第19話 ダヌクの行く道

 カヌエオ子爵でナイラインの部下であったツドロアと、次期カヌエオ子爵になるところだったジルレと、ツドロアの同僚達は、ジルパークン王国で無事にダヌクとナイラインに会うことができた。



「ああ、ダヌク様。ご無事で良う御座いました」

「みんなも無事だったんだね。良かった」


「俺はナイラインがいるから、心配してなかったぞ」

「なんだ。ツドロアはダヌク様の心配をしなかったと言うのか? 不忠義なことだ」


「ちょっ、待てよ! そんな意味じゃねえよ」

「ふふっ、お父さん。それはみんなが知ってますよ。いつもの冗談じゃないですか」


「だってよぉ、ジルレ。俺がどんなに心配したかもしれないでよ。もう少しでバリーボス侯爵と打ち合って、死ぬとこだったんだぜ。それをよぉ」


「そうか……。からかい過ぎたな。悪かったツドロア。俺が逃げた後、丸投げしたから大変だっただろう? お前になら任せられると思ったんだ。許してくれ」



 その言葉にツドロアは、「初めからそう言えよ。ったくよぉ。良いよ、許すよ」と、照れて俯いた。


 いつも周囲を気にかけるツドロアは、チームのお母さん的な存在だった。クールなナイラインの補助的な支援、たとえばみんなの精神的なサポートも担っていたのだから。



 だからこそ、そのやり取りに仲間達は和んだ。

 こんな瞬間が来るなんて、思ってもいなかったから。



「ありがとうな。さすが心の友だ。これからも頼りにしているぞ」


 ナイラインの言葉に「おうよ、任せておけ。奇跡的に救われた命だから、非道なことでなければ協力してやる。嫌なら逃げっけどな」と、いつもの調子を取り戻していた。


 ダヌクもジルレも、仲間達も、その憎まれ口に笑い、ナイラインも相好を崩した。





◇◇◇

 大国であるニャガレビでは、国の調整役(恐喝兼暗殺役)が機能しなくなったことで、少しずつ治世が乱れ始めた。


 ジルパークン王国で文官となったダヌクは、何故だか国王マルコディーニの側近に加えられ、ニャガレビの内政状況を聞かされていた。

 たぶんまだ、世に出ていない情報のはずなのに。



(いくら実力主義の国と言えど、得体の知れない俺を側近にするなんて。危機管理大丈夫なのか、この国?)

 とか思ってる失礼なダヌクだが、そこはボルケが絡んでいるから大丈夫。

 念の為にイスズとイルワナが、マルコディーニを影で守っているし。



 その考えが伝わったのか、マルコディーニは執務机に座ったまま直立のダヌクの顔を見上げた。


「不思議そうな顔をしているから答えるよ。君のことはずいぶんと前から、ボルケから聞いていた。勿論君の生い立ちも含めてね。だから俺はすんなり君達を受け入れたんだけど……。

 あ、安全面も大丈夫。俺自体が元騎士で鍛えているし、冒険者家業もしたこともある。

 それに相手の思考も1分だけ読めるんだ。だから危険な奴は分かるってわけさ。ハハハッ」


 あっけらかんと話すマルコディーニに、「そんな秘密を俺なんかに話して……危機意識を持って下さい!」と、思わず突っ込んでいた。


 そんな彼に、マルコディーニが意味深に微笑んだ。

「それも大丈夫。君には重要任務を任せたいから、能力を伝えたんだし。俺は君を信じているよ」


 マルコディーニは席を立って、ダヌクの前に立つ。少しだけ彼より背の高いダヌクを見上げ、「ニャガレビを手中に入れるよ。手伝ってね」と、そう告げたのだ。


「ニャガレビを? あの大国を相手に何をすると言うのですか?」


 愕然とする彼に、マルコディーニは慌てて声をかけた。


「ああ、言い方が悪いね。戦争するとかじゃないんだ。立て直しするって良いたかったの!」

「立て直し、ですか?」


 うんうんと頷き、マルコディーニは矢継ぎ早に続きを話す。


「今後ニャガレビは、王位争いで荒れるだろう。恐らく内乱となる。それをナイラインや君の仲間達で、民を支えて欲しいんだ。

 ニャガレビの土地の一部は、ダヌクの仲間の貴族達に購入して貰っている。ニャガレビにもマトモな貴族はいるからね。

 そこに世界共通の救世主である聖女の神殿を立てて、救済をしていくんだ。


 あ、聖女役には、アップルパルに頼んである。さすがに知ってるだろ? ボルケと仲が良いみたいで、彼経由で頼んでOK貰ったんだ。今暇らしくて、一つ返事だったよ。


 そうそう、ナイラインとツドロアには既に話を通してある。ニャガレビの呪術師の遺産を使って支援したいと、返答を貰っている。

 君にはそう、事後報告になったけど、頼むよ」


「え、そう、なんですか? はあ、分かりました」

(ナイラインは聞いてたんだな。でもさすがに、国王からの話を先に話せないか)



 生き延びる為とはいえ、ダヌク達が消えたことで国が混乱した事実。

 それを支えるのは、ダヌク達にとっての後ろめたさを軽減することになるだろう。


 ただ資金があるだけでは奪われるだけだが、最強の力を持つ元王国の影だ。そんな奴らからは、逆に奪ってやることもできるだろう。


「ジルパークン王国も昔は荒れていた。それを賢者と呼ばれるある王族(安全面保護の為、名前は秘匿)が貴族の特権をほぼ無効化する革命を起こし、俺のような者をトップに押し上げたのだ。

 公にはなってない事実だけどな。

 俺はニャガレビもそんな風になって欲しい。国の膿を出して、誰もが幸せを望めるように」


 それはダヌクが、子爵家に身を寄せた兄妹姉妹達の密やかな願いだった。


「今後、内乱により親を亡くした孤児や、夫を亡くした婦女子も増えるだろう。仕事を亡くした男達は身を崩し、悪人となることも予想が容易い。

 それを君達に何とか頑張って欲しいんだ。

 勿論俺も、出来る限り協力する。

 君達が鍛えてくれれば、希望者は冒険者としてボルケのとこで100%就職できるし、婦女子の出来る職業支援もビルワ達が考えている。子供達の学校も立てて、身分関係なく通えるようにする。

 

 その初期費用は、呪術師の遺産を使うことになるから、存分にやってごらんよ。不足ならジルパークンからも無期限で貸し付けするし」



 夢のような提案に、ダヌクは素直に返事をした。


「やりたいです。やらせて下さい! みんなが幸せになれるように」


 マルコディーニは嬉しそうな顔をして、握手を交わした。


「よろしく頼むよ。ダヌク」

「はい。力の限り頑張ります!」



 思えば以前からニャガレビ王国は、横暴な貴族達に支配されらた平民達が虐げられて来た。

 乱暴された婦女子とその庶子は当たり前のことで、人々を助ける教会もまた、不正により私腹を肥やして機能せず、貧富の差が大きく暮らしやすい国ではなかった。


(貴族がいても別に良い。他者を虐げたりしなければ。ジルパークンはモデルケースだ。全てが完璧とは言えないですが、試行錯誤しているところがまた、好感が持てるし。

 俺もそんな風に、笑って暮らせる手伝いをしたい)




 そんな感じで、ダヌクの第二の人生が動き出した。




◇◇◇

 マルコディーニは、ジルパークン王国を救った王女のことを考えていた。今は修道院で神に祈りを支える、エルザへの熱い思いを。


「姫のお陰で世界が動き出しました。ジルパークン王国が落ち着いたら、迎えにいきます。たぶん、もうすぐです」


 マルコディーニの心は、ずっと彼女のものだ。




 

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