良い終末を

逢初あい

夜明けの火

ベッドの縁で充電されている端末から流れる小気味のいいアラーム音で少女は目を覚ました。微睡む目を擦りながら、彼女はベッドから起き上がり部屋のカーテンを開けた。外はまだ薄暗く、家の前の道には人通りはほとんどない。時折、野犬が吠える声や鳥のさえずりなどは聞こえたが驚くほどに閑静な住宅街だった。少女は部屋を出て、洗面所へ向かう。朝の支度を済ませ、リビングのある階下へと降りていった。既に両親はリビングにいた。父親はテレビの前のソファに座りニュース番組を見ていた。母親はテーブルに着き何か飲んでいる様子だった。少女は、おはようと声をかけたが両親は無反応だった。それどころか、身動ぎ一つせず少女の方に視線すら向けなかった。少女はそれを機にする様子もなく自らの食事の用意を始めた。少女は母親の斜め向かいに座り食事をし始めた。先程まで少女に見向きもしなかった母親が少女の方を向きこれまた身動ぎひとつせず、じっと少女を見つめ始めた。その視線に、少女は幾度かちらっと母親の方を見たがどこ吹く風と言った様子でさっさと食事をたいらげ片付けを始めた。

少女は部屋に戻り、支度を始めた。黒のセーラー服に着替え必要なものを鞄に詰め込み、出かける準備を済ませる。再びリビングに戻ってきた少女は、テレビの前に陣取っている父親の目の前をなん度も横切り作業をし始めた。先程まで身動ぎひとつしなかった父親だったが、少女が前を横切るたびに踵で床を鳴らし始めた。しかし少女は、素知らぬ顔で何度も何度も同じことを繰り返した。

そう言えば、と少女は思い出したようにスカートのポケットに入れた端末を取り出しなにやら調べ始めた。少女は、今日がゴミ出しの日であることを失念していた。出がけにゴミを出していかなければならない。そう思い、少女は棚のような所に置いてある置物や装飾品を母親が着いているテーブルの上に持って行き、大きいものなどは細かくしながらゴミ袋に入れていった。母親が、体を戦慄かせているようにも見えたが、気のせいだろうと思いさらに作業を続けた。

 全ての準備を終えた少女は、再び部屋へ行った。普段は掛けないメガネを掛け、窓の外の景色を見た。先ほどよりは明るくなってきたが、それでもまだ薄闇に包まれていた。少女は端末を取り出し、窓から見える景色を写真に収めた。少女はマスクをつけ、玄関へ向かう。リビングの方から何かを叩く音や何やら叫び声のようなものが聞こえる。しかし、少女は気にする様子もなく玄関を開け外に出た。気持ちのいい空気だ。家の前の道まで歩み出てマスクを外し大きく息を吸い込んだ。丁度その時朝日が差し込んできた。少女は気分が良くなり、足早に歩き始めた。もうすぐ時報のなる時間だ。端末の時刻を見ながら歩いていると、それは大きな時報が少女の背後から聞こえてきた。

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