第9話

「え? あれ無視して釣りするの?」


 釣りをしようとした俺に、エミルがそう言ってきた。


「あれはあとで切り崩す。一度釣りを準備してやめることは出来ん」

「た、確かに……一度始めようとした修行は、そう簡単にはやめられないもんね」


 ただただ、めちゃくちゃ釣りがしたいという欲にまみれた理由なのだが、エミルは良いように解釈したようだ。


 湖に糸を投げ入れた瞬間、速攻で引きが来た。


 な、何? こんなにすぐかかるとは。


 今日は、大量の予感――!!


 俺はワクワクしながら、竿を引き上げた。


「……何だこの魚」

「変な色の魚ね。初めて見た」


 釣り上がった魚は、マーブル模様をした妙な魚だった。


 何という妙な模様をした魚だ。

 まさか新種か? 

 大発見か?


 いや……待て……

 このマーブル模様。

 ちょうど、あの塔と同じ模様だ。


 何だか嫌な予感を感じ、俺は魚の頭を斬り落としてみた。


 血も何も出ない。

 中身は空洞だった。


「変な魚ね。中身何もないんじゃ食べられないじゃない」

「食べれる食べられない以前に、こいつはもはや魚じゃないだろ……」


 中身がないとは生物かどうかも怪しい。

 俺は糸をもう一回垂らしてみる。


 すると、またも速攻で魚がかかり引き上げた。

 さっきと同じ、マーブル模様の魚が。


 どうやら湖の中に、この謎の魚が大量発生しているようだ。


 こんなダボハゼより簡単にかかる魚が大量にいたら、釣りなんかまともにできない。


 昨日までこんな魚はいなかった。


 考えられる原因はただ一つ。


「あの塔か……」

「……あ、なるほど……魚と塔の模様がよく見れば一緒だし、あの塔が原因でこの魚が湧いていると考えられるわね。ライズは頭もいいのね!」


 そんなん誰にでも分かるだろ、お前が馬鹿なだけだと思ったが、口にはしなかった。


 この湖で釣りが出来なくなるのは困る。

 距離に関しては、俺は移動速度が速いので、別にほかの場所で釣っても問題はない。ただ、この湖は、質のいい魚が釣れる割に、人がほとんどこない穴場なので、重宝しているのだ。ほかに釣り人がたくさんいる場所での釣りは、なるべく避けておきたい。


 とにかくここで釣りが出来なくなったら困るので、あの塔を調査する。

 問答無用に切り崩してもいいが、それだけだと魚の発生を止められない可能性がある。塔の中を調査してどうにかしなければ。


 早速俺は浮遊魔法を使い浮かび上がって、塔に近付いた。

 エミルも同じく浮遊魔法を使用して、俺に付いてくる。


 近づくと、塔には窓があることが分かった。

 窓を一つ叩き割って中に入る。


 塔の中は塔の中は、どこに光源があるのか分からないが、なぜか明るかった。


 建物内から見ても壁の色はマーブル模様だった。

 四方八方、気持ち悪いマーブル模様に囲まれて、正直長居したくなるような場所じゃない。


 すぐにあの謎の魚が出てきた原因を特定して止めければ。


 俺とエミルは、塔の中の調査を開始した。




「うーん、気持ち悪い模様が続くだけで……何もないわね」


 歩き続けたが何もなく、ずっとマーブル模様を見せられ、気が滅入りそうなってしまう。


 塔の内部構造は入り組んだ迷路みたいになっており、非常にめんどくさい。

 壁を破壊しようとも考えたが、何があるか分からないので、ここは慎重に進むことにした。


 それからしばらく歩行を続けると、上に行く階段を発見した。


「登る?」

「最上階に何かあるかもしれないし、登った方が良いだろう」


 俺たちその階段を登る。


 上の階も、何もない空間が続いた。

 ひたすら迷路を歩き続け、階段を発見そこも登り、どんどん上の階に登っていった。


 階段を五階登り、部屋の探索をしていると、


「……何あれ?」


 前方に何かを発見した。

 赤い発射ボタンの様なものだった。

 押すとまずいことが起きそうではあるが、それでも押したくなるような形をしている。


 正直、罠にしか見えない。

 俺も馬鹿な子供ではないし、こんな見え見えの罠に引っかかるわけ……


「ポチっと」

「おい! 何押してんだ!」

「あ、ごめんなさい。遂ね……」


 苦笑いしながらエミルがそう言った。

 何と短慮な女だ。


 何が起こるか警戒していると、壁のマーブル模様が変化し始めた。


 魔法文字(ルーン)がびっしりと壁に刻まれる。


 俺はその文字を一部だけ見て、これは爆発を起こす魔法文字(ルーン)である可能性が高いと判断した。


 これだけ壁にびっしり魔法文字(ルーン)が刻まれているとなると、本当に爆発を起こす魔法だった場合、その威力は絶大だろう。


 それでも、レベル9999になった俺には通用しないだろうが、エミルはどうなるかは分からない。


 俺は瞬時にそこまで思考を張り巡らせ、上級防壁(ハイ・ガード)の魔法を使用。


 透明の魔法で出来た壁を作成する魔法だ。

 物理攻撃も魔法による攻撃もどちらも防御する魔法で、今の俺の魔力で上級防壁(ハイ・ガード)を使えば、どんな協力も攻撃も通さないほど強固な壁となる。


 エミルを多い囲むように、壁を張り、爆発が一切通らないようにした。


 壁を張った数秒後。

 俺の予想通り、壁に刻まれた魔法文字(ルーン)は、爆発を引き起こす効果があったようで、大爆発が起こった。


 爆発の威力は、俺の予想よりも大きかったが、とはいえ今の俺にダメージを与えるほどではなかった。

 上級防壁(ハイ・ガード)の方も傷一つついていなかった。

 生身の状態でエミルが今の爆発を受けたら、高位の冒険者とはいえ致命傷は避けられなかっただろう。使っておいてよかった。


 爆発が起きた後、壁や床が崩れ始めたので、浮遊魔法を使って宙に浮き、一旦塔の外へと脱出する。エミルも俺の後に続いた。


「さっき、壁張ってくれたの?」

「ああ。あの爆発を直に受けてたら、死んでただろ」

「べ、別にあのくらいで死ぬはしないし……ま、まあ、でもちょっとは痛かったと思うから、一応お礼は言っておくわ。ありがとう」


 かなり強がった様子でお礼を言ってきた。

 本人が耐えられたというのなら、そう言う事にしておこう。


「というか、お前、普通押すか? 罠にしか見えなかったぞ」

「う……いや、だって押したくなるじゃない……」


 気持ちは分からんでもないが、それでも普通は押さないんだよ……


 空から塔の様子を眺めていたら、崩れ落ちていくマーブル色の塔が、徐々に黒く変色していった。


 最終的に真っ黒になって、黒い球体になり湖の底に沈んでいく。


 すると、湖の水までもが黒く変色していき、真っ黒い球体に吸収されていった。


 最終的に湖の水が全て吸い込まれ、湖はただの穴となった。中央に真っ黒の球体は残ったまま動かない。


 一体何が起こったのか、すぐに理解することは不可能だった。


 数秒してようやく事態の深刻さを理解する。


 湖が……なくなった。


「な、何か凄いことになったわね……湖がなくなっちゃった」


 エミルは軽い口調で言ったが、俺は相当焦っていた。

 湖がなくなるのは非常に困る。


 今、起こった現象は一体何なんだ。


 魔法か……? 


 いや、正直、あんな現象を引き起こす魔法は、見たことも聞いたこともない。


 となると……


 ――魔物の仕業


 それ以外考えられない。


 Bランク、いや魔法の規模から考えてAランクの魔物がゲートを通ってやってきて、あの気味の悪い塔と建て、あの現象を引き起こしたに違いない。


 目的は不明だ。

 元々魔物の目的なんて、人間には予想することは難しい。

 知性はあるとはいえ、思考回路的にはぶっ飛んだ奴らがほとんどだからな。


 湖は黒い球に吸収されたが、もしかしたらこの現象を引き起こした魔物を捕らえれば、湖を元に戻すことも可能かもしれない。


 何の恨みがあるのか知らんが、俺の湖を更地にしやがって。



「絶対に許さん! 後悔させてやる!!」


 

 俺は大声で叫んだ。

 

 

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