ある令嬢の日記
@Thisis
第1話 スーパーマー決闘
9月3日(快晴、おてんとさまを思い越す程の晴れ)
今日から改めて、日記をしたためる事に決めましたわ。令嬢式の新しい生活のスタートですから。
何を書くのかわからないなんてことはありません。少なくとも今日に限っては。今日なしたメイン・イベントはこれですこれ、お買い物。色々なものがお安いスーパーマーケットにて色々買ってまいりましたの。
お目当てのものもきちんとゲットできましたわ。お化粧のノリの良い日は何をやっても上手くいきますし、なんなら今日は、朝から絶好調でしたのよ。それも私以外の皆も。ユージ君による発電は瞬間最大風速ワットを叩き出し、レインボー様が作ってくださった朝食も普段の5割増しのおいしさ。更にお庭には岡っ引きさんまでお目見えいたしまして、土も気分も盛り上がりましたの。おみくじの大吉、いや、やっぱり大吉ばりのラッキーなハッピーを楽しんだ朝、なんと絶好調、これぞ絶好調。素晴らしきかな絶好調。
そのあとも絶好調を維持して、遊んだり踊ったり転んだり困ったり戸惑ったり彷徨ったり持ち直したり昂ったり返り咲いたりまた遊んだりとパワフルに暇な午前中を消化しましたの。しかしそのあと、お腹の空いた私が冷蔵庫を開け閉めしていた際に気が付きましたわ。中身が結構にすっからかんのがらんどうであると。先程の5割増しのおいしさの朝食の為に、レインボー様が中身の大半を使ってしまった様ですわ。超ショック!とまあ大爆笑のダジャレが決まったところで問題は片付きません。私は中身を買い足す事に決めましたの。ウラ紙用の紙ごみの山から最新のチラシを引っ張り出し、隅から隅まで目を皿のようにして確認致しました。その際に時折、ユージ君とレインボー様からのおねだりが飛んできましたので、日ごろのお礼も兼ねて我儘を聞いてあげましたのよ。ユージ君は自分用の充電器でレインボー様は麩菓子。後者は私の好物ですのでこっそり多めに……、だとか色々考えつつも、冷蔵庫の新たなお仲間候補を決めましたの。ヘッドハンティングの筆頭候補は大玉のキャベツ。なんと生産元が、先日命名したフェンシング選手の実家だそうで、思わぬところで縁があって驚きですわ!
買うべきものを決めた後、この外出を楽しんでやろうと意気込みながら愛車にライドオン。行ってきますと声をかけると、家の皆も返してくれます。グッドラックと!背中を押される気持ちになって、愛車を思い気りこぎ出しましたの。けれども思い切りが過ぎて、さしもの愛車も「ちょっと優しくこいでくれ」と困り顔。ちなみに名前はチャーリー君で、見た目そのままなのですの。彼は久々の出番に燃えていましたわ。
道端の花や垣根越しの庭木が成長しているのを見ながら、昨日とはさほど変わらないなと思っていたらちょうどスーパーマーケットに到着。「俺を置いていかないでくれ」とぐずる愛車・チャーリー君にちょっと待っての意を込めたキッスをして泣き止ませ、いよいよ入店とあいなりました。ゴールテープのように胸を張って堂々と入店してやりました。お店だけに店(テン)ションも上げて参りましたのよ。
店内はいつ見ても別次元。文字と人と言葉とお金に溢れた、無限走馬の大連シネラマと言った具合です。客は飽きないで店は商いという凄いダジャレ的一致を果たす店内、誘惑に弱い私は何もかにもに目移りしてしまうものですが、その都度レインボー様に止められます。いえ、止めてくださります。私の手があらぬ方に向かえば、頭と手首と二の腕と腰と肩をがしりと抑え掴みます。流石はレインボー様ですわ!そういえば彼は家に置いてきたつもりでしたが、”私ある所に彼あり”、という世界の常識を私は思い出しました。そうでしたわね。切っても切れないものでしたわよね。ともかく私のマリマリなハートにおける自制の肩代わりをなしてくれた彼に感謝ですわ。
その後も色々と買い物カゴに物を突っ込もうとしては止められて、当初の予定通りにと促されてと繰り返しつつも店を回り、おねだりされたものも買い、何だかんだで色々いって、店舗も終盤にあいなりました。ぐるっと回ったお野菜コーナー、そのドン超真高に位置するあれはキャベツ、またの名をキャベッジ、それかカンラン、ともかくお目当ての品ですわ!棚に残るは最後の1品がお目当てだとは、なぜだか気持ちもコーと高まるもの。レインボー様もうんずと頷き、私もそこに向かったその時、そこに手を伸ばす者が他に!そうそれはカデっちゃん。この辺では知らぬ者はいないとされるファイターですわ!葉虫も逃げ出す体躯と筋肉をもってして、私の手とキャベツの合間を回りくるりとねじ込み抑え、キャベツをどっかと持ち上げました。私の体もふわりと浮きますが、キャベツから手は離しませんわ、だってお目当ての品ですもの!目の前の1つの目標を達成できないで、何が令嬢ですか!何をしてでもこの買い物、希望通りやり通してやりますわ!最後まで投げませんことよ!
されども力の差は歴然で、筋力不足を後悔するばかり。以前教わった抵抗術を、試したものの効き目ナシ。そのままカデっちゃんはキャベツごと私をカゴにぶち込みましたの。四角く折りたたまれてしまいましたが、私の心は折れません。窮屈なカゴの中、揺られながらも頼るは、朝から続く絶好調。今日の私が負けるはずがありまして?いいえそんなことありませんわよ!あったとしても、私はそれを認めませんわ。万に一つに私が認めようとも、レインボー様はいかがかしら?
カゴの底より私ごと押しのけ、レインボー様が堂々登場!カデっちゃんは驚きバックステップ。カゴをおもちゃのように小脇に抱え、宙を舞うレインボー様。そのまま片手間に抗戦もなすという、本当に最高のマイティ―フレンド!防戦一方のカデっちゃんを尻目に、跳ねのけられた私はキャベツを目で追います。一緒にカゴから出たのならまだどこかに転がっているはず。さあどこに行ったのかと目を皿にして探したらば、確かに転がる床の上。緑葉がごろどろんと横たわり。
ああ、そうでしたか。そういう事だったのですわね!流石レインボー様!
キャベツから生えるは細長い繊維、それをたどれば行き着くは、レインボー様の上半身、つまりはそれは絶好調の賜物、そのキャベツこそがレインボー様だったのです。ずっと見守っていてくれたのです。今度はもっと分かり易く、というのは令嬢的ワガママが過ぎますわね。あなたへの感謝は留まり知らず!ありがとうと声に出した時、そこに立っていたのはやはりレインボー様。対するカデっちゃんは膝をついていましたわ。両者の健闘をたたえようとした際、レインボー様は全部の手を広げ伸ばしました。それぞれの手には大玉のキャベツが。そう、レインボー様は最初から、キャベツを確保してくださっていたのですわ。その姿は人智を卓越した慈悲の化身に映りました。私に1つ、カデっちゃんに1つ、そして周りの皆様にも1つずつ、更に余った分も戻して。私はカデっちゃんに謝罪と仲直りの意を込めたハグを試みましたが、どうやら彼は電話でお呼ばれがあったそうで、「次はこいつを試したい」と告げられて、レジ方面に駆けて行きました。それでもフィストバンプはしてくださいましたのよ。レインボー様と。一息ついた私達も、レジに並んでお会計ですわ。
マイバッグに買ったものを詰め込む際、私は感謝を述べました。今日は助かりましたわと、言い足りぬ程のありがとうを。レインボー様は目を細め、優しく声を送りましたわ。「今日"は"じゃなくて今日"も"でしょう」と。尻上りな冗談口調で私の頭をなでつつ、えらい手際で袋詰めます。流石レインボー様です。けどもけれどもだけれども、私だって、頼るよりは頼られたい、頼りになりたいものですわ。
スーパーマーケットを出れば、「寂しかったよ、待ってたよ」と飛びついてきそうなチャーリー君。実際にそうでしたから、目を見て微笑み撫でましたわ。レインボー様式ですわ。チャーリー君の嬉しそうな事!これではまたがるのもどこか気が悪いというもの。ゆったり歌って押して歩いて、ののんののんと気づけば家路、浮きし夕日は感情隧道。
玄関を開ければ、ユージ君とレインボー様がお出迎え。チャーリー君も一緒なって、買い物整理を終えたところで、気づけば今に至りましたわ。
満ちたりた一日、賑やかな一日、楽しすぎる一日、何日分にもわたる一日をくださりまして、皆様、特にレインボー様、本当にありがとう!本日も素晴らしき一日でしたわ!
ええとそしてユージ君、物凄く申し上げにくいのですが、充電器のこと忘れてしまいました。これは本当に申し訳ありませんわ!
そのあと結構叩かれました。
お詫びに私の麩菓子、は多分食べられませんでしょうから、お勤めの発電をお手伝いいたしますわ!
(第1話・終了)
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