第二話 異世界への旅立ち
「新栄シュウジ。あなたに与えられた
改まって俺のフルネームを言ったアサエルは、俺に二択を迫る。
来世か、異世界か。
案外死後の行き先の二択はイメージ通りだった。
という訳でその二択の説明をある程度聞いた俺が要約するとこうだ。
来世は言葉通りの意味。
生まれ変わり、赤ちゃんからやり直すということ。
異世界もまあ、言葉通り。
若くして死んだ人間が記憶と体の状態を持ち越し、俺が俺のまま召喚魔法が行われている場所に行くというもの。
かなり順当な二択なのだが、まだ語っていない来世の問題点と異世界の利点がある。
それが__。
「喜びなさい。あなたの担当天使は私様。勝ち組確定よ」
そう、これ。
俺の来世を決める重要な役割を、この天使が担っているということだ。
どうやら天使たちは人間社会の調和を図るため、ステータスを分配するゲームを行っているらしい。
そのゲームとやらの内容の詳細。
才能やら顔やらの初期ステータスを数値化し、他の天使たちとそれらを増減させる。
最終的な数値が生まれてくる赤ん坊のステータスになる。
そして世の中に出た人間の功績によってその人を産んだ天使の階級はあがる。
もちろん、才能があればあるほど功績は積みやすいし有利になる、というものだった。
ここで出てくるのがこんな疑問だ。
――来世をこんな天使に任せていいのだろうか。
親ガチャならぬ天使ガチャは大外れ。
碌なことになる気がしない。
これが来世を選んだ時の問題点。
来世の説明は以上で、次は異世界の利点だ。
まあ一言でいえばお約束があるということ。
そう、召喚特典である。
いる世界を変えるというのは当人にとっての負担が激しい。
故に天界からの救済措置として、召喚特典を貰えるのだ。
それと向こうの人たちに言語が伝わるか、という心配事もない。
何故なら天界翻訳があるから。
天界の計らいにより、脳内が勝手に向こうの言葉を日本語に変換してくれるようだ。
以上が、アサエルから開示されたそれぞれの選択肢の概要だ。
ちなみにアサエルが推称しているのは来世。
が、その理由はこいつが階級とやらを下げたくなく、俺が異世界に行くとそれを決めるゲームが不戦敗になるから。
ということで無視できる意見。
つまるところ__。
来世行きは天使ガチャ大外れの、惨めな人生確定。
異世界行きは言語問題解消の、召喚特典付き。
「じゃあ……異世界じゃね?」
情報を精査し、処理し、冷静に出た結論を口に出す。
それは異世界とかいう単語が放つロマンによって出された結論ではない。
冷静に考えてみて出した正解。
少なくとも、俺はそう判断したのだが――。
「はあ、これだから頭ステータス下振れ男は」
その俺の結論にアサエルは呆れたと言わんばかりに溜息をつく。
すごく殴りたくなる煽り文句とともに。
そしてそんな俺の怒りを嘲りながら、その長い指を二本立てて説明しだした。
「あなたの見落とし、二つ挙げてあげるわね」
その動作事態めちゃくちゃうざいのだが、一旦目を瞑って。
俺はなにか見落としているのだろうか。
その見落としを頭のなかで考えつつ、アサエルの答え合わせを待つ。
「まず一つ。担当天使が私様であること。私様は恐ろしく強いので、この天使ガチャ大当たりを逃すのは愚かとしか言いようがないわ」
何だろう。ゴミ情報が耳に入ってきた。
が先ほどから、というか天界に来てからずっとその現象は続いているのでまあ、無視する。
という訳で二つ目。
たぶん二つともゴミ情報なわけはないため、期待しよう。
「じゃあ二つ目。あなたが失念している最重要事項。すごいメリットがある」
「すごい……メリット?」
「さっき言った通り来世行きは私様にメリットをもたらせる。階級を決めるゲームを不戦敗にさせないんだから。もう、分かるわよね」
「いや、全く」
「はあ。察しが悪いわね。超絶サービスで教えてあげるわ」
まったく見当がつかない俺にアサエルは深々とため息を突く。
本当になんだ?
俺は何を見落としているんだ?
「私様への信仰心を証明できる」
くっ!! くだらねえ!!
そうして出てきた言葉は、ダニの糞ほど下らないものだった。
一つ目の情報が宝石や財宝と思えるほどに、二つ目の見落としとやらがゴミ過ぎる。
信仰心の証明?
まず信仰してねえし、こいつの何を信仰するんだよ。なに言ってんだこいつは。
「じゃあ今の私様の導きを授かったあなたにもう一度問うわ。どっちに行きたい?」
「異世界」
「……は? え?」
声にならない声が漏れ出る。
が、そこに悲しみや怒りなどの感情はなかった。
ただただ困惑。
俺のことを訳の分からない、物の怪でも見ているような目で見てくる。
そんな驚くことかよ。
自分の信用を下げていたのは自分だろ。
「……え? 嘘? 私様への、信仰心は? 忘れちゃったの?」
もはやツッコむ気力すら起きないボケが炸裂する。
忘れる信仰心なんてねえよ。
もともと信仰してないんだから。
「はあ、じゃあいいわ。あなたの愚かな決断を尊重してあげる」
「ありがとう。俺の賢い決断を尊重してくれて」
アサエルがため息混じりに俺の決断をディスる。
が、俺の異世界行を手伝ってくれるのならそれでいいので軽く受け流す。
「ああ。言ってなかったけど向こうで召喚魔法してなかったら来世に行ってもらうからね。だから最終的には運で左右するから」
「え!? マジ!?」
結構な重要情報。
確率によって俺の決断、全部パーかよ。
結局この世界、くじ引きで決まると再確認。
頼むから誰かやっててくれ!!
「あら。よかったわね。成功よ」
と、いきなり出てきた不安事項はアサエルのその一言によりあっさり解決した。
そして、すぐさま解決した問題に気を取られた俺は、重大な見逃しをしていた。
俺の足元に魔法陣が形成。
急激に光出した。
「なんだよ……ビビらすなよ」
安心感から、俺は光の粒を眺める。だが、違和感が脳裏をよぎる。
何か、決定的に忘れていることがあるような。
「あれ? 天からの特典って奴は……」
「あ……」
その見逃しをアサエルに問うと、彼女は表情をフリーズさせた。そして次の瞬間、大天使の威厳などかなぐり捨てて、顔を真っ青にする。
「忘れてた!! はやく!! 何でもいいから言って!!」
「急に言われても……」
次の瞬間、彼女は急に焦りだし、俺に決断の催促をする。
光もどんどん強まっていき、それが時間は限られていることを実感を持って伝えてくる。
散々妄想していたシチュエーションなのに、いざというときには浮かばない。
「最強の剣とか、無限の魔力とか、本当に何でもいいから!!」
「じゃ、じゃあ……」
頭が真っ白になる。こんな重要な選択を数秒で?
光はどんどん強まり、もう時間がない。
「最強の、剣!」
俺は咄嗟に口に出していた。
剣があれば――異世界で生き延びられる。たぶん。
俺の異世界ライフに直結する重要な選択。
もっとじっくり悩みたいところだが、何も言わなかった時の恐怖心と焦りから、アサエルが最初に出した例にすることにした。
「じゃあね。気を付けて」
という訳で手を振るアサエルに見送られ、異世界に召喚された俺。
そうして今、この地獄に投げ出された俺は、現状の打開に頭を回していた。
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