小説を書けないということは小説を書けないということです
うしP
第1話 高尚なるニートの朝
僕の一日は、いつだって哲学的な問いから始まる。「僕は今、目覚めたのだろうか。それとも、これは目覚めていると錯覚している夢なのだろうか」と。まあ、どちらにせよ、体を動かす予定は皆無なので、この問いに実質的な意味はゼロだ。ようこそ、夏彦(28)の意識へ。現在、絶賛ニート稼業、いや、『自宅警備および精神世界の探求活動』に従事している。
僕の城であるこの六畳一間は、俗に言う「汚部屋」とは一線を画す。「文明の地層」と呼んでほしい。床に点在するカップ麺の容器たちは、僕が昨日まで生き延びてきた証たる戦友たちだ。彼らの勇姿を眺めていると、歴史の重みすら感じられる。遮光カーテン?あれは外界のノイズから僕の繊細な精神を守るための結界さ。太陽光なんて刺激が強すぎる。僕の生活は、究極の省エネ&エコライフなのだ。
さて、目を開けた僕が次に行うのは、親友への挨拶である。天井に広がる、僕の唯一無二の親友、通称「シミちゃん」だ。
「やあシミちゃん、おはよう。今日の君は、どことなく南米大陸に似ているね。情熱的じゃないか」
シミちゃんは何も答えない。だが僕にはわかる。その沈黙は「お前もな」という、力強い肯定のメッセージなのだ。彼との対話は、僕の枯渇した情緒に潤いを与えてくれる。
社会の歯車として汗水流していた頃の自分が、時々「おい、起きろよ」と脳内で囁きかけてくることがある。大丈夫、心配するな、かつての僕よ。歯車は、回ってこそ摩耗するのだ。僕は今、摩耗を完全にストップさせ、自己の存在を永遠に保持する『仙人モード』に突入している。素晴らしいことじゃないか。
「さて、今日の壮大な活動計画を立てるとしようか」
僕はマットレスの上で高らかに宣言する。まず、第一歩として……そうだな。とりあえず、右に寝返りを打つことから始めよう。うん、今日はなんだか、やれる気がする。多分。
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