『和やかな国の中で』(図書館編)

  私、旅人のティゼルは本が好き。元々幼い頃から好きだったけれど、割と大人(?)な年齢になってきて旅をしてる今でも本は好き。いや、違う。私の好きはさらに大きくなって"大好き"だ。国から国を渡る旅路の中でも、私は生粋きっすいの読書家だから常に物語の事を考えてしまう。次の国ではどんな本と出会えるんだろう?って。相棒精霊のリルからは"もう少し本以外の事にも興味を!"って言われるけど、リルには悪いけどそれは無理だ。国を観光している時や自然をの当たりにした時とはまた別っていうのかな。読書はまた違った心の豊かさをもたらしてくれる私の特別なのだ。


 ーなんて、賢い感じで言ってみたけど。本音を言えば私はただ、本と触れ合っていたいだけ。入国した国に『大図書館』なんてものがあるならば、本の虫である私はそこに引きもるしかなくなるのだ。


 沢山の書庫が並び、様々な人が静かで自由な時間を過ごす図書館の中央広場。木造の良い匂いが鼻腔びこうをくすぐり、見上げる先には天窓てんまどから見える蒼い一面の空。清々しい程の快晴。窓から差し込む陽の光が少しだけ眩しい。だけど、心地良かった。人工芝の上にクッションを敷いて寝転がりながら静かに小説を読む私。控え目に言って最高。こんな環境は中々無い。


 この国には昨日入国した。国に辿り着いたのは夕方頃だったからろくに観光が出来なかった。だから2日目の今日はいつもより早く起きて(リルに叩き起こされた)喫茶店で朝食を食べ、国の色々な場所を観光して回った。その道中、印象的だったのは国の人達。"どこから来たの?" "ここまで長旅ご苦労様" "楽しんでいってね"といった風に出会う人全員が優しく声を掛けてくれた。

 『そういえば入国前、衛兵さんがこの国は物凄く和やかだと言ってましたね』

 『うん。こういった国って凄く過ごしやすい』

   リルとそんな会話もして、それからお昼が近かったのでレストランへ。昼食を食べ終わった後は国の人からお勧めされた『大図書館』へ。昼御飯を食べて直ぐだったからかもしれないけど、私は本を読みながらついウトウトしてしまっていた。


 (うーん……駄目……眠いな)

 最初は順調に読み進められていたけど、段々食後の眠さと中央広場の暖かさに私は屈し始めていた。

 (ちょっとくらい……寝ちゃおうかな?)

 やばい。微睡まどろみが来た。抗えない眠気が襲い来る。文章が頭に入ってこない。

 (そういえば……リルはどこいったの?)

 そうだ、そういえばリルが居ない。どこ行ったんだろ?あの子、普段は私と離れたがらないんだけどな……。

 (まあ、いいや。暫く、少しだけ……ね?)

 まあ、リルも私大好きだし、暫くしたら戻って来るでしょ。そこまで考えると、意識が急速に遠のき始めた。私は本をかたわらに置いて、身体を横向きに、目を閉じてー。


△▼△▼


 「ティーゼールー様、起きて下さい」

 「んあっ?」


 意識の覚醒は突然。私は可愛らしい女の子の声を真上から浴びて"ハッ"と目を覚ました。

  声の主は言わずもがな、私の相棒で精霊なリルのものだ。目を開くと、てのひらサイズ程の淡い緑色の光体がほとんど私の顔に張り付くくらいの距離で私を覗き込んでいた。リルは私が目を覚ました事を確認すると、"やっと起きましたか"とため息混じりに一言。


 「今もう夕方ですよ。閉館時間が迫っているようなので、迷惑にならない内に帰りますよ」

 「……マジですか?」


 目覚め、開口一番の相棒精霊リルさんの言葉に思わず固まって思考が停止しかける私。

  嘘でしょ?と。いやね、寝たのは覚えてるよ?読書の最中に眠気と暖かさに耐えられなくて寝てしまったのは私の確かな失態。だけど、え?もう夕方?私どれだけ寝てたの?私本人はお昼寝程度だったのに……。そう思うと何だか恥ずかしさが込み上げてきてしまう。顔を少し赤くしているとリルが言った。


 「まあ、恥ずかしがる事は無いですよ。ティゼル様、微笑ましい目を向けられてましたから」

 「国の人から?」

 「そうです。この図書館のマスコットキャラだと勘違いしてる方も居ましたね」

 「それは……嬉しいの?喜んで良いの?」

 「恐らく褒め言葉じゃないです?私大変だったんですよ?魔法でぶっ飛ばさないようにするの」

 「リルが暴走したら肝が冷えるどころじゃないから辞めてね!?」


 リルさんは相当ご立腹りっぷくらしかった。私も口答えばかりしてると他人事じゃないかも……そう思った私は戦々恐々せんせんきょうきょうとしながら立ち上がった。勿論、本の回収も忘れない。柔らかい人工芝から読みかけの小説を取り上げると、最後まで読んであげられなくてごめんね と心の中で謝罪。結構面白かったんだよね、書店に同じ本が売っていたら必ず買おう。私はそう心に決めて本を棚へ戻しに向かう。


 その戻しに向かう途中、私はそういえばと思い出した事があったのでリルに尋ねてみた。


 「リルはさ、どこにいたの?ずっと姿が見えなかったけど」

 私の質問にリルはお傍を離れてすみませんでしたと言った後で教えてくれた。

  リル曰く、『大図書館』に入館した直後、図書館の中庭へ向かって"魔力補給"を行っていたらしい。それを聞いた私は納得した。リルと相棒になったばかりの頃、彼女から教えて貰ったのだ。精霊は魔力の塊のような存在。元々自然ある場所で暮らしているので、から外に出てしまったら魔法を使わなくても段々魔力が抜けていってしまうのだそう。リルの場合は私と契約しているので補給の頻度は3日に1度程で良いらしい。自然さえあれば、例え草花とかでも補給は可能なんだって。でも、今の話で思い出したけど、リルもリルで大変なんだね……。私も、もう少しちゃんとしなくちゃ。


 「あ、ティゼル様。その本、あの棚じゃないですか?」

 「本当だ、ありがとうリル」


 なんて、そうこうしている内に目的の本棚まで辿り着いた。

  私は小説を元の位置に戻して、ふと、その近くにあった窓を見つめた。先程の快晴はもうその蒼さを残していない。代わりにあるのは、綺麗なだいだい色に染まった空。美しい夕暮れだった。


 窓からは国の一部が見える。窓の外に広がるのはこの国の日常の形。家が建っていて、色々なお店があって、様々な人々が国中を往来おうらいする。そして、そんな国の。山を1つ挟んだ向こう側に国の城壁が見えて。


 「ーこんなに綺麗な夕焼けなんですけどねー」


 同じ景色を見ていただろうリルの言葉に、私はあえて返答しなかった。するべきか迷った ともいえるかな。


 だから、私は代わりにこう答えた。あと1時間もすれば地平線に沈みそうな夕焼けを見ながら。


 「夜にならない内に帰ろっか」

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