そうだ、地球侵略しよう

蒼鷹 和希

初めての実践


 ——ある時、男の前に宇宙人が現れた。


「ワタシハ……チキュウシンリャクヲシテイル」

 男は見たことのない生物に驚く。

「なんだ……?こいつ」

「オマエニハ、ワタシノケイカクヲテツダッテモラウ」

「俺はそんなことしない!」

 何だこいつ……。夢か?

「フフフ、フタリガドウナッテモイイノカ?イヤナライウコトヲキケ」

 現れたのは、男の妻と娘。娘は怯えて妻にしがみついている。

「あなたっ……!」

「パパぁ、たすけて!」

 悲痛な二人の叫びに、男は腹を括った様に言い放った。

「どうなっても、いい」


「「「え?」」」


 宇宙人と人質たちは、揃って声を上げた。

「ドウナッテモ……イイノカ?」

「ああ。妻はどうなってもいい」

「ただし、娘には手を出すな」

 夫の発言が信じられないといった表情で、青くなった妻は恐る恐る訊ねた。

「あなた……?嘘はやめてよね」

「本当だ。妻は年老いているから大丈夫だ。そもそも最近自分磨きもやめてただのババアになった自分を棚に上げて俺に不満をぶちまけて、その上娘にも過干渉でうざいんだよ。誰に養ってもらっているかも忘れたやつには、それ相応の報いがいるだろ。それより娘は大事なんだ。妻はどうなってもいいから、娘を返せ」


「「「えっ?」」」


 再び、宇宙人と人質の声が重なる。

「パパ……?ママは…………?」

「ホントウニ……イイノカ?」

「ああ。早くやってくれ」

 なぜか宇宙人は、言われるがままに光の灯った指先を妻の額に当てた。

「あなたっ……ぁああああぁぁァァァ!」

 妻は一瞬のうちに消え去った。もはや娘は茫然としてへたり込んでいる。

「……イヤ、ヨクナイダロウ!カゾク……ナンダロ?」

「いいんだ。年老いた者が若い者を守るのは当然だ。それに俺は、可愛い娘を守れただけで十分幸せだ。妻もそうだろう」

「コノホシハ……ミンナソウナノカ?」

 宇宙人は、既にこの星の侵略を諦め始めていた。

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そうだ、地球侵略しよう 蒼鷹 和希 @otakakazuki

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