下
五 次の日の朝、私は始発で家に帰った。そこでの私の様子は無論昨日と変わらなかった自宅の最寄り駅に着いてからも、商店でシロップを買う時でも、そこから自宅への道でも、全ての人間を恨めしく思っていた。
やっと自宅の玄関までたどり着き、急いで鍵を開けて、かき氷機が入ったダンボールを良い布団の上へ置いた。この城に入ってしまえば、誰であろうと取られる事は無い。私はそのかき氷機に上座を受け渡した。
その箱を開けて、かき氷機を取り出し、水道で溜まった汚れを流した。そして蓋の中の空間に粒の氷を並々に入れ、刃の真下に皿を敷き、蓋を閉めて回した。
静かな家の中では、あるまじき騒音と共に、目の荒い氷の欠片がばらばらと落ちてきた。それが山になったところで手を止めて、皿を取り出した。その山の頂上を目掛けてブルーハワイのシロップをかけ、スプーンで掬って食べた。
甘いというのが最初の感想だった。ブルーハワイの爽やかな雰囲気やかき氷の冷たさよりも、シロップの糖分に参ってしまった。あの頃はこんなものを良くも平気で食べていたなと思い、2口目を掬った。
六 食べているうちに、例の頭痛が時たま押し寄せるが、これがなにかに似ていた。眉間を手の甲で抑えながら考えてみると、昨日の殴られたような感覚に似ていたのである。あの時の感情はどんなものだったのかは形容し難いものであるが、それから更に似ているものを探るとしたら、あの光の舞だろうか。
そうだ。それだ。懐かしいのだ。その答えを思いついた途端、今までの悩みはなんだったのだろうかという感覚が芽生えた。答えは既に何回も出ていたのだ。
あの時私が見ていて、見慣れたもの。あの時私が居て、居慣れたもの。
あの時の私がこのかき氷を食べて、何よりも先に感じ取ったことは、楽しいというものだったんだろうな。
あの時、あの人と同じ空間で食べたかき氷は、もう食べれないのか。
私はこれらの考え事をかき氷機の騒音で紛らわした。積もりに積もった氷の鱗がついにこぼれ落ちても、私はその騒音を途絶えなかった。
私は顔をぐちゃぐちゃにしながら、その騒音を絶やさなかった。
かき氷 犬猫あれとぴー @arigaK10
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