第23話 その後のニャガレビ王国
ビルワはジルパークン王国の文官だ。
男女の区分に関係なく、実力で役職が決まっていく為、あえてこの国では女官とは言われていない。
恋人のミコットと共に、国王の側近として働いている。この国の元第一王子なる、ヴィクセルトが国王の職に就いているが、彼はボルケのこともダヌクの素性も知っていた。マルコディーニから、引き継ぎを受けていたからである。
ニャガレビ王国でボルケ達が購入した土地に、聖女の神殿を建ててアップルパルを仮の責任者とし、救援施設も併設して多くの避難民達を受け入れている。
受け入れた後はジルパークン王国と協力を行い、保護した人材を彼らの望む職業に就けるよう、斡旋もしていた。それらにも2人は関与していた。
避難所では混乱や困窮することもなく、次々と安寧の地へ移動して行った。ダヌクやボルケの仲間達も、ニャガレビ王国で困っている達に声をかけ、教会に誘導して救助していく。
脆弱となったニャガレビ王国の戦力では、他国の侵略を受ける危険性がおおいにあったが、聖女であるアップルパルのバリアーにより、軍隊の侵入を阻むことに成功していた。
悪意のある魔力持ちの魔導師や魔術師達が、結界を破壊して入ろうとしても、ダヌクやナイラインとその仲間達が瞬時に駆けつけて制圧していく。
ダヌクは神殿の地下に遮音された地下牢を作っており、次々と敵を放り込んだ。そしてアップルパルの神殿を襲って来るとは、どう言うことだと抗議文を送った。
あくまでもニャガレビ王国ではなく、アップルパルの神殿経由である。
全国が知る聖女に対しての非道は、多くの国から非難が殺到することになる。その影響があったせいか、侵攻はかなり減ることに。
実際に国を捨てる貴族達が増え、国の混乱時で土地の売買も容易であった為、面白いくらいに神殿の所有する土地が増えていったので、抗議も妥当だと受け入れられた。
土地が神殿の所有、ひいてはジルパークン王国の金銭で購入されていることを知らないのは、ニャガレビ王国への侵略を企てる国々と皮肉にもニャガレビ王国の国王達だけだった。
ボルケとアップルパルは多くの国と親交があり、今回のニャガレビ王国のことは事前に知らせていた。国通しではなく個人的なやり取りで。
それでも、ラブロギ王国国王よりもボルケやアップルパルの方が遥かに名声があった為、彼らの付き合いのある国の国王でなくとも宰相から国王に、有力貴族から国王にと話が通っていたのだ。
まあ、人徳とか人情の力が優ったのだ。
その為ニャガレビ王国は侵略を受けることもなく、徐々に国王達の財力や戦力が削られて、衰退していくことになった。
税金がかなり減少した状態なのだから、さもありなんだ。
混乱期に困窮する者を浚ったり、借金のカタに奴隷にする悪党商人達を捕まえて尋問の上、甘い汁を吸う大元(主に名のある貴族だった)をこっそり潰したりもしていた。
ボルケの暗躍を知る者は、「あいつ、サクッとやったな。いつか手を出すと思ってたぜ。good♪」等と密かに賛辞を送る。
◇◇◇
2年が経つ頃には王族は城を捨て逃走していた。
この国に残り税金を納めていた貴族達への説明責任も果たさず、金目の物を持っての夜逃げのようなものであった。
終盤ではニャガレビ王国の国王は税金を高額にしたり、無理に徴兵をしようとして各貴族から拒絶される程酷く、貴族家の騎士とダヌク達の仲間が、乗り込んできた王国騎士達と交戦した場面もあった。
他者からの強奪を阻止されたことで、諦めた結果が逃走なのだろう。
そんな感じで国王達が逃げることを見越して、ボルケやダヌク達と協力関係にあった貴族達の中から、既に国王や側近達の選定は済んでいた。
戦争が起こった訳ではないので土地が荒れることもなく、国に残った貴族家は立て直しを図る為に奮闘していった。
国に戻りたい民達は戻れるように手配し、他国から入国を希望する民の受け入れも開始された。
国を去った2年の間に、他国で職を得た者はそのまま暮らし、時々遊びに来る程度になった者もいたが、平和になったことで行き来は安全となり、交流も盛んになった。
たとえ離れていようと、故郷が安泰ならそれは良いことなのだ。いつでも墓参りに、里帰りにと向かえるのだから。
◇◇◇
国に平和をもたらした神殿と、ダヌクとボルケ達は、国を支えることになった新しい国王、トナミディに大変感謝された。
特に陰の立役者となったダヌクとナイラインは、故国であることも加味されて、任叙後に大臣就任への打診があった。
けれど2人はそれを固辞する。
「国がきな臭くなり、多くの商人がいなくなりました。だからこそ暫くは、
幸いにしてジルパークン王国が私達の後ろ楯になってくれますので、必要な商品流通に不都合は起こらないようにすることは可能でしょう」
そう豪語し、爵位を受け取らなかったのだ。
その裏には貴族的なやり取りを放棄したかったことと、ナイラインとの時間を作りたいと思ったからだ。
普通の父子のように。
後は好きなようにダンジョンに潜り、自由に魔獣を討伐し、父子と仲間達でのんびりしてみたかった。
既にニャガレビ王国の呪術師の遺産は使いきり、彼の思いはニャガレビ王国の民の糧となった。元よりダヌクもナイラインも仲間達も、遺産が欲しいなんて思っていない。
だってそれは、彼の苦しみの産物でもあるからだ。
「あんたの金はみんなの役に立ったよ、ユルーズ・ディボン。もしさ迷っているなら、もう吹っ切ってしまえば良い」
ダヌクは彼の墓に訪れ、事の顛末を報告した。
憎き前国王達は逃亡し行方知れず、彼らに荷担した残党貴族も国を捨てて出て行った。今までのような振る舞いは、もう出来ないだろう。
少なくとも
◇◇◇
落ち着いた後の神殿はこの国の聖職者に受け継がれ、アップルパルは故国へと帰っていった。
「この国にはバリアーを張れる人材も、中程度の回復魔法を使える人材もたくさんいたわ。普通は王族にしか多い魔力は受け継がれないのに。
私は孫に生まれたひ孫を育てに戻るわ。
みんなムリせず頑張るのよ。時々遊びに来るからね~」
「ありがとうございました。帰ってしまわれたら、寂しいです」
「私も聖女様のような、信頼される治癒師になれるように頑張ります」
「また来て下さい。グスッ」
「ああ、泣かないで。きっとすぐ来るから、ね」
「「「はい! ありがとうございました、アップルパル様。お元気で!!!」」」
アップルパルのように全ての術を使えなくても、志願して集まった少女達の力は、彼女に匹敵するものがあった。この2年を励まし時に厳しく、まるで母親のように教育してきたことで、加速度的に少女達の力は増強していた。
この国の平和は、引き続き守られていくことだろう。
満面の笑顔でブンブン手を振って、ナイラインに送られて帰っていったアップルパル。彼女もまた報酬は受け取らず、時々自分の店の商品(果物)を(ナイライン経由で)持ってきて、みんなに振る舞っていた。
富める者は分け与えるではないが、贅沢はしていない彼女だが、自分にできることをしていた。
そんな気持ちも、伝わっていたようだ。
◇◇◇
「国を助けて下さり、大変感謝しています。民の大きな犠牲もなく……本当に夢のようです」
新国王トナミディは深く頭をたれ、感謝の意を示した。
神殿周囲のボルケ達が購入した土地は、ニャガレビ王国の新国王に買い上げられた。その資金の大元はジルパークン王国だったので、資金もヴィクセルトへ戻った。
既に立っていた商人の店は引き続き営業が許可され、街は旧体制の時より整備され、新しい店も増えていた。
その中には他国で修行して戻ってきた、元の住民もいたから、今後はいろいろと競争も起こりそうだ。
それぞれが身の振り方を考える、濃密な2年になったけれど民は知っている。
ダヌクやボルケ、アップルパル達、そしてジルパークン王国の介入がなければ、悲惨なことになっていただろうことを。
ダヌク達の離反のことは知らない人々も、旧体制の貴族至上主義では、長く政権が続かないことを分かっていた。貴族ばかりが贅沢をし、民を虐げる時代ではないからだ。
彼らだとて周辺国の変動を見聞きし、変わっていく必要性を感じていた。変われない時は高確率で、周囲に侵略されるか、革命が起きただろう。
だからこそ、こんなに平和裏に政権移行ができたことは驚くべきことだった。
他国ではまだきな臭い国はあるものの、少なくともジルパークン王国周囲の平和は、安定したと考えられた。
その状態を確認したボルケは、もう腹を括った。
「そろそろ結婚式の準備を始めないとな。俺のせいで嫁に行けないと騒がれる。もうビルワとリンダ、合同結婚式で良いな!」
そんな独り言を話すボルケに、彼の護衛(勝手に守ってる者達)は驚愕する。
(最大級の宴会を手配しないとな!)
(ああ、大物の手配だ。行くぞダンジョン!)
(まずは、ヴェノムフロッグを多量に)
(オウギワシもだな)
(空間収納に入れとけば、いくら狩っても腐らんだろう)
(そうだな。チョウザメも巨大化させて、キャビアも量産しとくか?)
(じゃあ、松茸も頼むよ。冒険者はみんな食うからな)
(おお、任せろ! ケーキとかはどうする?)
(それはな……リンダ様が作りたがりそうだな)
(俺もそう思う。余計な出費は抑えようとか、言いそうだ)
(どうするかな? ボルケ的には、サプライズにしたいんだろ?)
(まあでも、この話も漏れそうだぞ。イルワナあたりから)
(それならそれで、話は早いな。……ちょっと待つか?)
(ああ。たぶん作るって言うだろうな)
(ふふっ。俺もそう思うぜ!)
そんな感じで話は進んでいき、思惑通りにイルワナがイスズに話していた。
「本当か、それ! 俺、リンダと結婚しても良いのか? やったぜ!」
「ああ、良かったな。幸せなれよ!」
内緒だと言われていたことを、イスズにあっさり伝えるイルワナ。仕事にはストイックなのに、心を許した者にはオープンマインド過ぎる彼は、利用された形だ。
その後イスズにケーキのことを聞いたリンダは、ボルケに伝えた。
「お姉様と私の分を、ちゃんと作りますから。他所から買わなくても、今から美味しいのを試作しますから!」
リンダの目は燃えていた。
結婚のことより、ケーキ作りの方に。
そしてビルワは、合同結婚式のことで受かれていた。
「大好きなリンダと、同じドレスを作りましょう。楽しみだわ~」
その言葉にナルシーとミルカ達母親勢と、女性の友人や縁者達が反応した。
「ビルワ、任せておいて。2人分、お揃いの作るからね」
「宝石関係は任せておいて。私は鉱山で宝石を、海に潜ってアコヤガイから真珠を取ってくるから。縫い物の方は、みんなに任せるわ!」
「「「私達も頑張るから、任せておいて。世界一可愛いウェディングドレスを作るからね」」」
「ありがとうございます。嬉しいです。ううっ」
そんな感じでビルワは感激し、厨房ではリンダがケーキの試作を繰り返し、着々と準備は進められていくのだった。
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