第24話 それぞれの結末

「晴れていて良かったわね。神様も娘達を祝福しているみたい」


「ええ、本当に。まさかこんな未来が来るなんて……うっ、グスッ、良かったです。こんな時に泣くなんて、駄目ですよね。でも嬉しくて」


「良いんですよ、ナルシーさん。みんな、嬉し涙だって分かってますから」


「ありがとうございます、ミルカさん。私達の、私とビルワのせいで、大変なめに合わせたと言うのに……やさし過ぎです、うわぁ~ん」



 咽び泣くナルシーに、ミルカも声を詰まらせた。

 親の魔の手から逃れる為に、恋人であったマースと逃亡したナルシー。

 既にラブロギ国王では死亡扱いされており、本当はこの世にいない存在となっている。


 今いるナルシーは、男爵位を持つ冒険者マースの平民出身の妻(男爵夫人)である。ただジルパークン王国では社交界はなく、公で姿を見せなければならない機会はない。

 それは彼女が、元の家族と会うこともないと言うことだった。


 ナルシーの子爵家の家族(彼女の両親と弟)は、当時王家に睨まれ嫁の来てがなかったボルケに、ナルシーを売り払い大金を得ていた。さらに離婚の話を聞いた両親は、彼女を酷い男尊女卑と暴力を振るうことで有名な、年寄り男爵の後妻にしようと画策していたのだ。


 まあ、逃げたくもなる。

 逃走計画を立てたのも、致し方ない結果だった。


 それでも辛い。

 愛しい娘と離れ、遠く離れて暮らすのだから。



 そんな状況を乗り越えて、今日があるのだ。




 それを思えば、自分は幸せだと思うミルカだ。

リンダには長く真実が話せず、辛い思いをさせてきた。娘の犠牲の上に成り立った生活だったが、リンダは恨みごとも言わず、「略奪とかでなくて良かった」と全てを知って、安堵していた優しい子だ。


「私も幸せです。お互いに可愛い娘ですもんね」


 思わず涙ぐんでナルシーを見れば、うんうんと何度も頷く彼女。



「これからどうなるかは娘達次第ですが、自分で選んだ相手だから頑張って欲しいですね」


「ええ、本当に。でももし離婚しても、私は娘の味方ですわ。いっそ、ずっと親子水入らずで暮らすのも良いかも」


「もう、ミルカさん。今からそんなこと言うなんて。ふふっ、でもそうですね。孫と娘と私達で暮らせれば、気も使いませんね。あらっ、何か素敵」


「ね、ふふふっ」

「はい、うふふっ」



 そんな新婦の母親達に、ロベルトとリキューの妻達が声をかける。


「妄想もそこそこにしときなよ。夫婦円満が一番幸せなんだから」


「そうだよ。娘達が聞いたら、泣いちゃうわよ。まあ、気持ちは分かるけれども。逆に婿側が今のを聞いたら、冷や汗が出てるわよ」


「そうですよね。すいません」

「イスズに文句はないんだけど、取られた気分になってしまって。私の可愛いリンダが傍にいなくなるなんて、信じられなくて……」



「まあさ、私達も経験者だから分かるよ。でもね、孫が生まれたら娘は二の次になるよ、きっと。楽しみに待っててごらんよ」


「はい……」

「寂しいけど、そうするわ」



 漸く納得したナルシーとミルカは、ビルワとリンダの準備室へ向かった。



「ボルケ。先に言っとくけど、俺は慰めの言葉は言わないぞ」

「分かってるし、お前からは聞きたくない。言われたら殴りそうだから、止めてくれよ」


「だからしねぇって。めんどくせえな、こいつ」


 ひっそり潜み会場の警戒をしていたボルケとリキューは、先程のナルシー達の愚痴を偶然聞いていたのだ。 


(娘と孫と暮らす……か。良いな、それ!)



 予想以上にその案に乗り気のボルケに、リキューは呆れ顔だ。

(ミコットとイスズが不憫だよ。いくら娘が可愛いからと言ってもさ。まあ口は出さんよ、所詮は妄想だし。あのカップルの熱愛ぶりを知らないらしいな。御愁傷様だぜ)


 いや、ボルケは知っている。

 知っていての妄想だった。


(浮気、ギャンブル、喧嘩でも良いな。何かやらかした時は即離婚を奨めるぞ。ワハハハッ)


 けれど泣いていないボルケに、少しだけホッとするリキュー。

(まあ、仕方ないな。家族のこと大好きだもんな)


 彼は兄だけを贔屓する冷たい家庭で育ったボルケのことを知っているだけに、多少変わった形ではあるが幸せを手に入れたボルケの気持ちも理解できていた。


 勿論、理不尽なことをするボルケではないことも。




◇◇◇

 そんな感じで関係者だけを集めた、教会での式は進んでいく。


 母親と冒険者仲間の主婦達、親しい親族の女性達で作り上げたウェディングドレス。

 ウェディングベールとレースは親族達が分担し、ウェディングドレスを母親と冒険者仲間の主婦で縫いあげたのだ。


 デザインはずいぶん前から、ナルシーとミルカで相談していた。


 そうは言ってもミルカは裁縫が苦手の為、素材集めの後は提供されたレースをゆっくり、ぎこちなさげに縫い付けていくことになった。


「っ、痛い。あ、血が付くわ。誰か回復魔法を!」

「ええっ、ミルカ。それはちょっと」


「良いから、お願い。私には余計な時間がないのよ。日給で払うから、お願いよ!」

「仕方ないわね。でも日給はいらないわ。結婚式のご馳走を頑張って狩ってくれたら、それで良いから。料理は私がするしね」


「さすが親友、心の友よ。貴女の子供の結婚式の獲物も任せておいてね。絶対珍しいのを持っていくから」

「珍しいのはいらないわ。美味しいのでよろしくね」


「任せておいて! そして治癒も、早く!」



 嘆息しながら微笑む親友のダイアナは、ミルカが幸せそうで嬉しかった。

(大変なこともあったものね。良かったね)


 根性で縫い物を続けるミルカに、心で応援する一同だった。

(あら、本当。思ったより不器用ね)

(それは言っちゃだめよ。気持ちが大事なのよ)

 目で会話したりしながら。




◇◇◇

 そんなこんなで式が始まり、バージンロードではボルケが両手に花状態で、ビルワとリンダを腕を組み歩いた。


「お父様、お世話になりました。お父様の娘で幸せです」

「お父様。ずっと守って下さり、ありがとうございました。大好きです」


「俺も幸せだった。こんな無骨な俺に、立派な娘が生まれてきてくれて感謝しているよ。今度は自分達で幸せな家庭を築きなさい。愛しているよ」



 娘達に挨拶をされて、新郎に引き渡すボルケ。

 もう我慢できず、ボロボロに泣いていた。


 その涙を冷やかす者はおらず、みんなが頷いていた。

 大事な娘の門出だもの。嬉し涙なら良いじゃないか。



 そしてそれぞれの夫婦が、神父の前で愛を誓う。

 誓いのキスをして、婚姻が成立したのだ。



「「「おめでとう、幸せになれよ」」」

「二人とも綺麗ね。旦那様も素敵だわ」

「この国なら、ラブロギ国王より自由に生きられるだろう。のんびり進めば良いさ」

「だいたいの者が姉妹のことを知っているから、喜びもひとしおだな」

「いやぁ、めでたい。今夜はお祝いだ!」

「「「「「おう!!!!!」」」」」



 そう。祝賀会はボルケの住む男爵領だ。

 そこは領民による巨大なバーベキューや鉄板焼のできる、長い機材が10mにも及ぶ距離で設置されていた。


 今日は肉祭りだ。


 奥には巨大なまな板が用意され、空間収納から次々と食材が準備されていく。


 魔力を数か月注いで巨大化したアコヤガイも、網の上に置かれていく。ウェディングドレスで真珠を取り出した貝はお吸い物にされ、他の余った貝がここに並べられている。

 両手程の大きさの貝は上の貝が除かれており、バター醤油が入れられていた。

 真珠に色は付かないから、安心して食べられる。

 ホタテよりも味は濃厚なので、それだけで楽しみだ。


 貝の全てに真珠がある訳ではない。当たりなら真珠は中央にあるからワクワクする。


 海の魚も各種あり、特にジルパークン王国のマグロと言われるペルソナマグロは、仮面のような覆いで目が隠されており、その仮面を剥ぐと宝石で成形された両眼が現れる。

 視力はほぼないと言うが、魔力で周囲を探ることで捕まることはほぼないと言う。

 ボルケ達からの回避は不可だったが。

 長寿なその身は、熟成されて絶品だった。


 それだけではなく、珍しい虹色3本角鹿や雷しっぽ兎も食材として網にあがった。

 ヴェノムフラッグとオウギワシも中央に鎮座し、ゆっくりと焼かれている。


 領民達も来れる人は全員参加だ。彼らは野菜や果物を手土産に持ち寄った。

 もうお祝いだからと、手に余るくらいに。



 ウェディングケーキ2つは、リンダが前日に作っていた。ケーキには苺がたくさん入った、満足のできだと言う。


「お姉様と私のお祝いのケーキだから、たくさん果物を入れたのよ。味見だけでも美味しいわ」

「じゃあ、少しだけ。まあまあ、リンダ。クリームがサッパリしていて美味しいわ!」


「はい、分かりますか? 所々にサワークリームと生クリームを混ぜたのです。全体が甘いよりも、コクのある爽やかな口当たりになりますわ。これで甘いのが苦手の人も、少し食べられるでしょ?」

「ええ、ええ。うちの妹は天才ね!」

「まあ、お姉様ったら。ふふふっ」


 結婚式前夜の2人も、こんな風に楽しく過ごしていたのだった。




◇◇◇

 領地には他にもお世話になった人や、お祝い希望者全員が集まった。ダヌクやナイライン、心を入れ替えたグレプとハチサンとなったシチルナ、ジルパークン王国の国王ヴィクセルト、ラブロギの王太子ユアレ、ニャガレビの新国王トナミディも。

 

 アップルパルは夫のジューシーと共に参加した。


 勿論国王や王太子と言うのは内緒なので、冒険者仲間として。


「キュナント殿には、父がご迷惑をおかけしました。誠に申し訳ありません」


 深く頭を下げるラブロギ王国の王太子ユアレは、ボルケにただただ謝罪をする。

 それを見たボルケは「頭をあげて下さい」と伝え、笑って許すと伝える。


「お互い親父国王のせい苦労するな。まあ、頑張れよ。俺はもう侯爵じゃないしラブロギ国王の人間じゃないが、ユアレになら助力してやるからいつでも遊びに来い。貿易や人材のことなら、少しは助けられると思う」


「ありがとうございます。感謝致します、ボルケ様」

「ボルケで良いよ。俺もって、もうユアレ呼びしてたな。許せよ」


「勿論呼び捨てで大丈夫ですよ。……もし僕が国王になっても話を聞いてくれますか?」


「ああ、勿論だ。逆にお前、まだ国王じゃないのか? 親父を降ろして、経済立て直ししないとだろ? 国王になるなら、優しいのもほどほどにしとけ。親より、国民だろ?」

「はい、そうですよね。以前より少しましになっていたので、様子をみていました。それどころじゃないですよね」


「俺な、国王のこと嫌いなんだ。俺の仲間も事情を知ってるから、やっぱり嫌いなんだよ。国単位で協力するなら、譲位は必須だな。お前個人に手助けするくらいなら、別に良いけどよ」


「そうですよね。心配して頂き、ありがとうございます」



 そんな感じで話を終えた2人。その後にラブロギ国王はユアレが国王になり、ボルケ達の協力を得たと言う。



 そしてナルシーの生家の子爵家は、家族共に散財し借金だらけになって没落寸前だった。

 そんなある日子爵夫妻が、ナルシーの弟デンキスに縁談を用意し、これは決定だと言う。


「デンキス、これはとっても良いお話なの。お相手はとっても優しくて美人よ。でも少しだけ年上なの。既に彼女の息子さんは成人しているから、跡取りの心配もないし」

「え、跡取りって、何ですか? それに僕はこの子爵家を継ぐのでしょ? 婿入りなんて無理ですよ!」



 さすがに胡散臭い話に危機感を募らせるデンキス。けれどもう、彼に選べる道はなかった。


「良いのよ、子爵家のことは。心配しないで。貴方は貴方で幸せになってね。それじゃあ、連れて行って下さいな」

「え、何?」


 その刹那、扉が開けられ、筋肉男達がわらわらと入ってきた。

「さあ、参りましょう。旦那様」

「え、えっ。嘘、やだ、助けて父上!」


 バッチリ合った目を逸らす気まずげな父親に、愕然とするデンキス。

「済まないな、デンキス。でもお前の姉も同じように嫁いで役立ってくれたんだ。だからな、頼むよ」


 そんな言葉でドナドナされていくデンキス。


(なんで? 僕は嫡男で、価値のない女である姉とは違うのに! どうして、どうして、どうして!!!)


 借金のカタに嫁いだ先は、50過ぎの未亡人の伯爵邸だった。既に本邸は息子夫婦に譲っており、ここはタウンハウスだと言う。


「貴方は、たしか30代前半よね。お肌がピチピチして童顔だし、20代くらいに見えるわよ。いらっしゃい、可愛がってあげるわ。ウフフッ」 


 子爵家の散財により、ナルシーが嫁いで得た結納金もすぐに消えていた。その後に死なれて後妻として売り払うことも出来なかった。けれど……それでも子爵家が維持できていたのは、未亡人のリステッポリのお陰だと言う。


「子爵家が商売で立て直すか、貴方がお金持ちの令嬢と結婚して借金を返して貰う予定だったの。担保は貴方でね。もうずいぶん待ったけど、もう無理でしょ? 貴方は、夫と言うより私に買われたのよ。

 でも寂しくないわよ。貴方は旦那様の地位があるもの。他の愛人達は、愛人の立場のままですもの。ね、だから安心して」


 デンキスはナルシー似で、金髪碧眼のとても美しい男だ。ただ子爵家の悪い噂(ナルシーを売り飛ばしたとか、借金の話)で、結婚は出来ていなかったが。


 それでも彼は女性に入れ込むことはなく、もっぱらギャンブルに依存していた。今考えるとその資金もリステッポリから出されていたようだ。


「わたくしは、綺麗な男達の恋愛が好きなのよ。だからね、貴方はずっと素敵なままでいてね。でないと資金回収の為に、鉱山に売っちゃうんだから!」


 暗い瞳で微笑むリステッポリに、鳥肌が立つデンキス。彼は女性との付き合いがなく、全てがまっさらだった(リステッポリ調べ)。


 彼を迎えに行ったマッチョ達も、彼女の愛人だと言うが、愛人と言うよりも………………。

 不穏な空気に口が渇き、冷や汗が止まらないデンキス。


「再婚直後の未亡人の夫が、強盗に入った男達に凌辱されていく。それを涙ながらに見つめる未亡人、とかで脚本を書いてるのよ。貴方は彼らにマッサージとかを受けて、さらにお肌を綺麗に磨いてね。じゃあ、私は部屋に戻るわ。

 貴方達もまだ手を出しちゃ駄目よ。彼の初めては、私が目に焼き付けるから。じゃあね、チャオ♪」



 残されたデンキスは、力なくヘタリこんだ。

(どうなるんだ。僕はいったい、どうしてこんなことに……)


 後悔が尽きない彼は、いつかナルシーの気持ちが分かるだろうか?

 ちなみに子爵夫妻はもうリステッポリからの援助が打ち切られ、領地からの税金を国に払えなくなった。その為土地と邸を差し押さえられ、追い出されることに。

 その後は日雇いの仕事をしていたが、すぐにクビになることを繰り返し、どこかに消えたと言う。


 噂ではリステッポリの家で、洗濯専門の職員として雇われたとか、何とか。


「どうして私が働かされるのよ。息子は夫人の夫でしょ!?」

「そうだぞ、デンキスに会わせろ。そうすれば分かる!」


 元子爵夫人は喚くも、その理由を元子爵夫妻は知っている筈だ。ほぼ道具のように、息子を売り払ったのだから。



 デンキスは不自由なく生きているが、両親に会うことはついぞなかったと言う。


「自分のことは自分で何とかしてよ。僕にはもう、親はいないのだから」


 彼はリステッポリに深く愛され、数々の美容と健康的な食事を与えられ、時に頭を撫でられて抱きしめられる。

 ……抵抗は許されていない。



「僕の飼い主は、伯爵夫人だ。商品は売った瞬間に所有権はなくなることくらい、分かるだろう?」 



(あ、あぁ、僕も姉さんと同じ運命に。貴女もこんな気持ちだったのですね…………。たった一人で、持参金も味方もなく嫁がされ、その上子供を残して事故で死んだのだもの。きっと家族、いや僕を恨んでいるよね。僕は弱っている貴女に、酷い言葉を投げつけた。今さら悔いても、もう謝ることもできない。うっ)



 同じような境遇となり、漸く後悔するデンキス。死すら選べないと嘆きながら、心を殺し今日もリステッポリに微笑む。


「大好きです、リステッポリ様。僕はここにいられて幸せです」

「まあ、良い子。じゃあ、素敵なお洋服を勝ってあげるわね。うふふ」





◇◇◇

 まあ、暗い話はさておき。


 ビルワとミコット、リンダとイスズはリキューの空間転移で、祝賀会と言う名の宴会場に現れた。


 美しいウェディングドレスとタキシード姿を披露し、高く積まれたウェディングケーキに入刀する新郎新婦達に祝福の声が止まない。


 さすがに人数が多すぎる為、ケーキは主に子供達が中心に食べることになった。

 ウェディングブーケを投げると奪い合いになり、何故か飛び上がった花束をお婆ちゃん達が受け取ってしまい、「もう一花あるかの?」「アホだな、ないぞ。あははっ」とのやり取りに、和むことになったり。


 如何せん人数が200人くらいいるので、収拾がつかない。まあ纏まらないのは、いつものことだ。

 取りあえずここの仕切りは、見切り発車なボルケだもの。


「はははっ。なんだかズッコケた結婚式だな。でもそれが良い。うまくいかなくても、楽しんじゃえば良いんだ!」

「もう、お父様ったら。ふふふっ」

「ねえ、もう。でも失敗したって良いわよね。すごく楽しい」

「みんなが笑顔なら、それで良いわ。私すごく幸せだわ、リンダ」

「私もですわ。お姉様」


 2人は夫をそっちのけで抱き合い、「貴方が妹で良かった」「お姉様が貴女で嬉しい」と、お互いに笑い合ったのだった。



 その後はウェディングドレスから、普通のドレスに着替えて肉祭りだ。


 ミルカは自分の両親や兄夫婦と合流し、ヴェノムフラッグの串焼き係を担当した。ナルシーは体力がないようですぐにバテ、夫のマースが担当してオウギワシのステーキを焼いていた。


「ごめんなさいね、マース。良いんだよ、俺の方が手際も良いし、上手だから」

「一言多いわよ、マース」

「ああ、悪いな。大事な奥さんは休んでいてよ」

「よろしい。ふふっ」



 そんな2人にミルカは微笑む。

「良いわねぇ、そのやり取り。私は有り余る体力で、焼き続けられるわよ」

「丈夫に生んで良かったわ。ミルカは元気だから安心よ」

「そうだな。若い時はいつも心配だったが、今は幸せそうだな」


「そうよ、父さん。私は幸せよ。昔も別に気にしてなかったけど……、心配かけてごめんね」

「わしらのことは気にせんで良いんだ。お前が元気なら、万々歳だよ」

「まあ、お父さんったら。いつも心配している癖にね。ふふふっ」

「もう、止めろ。お喋り婆さんめ。ははっ」

「ふふっ、ばらしちゃった」

 夫婦仲は何年経っても健在のようである。



「お父様とお母様、とても楽しそう。良かったですね、ミルカさん」

「お義姉さん、遠いところをありがとうございます。本当に嬉しいです」

「おいおい、俺もいるぞ、ミルカ。いつも蔑ろにして。兄さんは寂しいぞ!」

「またぁ、いつも冗談ばかり言って。でもありがとう、兄さんも」

「まったく『も』は余計だぞ。俺達もビルワとリンダ夫妻に挨拶してきたけど、美しくなったな。それに良い笑顔だった。みんなに祝われて良かったな」


「はい、本当に幸せな子供達ですわ。次は兄さんの子供達も一緒に来て下さいね」

「うん、ありがとうな。まだ2才だから野外はと思って置いてきたんだが、連れてくれば良かったな。久しぶりにミルカに会えて、兄さんは嬉しいぞ!」

「ありがとう……いつも感謝してるわ、兄さん」



 そのやり取りに、ホッコリされているのを気付いていないミルカ。領民達もみんな終始笑顔だ。



◇◇◇

「さあ、食べるわ。朝から水だけで、お腹空いたもの」

「私もよ、リンダ。私はオウギワシに行くわ!」

「私はヴェノムフラッグです。いざ!」

「ええ、早く食べないとなくなるわね。行こう!」



 走り去る花嫁に、微笑みが溢れる新郎の2人。


「ビルワはいつもより粋が良いみたいです。猫を被っていたのかな?」

「いえ、今日が元気過ぎるんですよ。何と言ってもリンダが一緒ですから」

「仲が良いんだな。俺も兄がいるけど、そこまでじゃない」

「この2人は特別ですよ。何と言っても、いろいろ乗り越えた絆がありますから」


「妬けるね。俺は心が狭いのかな?」

「俺だって、馴れただけですよ。いつも一番はビルワ様だから」

「俺も馴れるかな?」

「ふふっ、どうでしょうね?」



 取り残された新郎達は、それぞれに挨拶しながら食事を食べ始めた。彼らは妻の食べっぷりに微笑み、会場の温かい雰囲気に満足していた。


 そしてある一角で、泣きながら肉を食むボルケを見つけた。嬉しいけれどやっぱり寂しいらしい。それでも合同の結婚式で良かったと言っている。


「こんな辛い日を2回もしないで良かった。でも、でもなあ、辛いなぁ」


 そんな彼の話をハチサン(元シチルナ)が、親身になって聞いていた。

「お前は頑張ったよ。だから2人とも良い男に嫁げたのだから。家のことだって再生させて、本当にすごいよ。お前は良くやってるよ」


「そうだろ。俺、頑張ったんだよ。分かってくれたのか、兄弟!ううっ」


 自覚しているのかどうか、本当の兄に絡んでいるボルケだが、ハチサン(元シチルナ)は真面目に頷き慰めていた。


 素面では無理だった兄弟の対話は、酔った勢いで叶ったのだった。



 そんな義父ボルケを見つめながら、改めて「ビルワを生涯守り抜きます」「リンダをいつも笑いで包み込みます」と、大切にすることを誓う新郎達だった。



 その頃の新婦達は、大きな口を開けて肉を頬張っていた。


「美味しいね、リンダ」

「ええ、お姉様。また時々、ごはんを一緒に食べましょうね」

「勿論よ。リンダ大好き!」

「私もです。お姉様!」



 異母姉妹の2人は、そっくりな笑顔で宴を楽しんだのだ。










◇◇◇

 これで本編は終わりです。追加があれば、その時にまた付け足します。読んで頂き、ありがとうございました(*^^*)




 




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リンダの入念な逃走計画 ねこまんまときみどりのことり @sachi-go

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