『和やかな国の中で』(何気ない一時編)

  (ん〜いいお湯〜)


 長旅で疲れた旅人が、一番楽しみにしている事。それは"お風呂"の時間である。

  宿屋の部屋に備え付けられたバスルームの中。私は温かい湯にゆっくりかっていた。一人の時間って最高だよね。誰の目も無いし届く事も無いから好きな事を思う存分出来る。私は今、愛読中の小説に防水カバーを付けて絶賛読書中だった。ちなみに、両足は浴槽の上に乗っけていた。やりたい放題である。


 自慢じゃないけど、私はお風呂に入る時はいつもこんな入り方をする。数時間前も図書館で読書していたけど、本が最高の至福であるところの私は結局どこでも読書出来るのだ。平気で1時間以上入浴するからリルからはよく心配されるんだけどね。


 (今日はここら辺であがろっかな〜)

 そんな訳で、私は今日の夜という時間も読書をしながら入浴して軽く1時間を超えた。いいとこまで読めたし、これ以上入り続けたらお風呂の中で寝ちゃってリルが大騒ぎしかねない。

  私は本を閉じて軽く伸びをすると、浴槽からゆっくりと上がってそのまま浴室の扉に掛かっていたバスタオルを手に取る。身体を丁寧に拭きながら、この国も明日出国かあ と思いをせた。旅人になってから分かった事が1つある。


 国の平和は、国によって違うんだって。


△▼△▼


 「やっと上がったんですね、遅過ぎです」

 「あはは、いつものように辛辣しんらつ


 お風呂から上がると、いつものように私を待ってくれていたリルが呆れた風にそう言ってくる。私はそれに笑って返す。寝間着じゃなくて下着姿の私はそのまま窓の方まで近付いて、鍵を外して窓を開けた。


 窓を開けた瞬間、夜のとばりが降りた国の風景が見えて、この時間特有の冷たい夜風が部屋の中へと流れ込んでくる。

  そして私は近くのベッドへダイブする。独特の冷たさを連れた夜風が私の火照ほてった肌を撫でていって。


 「も〜、風邪引きますよ」

 「大丈夫だって、引いた事無いもん」

 「そう言ってる人程体調崩しますけどね?」

 「私が風邪なんか引いたらリル的には天変地異みたいなものでしょ?」

 「あまりからかわないで下さいっ」(プイッ)

 「あらら、ねちゃった」


 リルと軽口を叩き合いつつ、私はだなと感じた。

  普通に見てみればいつもの私とリルの旅の日常、その一幕というだけ。でも、考え方を変えてみればこの国の人達の日常に旅人という異物である私とリルが交じるって事でもある。そう考えてみたら何だか不思議な気分だった。この国に居る間だけは雰囲気や文化を国の人々と共有している。


 宿屋の窓から見える、外の風景。

  もう時間的にはこれから直ぐ深夜になるだろう時間帯。それでも、あちこちに見える住居からはまだあかりの付いている家が多くある。下の通りを見れば、暖色の街灯の下を様々な人々が往来していく。親子連れや学生さん、仲の良さそうなカップル。仕事帰りの男性や、動物と散歩する人。色々な人が居た。


 「夜でも賑やかなのに騒がしくない。凄く平和な夜って感じですね」

 私と同じ事を感じたのか、リルもそう口にして。

 「うん、そうだね。平和って素敵」


 「ティゼル様の物欲もこの国と同じくらい落ち着いて欲しいです」

 「うっ……善処、したいです……」

 「"します"じゃないんですね」


 普通なら怒るのに、今日のリルは苦笑しながらそう言った。精霊さんも、国の在り方に影響されるんだ。意外な発見があって私もつい笑ってしまう。

  それから暫く、リルと何のひねりも無い雑談に花を咲かせた後、もう寝ようかって事になって。


 寝間着に着替えた私は"ピクピク" "フリフリ"と揺れるケモ耳と尻尾しっぽに今日もお疲れ様と声を掛けて、窓を閉め、ベッドへ入った。

  布団の温もりも相まって、割と直ぐに眠気が来る。意識を段々深い微睡まどろみに移していきながら、私はー。


『和やかな国の中で』END

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