第21話 Day.21 海水浴

 その日は何故か、恋さんと祭さん、更には錆さんも揃って、皆で夕食をいただいていた。

 素麺と各種天ぷらを食べながら、皆でバラエティー番組を見て、茶々をいれていたりしてたのだ。

 夏のレジャー特集らしく、話題のスポットなどを紹介していたのだが、どこかの海辺の街が流れ出す。

「うわぁ!綺麗な海!」

 声をあげたのは恋さんだ。

 青い海に、目をキラキラと輝かせている。

「いいなぁ、海なんて、ずいぶん行ってない!」

「この時期行ったって、人を見に行くようなもんだよ」

 反論したのは祭さんだ。恋さんとは逆に、海にはひかれないらしい。

「海辺の街は、魚が旨い」

 錆さんがボソリと言う。

「あー、それはそう!」

 祭さんは頭を抱えた。海水浴に興味はないが、海の幸には負けるらしい。

「この辺だと、海水浴はどこに行くんですか?」

 海と言えば、俺の中では九十九里、館山、もしくは湘南方面なのだが。

「んー。丹後の方とか?あと南紀白浜まで足伸ばしたり」

 丹後、って海の方なのか。南紀白浜は、和歌山だっけ?紀伊半島の下の方、だよな。

 どちらも地名は知っているが、行ったことはない。

「今度、皆で行かない?海ー!!」

 テンションが上がった恋さんが叫ぶ。

「旨い海鮮に、酒があれば」

「魚は食べたいな」

「海か……」

 正直なところ、海は余り良い思い出がない。

 最後に行った海水浴は、泊まりがけで行ったのだが、夜になるとヤツラが出てきて、大変な目にあったのだ。

 海に行く度にそんな目に合うので、楽しい思い出き「行こうよ!京義たかぎくーん!」

 恋さんが肩に手を回し、ガクガクと揺さぶる。

「楽しいよ!絶対!」

 このメンバーで行けば、それは楽しいだろう。

 けどなぁ。巻き込んだら、申し訳ないし。

京義たかぎ君」

 その時はくどーさんが、静かに呼んだ。

「はい」

「行ってきたらどうえ。この人達と一緒やったら、きっと大丈夫」

「え、でも」

「ね?」

 優しく微笑まれ、俺はこくりと頷いた。

「……はい」

 それを見た恋さんが、ばんざーい!と両手を上げて喜ぶ。

「やったー!じゃ、いつにする?どこ行く?白浜、行っちゃう?!」

「いや、そんな遠くまでは」

「魚が美味いところがいい」

「白浜なら、動物園も行きたいなぁ」

「いいじゃん、それ!行こう行こう!」

「え、ちょっと待って」

 テンションが上がった恋さんは、あそこに行きたい、これが見たいと言い始め、錆さんと祭さんは、地魚料理の美味い店を探し始めた。

「は、はくどーさん、あの」

「うん。気ぃつけて、いってきてな」

「……え?」

「僕は留守番してるさかい」

 にっこりと微笑まれ、俺は言葉を失った。

 この三人と一緒なら、楽しいだろうけど。

 振り回される未来が見えて、俺は一人頭を抱えた。

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