第21話 戦闘と羞恥と都合のいい壁
戦闘が始まった。僕が想像の中でしか描いたことのなかった光景が、目の前で繰り広げられる。ブラッドの撃つ光弾は、寸分の狂いもなく敵の銃だけを弾き飛ばし、ブリジッドは、まるで舞うように敵の攻撃をかわしながら、華麗な体術で次々とグレイたちを無力化していく。強い。僕が考えた主人公たち、めちゃくちゃ強い。
だが、僕の視線は、その華麗な戦闘シーンに集中できなかった。
頑張れブラッド! 敵はあと3体だ!
いや、頑張るなブリジッド! そんなにアクロバティックに動くと、スーツの透けてる部分がもっと…! ああっ!
僕の脳内は、戦況の応援と、倫理観のせめぎ合いで大パニックだ。
「クリエイター! 突っ立ってねえで、援護しろ! 『遮蔽物』と書け!」
ブラッドの怒声で、我に返る。そうだ、僕もこのパーティーの一員(道具係)だった。敵の撃った光線が頬をかすめ、僕は悲鳴を上げながら、ポケットからチラシの裏と万年筆を取り出した。
『目の前に、都合のいい壁が現れる!』
僕が殴り書きした瞬間、僕の目の前の空間に、ずしり、と重々しいコンクリートの壁が出現し、次弾の光線をガキンと弾いた。おお、すごい。本当に都合よく壁が出てきた。このペン、思った以上に使えるかもしれない。
数分後、僕たちの目の前に立っているグレイはいなくなっていた。戦闘終了だ。
「フン、雑魚ばかりだな」
ブラッドがコズミック・マグナムの銃口をフッと吹き、ブリジッドは軽く息を弾ませながら、額の汗を拭った。絵になる二人だ。だが、悲劇は、その直後に起きた。
ブラッドが、ふと、ブリジッドの背後に視線をやり、眉をひそめた。
「……ブリッジ、てめえ、そのケツはどういう趣味だ?」
「え?」
ブラッドの指摘に、ブリジッドはきょとんとした顔で自分の背後を確かめようとする。そして、戦闘の興奮でエラーを起こしたスーツが、見るも無残な状態になっていることに、ようやく気づいたのだ。
「きゃああああああああ! な、なによこれーーーっ!?」
セクシーな女スパイの仮面は剥がれ落ち、そこには、ただただパニックに陥った一人の女の子の悲鳴が響き渡った。
ブラッドと、顔を真っ赤にしたブリジッドの怒りの視線が、一斉に僕に突き刺さる。
「「クリエイター(さん)……てめえ(あなた)の仕業だな(ですわね)……?」」
美しいハモリだった。
「し、知らない! 初期不良だ! やはり宇宙の素材は脆いな!」
僕が必死の言い訳を試みた、その時だった。
通路の奥から、ザッザッザッ、と、先ほどよりも明らかに多い、増援の足音が近づいてくるのが聞こえた。
僕たち三人の顔から、サッと血の気が引く。
「「「あ、やばい」」」
僕たちの声も、今度は綺麗にハモった。
最悪のタイミングで訪れた、絶体絶命のピンチ。そして、最高に気まずい仲間割れの空気。
僕の人生、もとい、僕の書いた物語は、どうしてこうも、シリアスとコメディのバランスが滅茶苦茶なんだ。
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