乙女。


男子生徒の憂いの帯びた黒い瞳が細められる。


(私に、微笑んだ。)


ゆっくりと風を切るように黒い髪を靡かせて歩き、男子生徒は彼女の前に立った。


「令嬢、斬新な髪型だね。」


男子生徒は優しく彼女の髪を触った。貴族社会では珍しい肩までのふわりとした短い髪を。


「あっ、コレは今のばしてる最中です。」


彼女は臆することなく応えた。

男子生徒の目が優しく、ますます細められる。


「令嬢、名前を伺っても? 」

「はい、ハイジーです。」


「違うでしょう、あなたはアーデルハイド・フォン・アルム子爵令嬢でしょう。」

椅子に座っていた眼鏡をかけた女性が立ち上がり、男子生徒に軽く会釈をしてから彼女の名前を訂正した。


「だって先生、みんなからハイジーて呼ばれていたんですもの。」

「あなたはもう貴族なのですよ。市井のことを忘れろとは言いませんが、貴族としての嗜みを覚えなければなりません。」

先生は優しく話かける。


「まずは名前から、しっかりと自身に刻み込みなさい。」

「は~い、は~い。」

「『はい』は一回で、短く。」

「わかりました。」

ピシっと敬礼をしてみせる。


隣で柔らかい男子生徒の笑い声が聞こえる。ハイジーは顔を赤らめた。


「すまない。」

男子生徒は優しく微笑みかける。


「私はこの帝国の皇太子をしている者だ。」

「ええ~っ。こ、皇太子!! 」

「アーデルハイドさん、皇太子殿下とお呼びなさい。」


男子生徒はこの帝国の皇太子であった。ハイジーは恐縮して、オロオロとしだす。


「ど、どうしょう。不敬? 不敬なの首チョンパされちゃうの。」


「安心するがいい。ここは学園内、さほどの不遜は不問に処す。それに令嬢はまだ、貴族社会の決まり事を理解していないのであろう。」

皇太子は優しく微笑むと、ハイジーはヘナヘナと座り込む。


「よ、よかった~ 」

「アーデルハイドさん。そう言う時は、感謝の意を込めて淑女の礼を取るのです。」

上から先生の叱咤がとぶ。


「う~~ 」

ハイジーは唇を尖らせた。

 

「はしたないですよ、アーデルハイドさん。」 


「先生、彼女はまだ慣れていないのだ。そのようにはやし立てれば、嫌気もさすであろう。ゆっくりと教えてあげればよい。」

皇太子はハイジーに微笑みながら、先生に進言をした。 


「皇太子さま~、優し~ 」

「語尾を伸ばすのではありません、はしたないですよ。」

「う~~ 」

ハイジーは眉を歪めた。


「アハハッ。」

皇太子は声を上げて笑った。その声も柔らかい声だ。


「令嬢、ハイジーと呼んでもよいかな? 」

「は、はい。皇太子さま。」

「皇太子殿下とお呼びなさい、アーデルハイドさん。」

「よい。」

皇太子は片手をだし差し置く。


「皇太子殿下も気安く令嬢のあだ名を呼びするのは、名誉に関わります。」

「よい。」

皇太子は、言葉で差し置く。


「令嬢…… ハイジー。」

「はい、皇太子さま。」

「学園は初めてであろう、クラスまで私が送って行こう。」

皇太子は床に座り込むハイジーに手を差し出した。


「殿下!! 」

女性教師は声を上げる。

それを皇太子は目で制する。


「ありがとうございます。」 

ハイジーは臆することなく皇太子殿下の手を取った。


皇太子は微笑んだ。

 

ハイジーは皇太子にエスコートをされて、自分のクラスへと向かう為に職員室を二人で出ていった。


女性教師は、周りにいた教師達は、深い溜息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る