いとも自然に金をパクられた話

幸/ゆき さん @WGS所属

果たして誰かが悪いのだろうか

 その日、とあるゲームのイベントに参加しようと私は大手町に来ていた。

普段あまり縁の無いオフィス街に一人で遊びに来たという事で、若干の不安を抱えていたものの、後に控えた楽しみに比べれば屁でもなかった。


 ところが、お目当てのイベントは「来場者数に対してホールが狭過ぎた」とかいう間抜けな理由でまだ始まってもいないのに追い返されたのだ。ファッ◯!

無理矢理にでも予定を空け、早起きし、雨の中やって来たというのにこの仕打ち……どうしようもないと自分に言い聞かせても、正直 腹の虫が収まらない。

何の収穫も無いまま直帰するのも癪だったので、私は比較的近い秋葉原に寄る事にした。


 秋葉原は過去に何度か訪れているので、知らない土地というほどでもない。

交通標識や記憶している限りの景色を頼りに徒歩で目指すも案外楽しかった。



 無事にJR秋葉原駅に辿り着き、雨宿りがてら改札前で一休していたときに本題たる悲劇は起きた。

イベントで溶かす筈だった軍資金を何に使おうかと、財布の中身を確認していた際に誰かとぶつかったのだ。こちらはきちんと壁際で立ち止まっていたので、歩きスマホ野郎の仕業かと眉間にしわを寄せたのを覚えている。

相手は金髪のお兄さん――所謂"海外ニキ"だった。まぁ、秋葉原は外国人観光客も少なくない。流石は我が国が誇るサブカルチャーの聖地だ。

それはともかく、ぶつかった拍子に私の財布から100円玉が一つ転がり落ちた。

また、金髪ニキの方は転びこそしなかったものの、緩いポケットから大量の硬貨をバラまいてしまったのだ。


(あちゃー、何やってるのさ)


とは思いつつ、私は取り敢えず自分の100円玉を拾い上げた。

すると、自身の硬貨を集めていた金髪ニキが


「拾ッテクレテアリガトウゴザイマス」


とカタコトで喋って、私の手から100円玉を攫うなりそそくさと走り去った。


「あ……」


私は茫然とする他無かった。

彼を完全に見失ってから考えたけれど、確かにあの状況で誤解は不可避。

呼び留めても赤点ギリギリな私の英語力で誤解を解けたとは思えない。




 たかが100円、されど100円……私の100円。

秋葉原に降る雨粒が一つ増えた。


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