もうひとりの巨人

 アルカナは、その長い生でも経験したことのない事象が自らに起きたことを感じた。現象としては、力が強制的に人類船へと吸い出されているようだった。本来は、命を共有している者がアルカナの肉体を呼び起こすために使う機器、アルカナスパーク。それが既にアルカナが別の存在と融合しているときに使われたために誤作動を起こしたのだ。


 アラタを中心に起こった光とアルカナから吸い出された光は宇宙船の前、二人の中間地点で収束した。強い光に目を閉じた人々が再びその目を開けた時、そこには彼が居た。


 かつて地球を守り戦ったあの頃の、朱い巨人が。


 光の中のアラタは、不思議な感覚に包まれていた。暖かく冷たい、力強く優しい。そして彼は、目の前に立ち尽くすアルカナを、真っ直ぐと見つめた。


 アルカナには目の前に立つ遥かな過去に失った姿の自分の正体は分かっていた。その心も恐らく解していたのだろう。彼もまた、その目でアラタへと返答を返した。


 アラタは唖然とし動きを止めている戦艦の一隻を本船のある方へと押していった。それを見ていた他の戦艦もまた、その後ろを進んでいった。


「なぜ戦いもせず帰って来た?確かにアルカナの力は皆知っている、だが逃げるとは卑怯、姑息、軍人として恥ずかしくないのか?」


 戦艦の帰還と共に、人類内での対立は激化した。アルカナを直接見たこともない政治家が軍人を非難する。軍人と彼らに賛同する一部の政治家もまたそれに抵抗し、アラタはアルカナの姿のまま沈黙を決め込んでいた。舌戦での勝者は明らかであり、彼らは再攻撃を決定した。それまでの作戦は自然環境を極力維持し文明のみを攻撃するというものだったが、新たな作戦は不確定要素を排除するため本船から直接無差別攻撃をするというものになった。


 多くの反対を無視して発射された超強力レーザーは、惑星に届く直前アルカナによって遮られ、その返答だといわんばかりに、アルカナの全力が込められた一条の光線が放たれた。攻撃を避ける術を持たない惑星と違い、惑星から一光日離れた船団は光が届くまでに散開し攻撃を避けることが出来たはずだった。しかし彼らは、アルカナの存在を知っていたにもかかわらず敵の反撃を予期することは無かった。


 人類のレーザーがアルカナにより防がれたと視認する際には光が届くまでのタイムラグが発生する。そしてアルカナが光線を発射したのはレーザー光線を防いだ数秒後であった。つまり船団からは、自分たちのレーザーがアルカナに防がれたのを確認した僅か数秒後に光線が到達したと感じられるのだ。人類船団はそのまま蒸発するかと思われた、その時だった。


 アラタが、その光線を防いだ。

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