記録者の眼

じゅにあ

長野県•桐谷村音声記録

《撮影日:2024年10月12日 場所:長野県・桐谷村》

(カメラは手持ち。ガタつく映像。誰かの息遣いがマイクに入り込んでいる)


映像ログ:00:00:03〜

カメラは山間部を走る車の車窓から始まる。赤く色づいた山々の間を、古びた一本道が縫うように伸びている。助手席に座るのは、撮影者の友人である「田村涼介(たむら りょうすけ・29)」。


田村(運転しながら)

「本当に行くのかよ、あんなとこ。ネットのネタだろ、あれ」


撮影者(声だけ)

「いや、フォーラムの書き込みは全部消されたんだよ。しかも、あれ投稿したやつ、急にアカウント削除されてる。興味湧くだろ?」


田村

「その“記録者”ってのも怪しすぎだって。どのスレにも同じ名前で、『記録します』だけ残して消えるんだぜ?意味不明すぎる」


撮影者

「だから調べる価値があるって話。現地の人に話を聞けば、何かわかるかも」


カメラは徐々に村の入り口へと切り替わる。立て看板に、かすれた文字で《桐谷村》とある。周囲に人気はほとんどなく、空気が不自然に静まり返っている。


《映像ログ:00:27:11〜 桐谷村・旧集会所跡》

(映像が暗く、懐中電灯の光で古びた木造建築を照らす)


田村

「なあ……さっきから誰か見てねぇか?」


撮影者

「は?」


田村

「ほら、あの裏手の……森の影。さっきから何か動いてんだよ」


カメラが一瞬、森の奥をパンする。しかし、そこには何も映っていない。ただ、音だけが入る——風では説明できない、木の軋むような“呻き”。


撮影者(小声)

「……聞こえた?」


(無言)


《映像ログ:00:49:40〜 桐谷村・民家跡内部》

(撮影者が屋内へと足を踏み入れる。カメラのライトが天井を照らすと、奇妙な文字が掘られている)


「記録者へ——

これ以上、視てはならない」

田村(呆然と)

「なんだよこれ……誰宛てなんだよ、“記録者”って……?」


撮影者

「俺たち、見られてる側か……?」


(音声ノイズが強まる。画面が一瞬だけ乱れ、何か“別の顔”が数フレーム映り込む——目が潰れたような女性の顔)


《ログ終了・記録データに欠損有》

備考:

この映像は、2024年11月に長野県警が匿名の送付により受領した記録の一部である。送り主は不明。

この記録をもとに、本シリーズは「記録者の眼」と題される全30章の映像・証言群から構成されている。

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