るぅのおひとりサマータイム
新浜 星路
るぅのおひとりサマータイム
目が覚めると、ワクワクしてくる。
カーテンを明けて、うん! 良い感じ。
絶好の海日和っ!
外はうみうみー。ウキウキの気分で私は着替えて、水着に着替え、浮き輪をそうちゃーく。麦わら帽子をかぶってさあしゅっぱーつ!
外にでたら海の匂いがふわっと広がり、白い砂が道にかかっていて、私をさらにワクワクさせる。
「今日も海日和だっ」
きっといま私の顔を誰かに見られたら変な人だって思われちゃうかも。
でも今日はとくべつ。
真っ青な青空の下でパラソルを敷いて寝るっ。
泳ぐのもいいよ? 冷たい海水に身体をあずけてぷかぷかするのもきらいじゃないし。
でも今日はあっとーてきにひなたぼっこ。これは欠かせないのだ。
パラソルで影を作り、ビーチベッド。で! 寝そべる~。
私はそれだけじゃ終わらない。
前もって用意した自家製はちみつドリンク(トロピカルスペシャル)でカンペキですっ。
ごくごく飲むと、南国に来た気分! 海風も気持ちいい。よてーへんこー。
いつもは、おちびちゃん達がいるから一人の時間もないけど、今日は一人! こっそりオシノビ私のサマータイム。気分ものってきたし、そろそろ泳ごうかしら。帽子をかぶり、浮き輪をもって、しゃりしゃりしゃり。サンダルで白光する砂を踏んで、ちゃぽんと着すーい。浮き輪の穴におしりをつけて浮き輪にぷかぷか。潮の香りが気持ちいいー。
風の吹くままに私も浮き輪でプカプカ。気持ちいい風にのって、ぷかぷかぷかぷかぷぅかぷぅか。私の気持ちもフワフワどこかへ。穏やかな波の音が、いつしか、私が母親に連れられてきたばかりの事を思い出す。あの時はまだキプちゃんも小さかったな。それから、それから……。
浮き輪に寄りかかりながら、おひさまと波の音と潮のにおいに……。
ぷくぷく、なぜか私に水中の音が聞こえる。ぷくぷく、どこか心地よい。
珊瑚がところどころに生えわたり、魚の群れが私の目の前を横切っていく。
そこに不気味にこちらへと向かってくる一匹のサメの口から顔が出てる……ひなたちゃん?
「おうい、ルゥ姉!」
サメの口から顔を出したまめひなたが泳いでくる。
「あれぇ……ひなたちゃんてそんな感じだったっけ」
「ちがうよ! これはサメのぬいぐるみだよ! 見よ! このカムフラージュ! ボクがサメにしか見えないでしょ」
「どう見てもひなたちゃんがサメに食べられてる様にしか見えないわ」
「フフン、サメひなたと呼ぶのだ!」
「そんなこわい名前にしなくても」
「これがかっこいいんだよ」
「そうなのね、そうなのかも。ところで私はなんで人魚になっているのかしら」
「るぅ姉は、自分が人魚だということも忘れたの」
「わたし、人魚じゃないわ。こぐまだもの」
「コグマ? それは、シャケを食っちまう、あのでかいやつ? そいつはすごいな。そんな足でどうやって襲うのさ」
ひなたちゃんは、私の魚の足の周りをうろうろ。
「こまったわ、私、こぐまなのに。あなたは犬なのよ」
「今日のるう姉は何かおかしいね、まぁいいけどさ。君は人魚さ、そして僕はサメ。で、今日は何して遊ぶ? るぅ姉さん」
ここまではっきり言われるとどこか心細いわ。本当に私が人魚なのかもしれない。
「どうにかしなきゃ」
「どうって、どうすりゃいいんだろうな。なあ、キプフェル?」
「え、キプちゃんもいるの? どこ?」
辺りを見回しても、サンゴと小魚くらいしか見えない。
「おいおい、キプフェルの事も忘れちゃったの、
ホラ、ホラそこにいるじゃん!」
ひなたちゃんのサメの手が指す先には見えない。
「え?どこ? 私には小魚やサンゴにカニしか見えないわ」
「そのカニが私よ」
カニがくるっと振り返ると、カニの目がキプちゃんの目でうごいてる。
「キプちゃんて、猫じゃなかったの」
「何を言ってるの。私はカニよ。カニカニカニッ」
カニキプちゃんが私の眼前に迫ってくる。
「カニよカニカニ。カニよカニカニ。カニよカニカニ。カニよカニカニ。カニよカニカニ。カニよカニカニ。カニよカニカニ。カニよカニカニ。カニよカニカニ」
何度も繰り返しながら私に迫ってくるカニキプちゃん。
ああああっ。なんなのこれ~。私は、カニキプちゃん、に囲まれながら――。
「あっ」
あれ、私、いつの間にか、寝てた?
ざざーんざざーんと波の音が聞こえる海岸にいて、砂浜に私の身体の後がくっきりついていた。
頭上に透き通った青が広がっていて、日の光が眩しくて私は手をかざしていた。
「あれ、ここは」
見知らぬ場所。海か、ジャングルみたいな植物いっぱいのところしかない。
「誰かいませんかあ?」
呼びかけてみる。
「誰かいませんかああああ」
大声で呼びかけてみる。私の声が遠くで3、4回聞こえたところで終わった。
ここには人がいないのかな。植物がおいしげったほうを見る。
ああ、やっぱり島内の中に行くしかないのかな。
鳥の鳴き声が聞こえてくる。
あぁ、これは、大変なことになったのかな。私はちょっと危機感が足りない。
よく忘れ物をして、キプちゃんにも「るぅ姉また忘れてる!」とか言われちゃう。
今回も帰ったらキプちゃんになんか言われちゃうかもなあ。
私は林の中へと進んでいった。
鳥の鳴き声がぴいぴいと頭の上で聞こえる中、私は草をかき分け、前へ前へと進む。
私は今になってこの状況が心細くなった。
旅行にバカンスは大好きでトランクひいてどこまでも行けるにしても、無人島かもしれないところに一人でぽつんはつらい。はやく、きぷちゃんやひなたちゃんに会いたい。そんなこと考えて、前へ前へ、草をかきわけるも、私は島の怖さを知らなかった。
シュウウウウウウウ。あまり聞こえない音が耳に入ってくる。初めは気のせいかと思った。私の聞き違いだろう。いつだって私は聞き違いするし。ぼけっとしてたりもするし。うん、きっと聞き違いだ。
私はなんとなく足早にまた歩き出す。草をかきわけ前へ前へ、
フシューとなにかの生物の呼吸のようなブキミな音が私に近づいた気がした.
これはやばい。はやくはやくはやく。私は普段走らないけど、気が付けばいつもより足は動いていた、はずなのにいいいいいい。変な音も遠ざかるどころか近づいてくるううううう。
私が聞いたことないその音がついに背中まで届いたその時、私はつまづいていた。
自分の身体が宙に浮く感覚がわかる。そしてそのまま私は顔から泥につっこんだ。べちょ、って音がした。
いたた……天然泥パックだよー、最悪だよ!
べちょべちょ、ってそれどころじゃない!
逃げなきゃ!
私が手をついて身体を起こそうとしたら、目の前には誰かの足が!
「クク......愚かなこぐま。メーマメーマ族の領地に踏み込むとは命知らずな!」
めーまめーま族?
頭上で喋る声の主を、こわごわ見上げてゆく、そこにはお面をつけた、小さな子がいた。毛皮に覆われ、尻尾もあるみたい。
「ククク」
お面をつけた、幼い声をした主は怪しげに手を振りかざしてくる。
「ひなたちゃん? ひなたちゃんじゃない?」
その声が聞こえたのか、ひなたちゃん(仮)は、
仮面を外した。
「おれ、ひなたじゃない。メーマ族のメーマノビノビサンサーンだ。サンと皆は呼ぶ」
「え、ひなたちゃんじゃないの。そんな小さくてもふもふの尻尾で違うの?」
「だから、メーマノビノビサンサーンっていっておるじゃろ」
ひなたちゃん、じゃなかった、メーマサンだった。
「メーマサンはここで何を?」
「オマエを村につれていく」
「はい? どういうこと……ああっ」
私はメーマさんに担がれてしまった。
「いえいえ、私食べてもおいしくないですよ、熊ですし」
「それは村長がきめるコト」
「え、そ、村長!?」
「ソウダ、フ=エルゾ=キプキプ様だ」
「ふ……える……きぷ……? なんか聞いたような名前?」
私はへんてこな民族に捕まってしまったようです。
こうして私は島の村へと運ばれました、磔にされて。
「族長! キプ族長様! いいエモノをとらえてまいりましたっ」
「ほう、どれどれ」
ききなれた声のやり取りがするけど、顔までしっかりくくりつけられて向けないよっ。
「これは、なかなか、フサフサの毛の若いメスグマか」
誰かが私をのぞきこんだ。それで、キプちゃんの顔をした白髪の――。
「きぷちゃん! 助けて!」
「村長? お知り合いで?」
「身に覚えはないぞ、メスグマ」
うーんどうしたらいいの。
「どうしますか! このメスグマで何料理にします?」
よだれをたらすメーマさんは、もうひなたちゃんにしか見えないけど
私はもうそれどころじゃない!
じたばたしても縄はとれない!
「うーん、うーん、うーん」
村長さんは深く考えてるみたい。
「クマ汁にでもします?」
「クマ汁かぁ……キプキプ」
きぷきぷ言ってる! やっぱり一族なのかしら。
「では鍋をもってきますね!」
「ちょっとまれい! まだ鍋ときまったわけじゃ!」
メーマさんは鍋をとりにどこかへいってしまった。
「ああ、いってしもうた。クマカツがいいかと思ったのに」
今がチャンスかも。
「そ、村長さん! 私を助けてくれませんか」
「キプキプ、ダメじゃ」
「そこをなんとか」
「ダメといっておるじゃろ」
「キプちゃんじゃないの?」
「違うといっておるじゃろ!」
なぜか、私の視界は自由に動くようになった。
「あれ、動ける」
「もう我慢できん、ここで食すキプ―!」
ナイフとフォークを握ったキプ村長が私に向かってくる。
自由に動けるようで逃げれない私の身体、なぜか私の視界は
村長と暗闇。キプ村長と暗転が今後に視界を襲ってくる。
き、きもぢわるい。
いつの間に視界は暗闇だけになってた。
ざざーん。ざざーん。ざざーん。
波の音が聞こえる。
私は目が覚めた。
「夢かぁ、よかった」
目が覚めた先はもう、海底でも知らない島じゃなくて、私のお家付近の見慣れた海岸でした。もうすっかり紅みがかってきて、夕方なんでしょうね。
私は浮き輪に寄りかかっていて寝てた。なんでだろう。
「ルゥ姉ー!」
ひなたちゃんが叫びながら走ってくる。
「あれ、メーマさん?」
「メーマ? 誰それ? 元気印のひなたちゃんを忘れた?」
ひなたちゃんは、身体をシュバババという音をたてながらも、色んな身振り手振りをしてくれた。
「ううん。私はひなたちゃんを忘れないよ」
「もう一人いるけどな!!」
ひなたちゃんの視線の先には、砂浜でスヤスヤと寝てるキプちゃんでした。
「ボク達ケッコー探したんだよ? でもいないんだもん。キプフェルは寝ちゃったよ」
「ごめんね、そろそろ夕飯の時間だよね」
「じゃあさ! 今日は、アッキョ卵のオムライスがいいな!」
「そうしましょうか」
いつもの日常が、帰ってきて安心安心。
「キプちゃんかえるよ?」
「ふぇ? さかな? たぬき、じる?」
これは、、、もういいよっ!!
終
るぅのおひとりサマータイム 新浜 星路 @konstantan
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