第18話 リンダ、照れる

 ジルパークン王国に渡ったボルケ達。


 マースが加わり、『煌めきのななつ星』5人が終結した。

 なので5人は、ドラゴンを倒すべくダンジョンへ潜って鍛え、戻るのは夕食時である。

 ボルケはもう領主じゃないから、縛られるものがなくなったのだ。


「うおおぉ! 俺は、自由だ! ヤッホー♪」

「そうだボルケ。狩りの数で酒を賭けないか? 負けたら奢りで」

「良いぞ。負けるはずねえからな! じゃあ、行こうぜ!」

「ああ、勿論だ」


「待って下さい。ボルケさん、マースさん!」

「俺は後ろで見てるわ。頑張って」


「ええっ、リキューさんいないと、猛獣の動きを止めて貰えないじゃないですか!」

「大丈夫だ。マースいっから。ほら、行って来い」


「犬じゃないんだから、手で追い立てないで」

「行って来ます。頼みますから、気が向いたら来てくださいよ~」


 そんな感じで5人はダンジョンへ消えてく。

 後ろからも、冒険者家業の男達が彼らの後を付いて行く。



 領民達は新たな場所で、収穫の後始末(ビニールを剥がしたり、土と肥料の混ぜ込みをする等)をしていた。

 ラブロギ王国で収穫を終えた時、聖女の孫を呼んで空間魔法に全部保管して貰った。


 ジルパークン王国で適量を売却し、余った分はそのまま入れっぱなしである。

 売却分を領民で分け終わり、余裕のある日々を送っていた。



 


 孫に付いて来た聖女アップルパルは、さすが年の功でたくさんのレシピを知っており、暇な領民の主婦達も加わったお料理教室が、侯爵邸で開催されている。

 そんな訳でミルカとビルワ、リンダも、毎日料理ざんまいだ。



「大事な人に食べさせてあげてね。料理は愛情を込めるのが一番だから」


 アップルパルの声がけに、みんな大事な人のことを思い浮かべているようだ。


「私はお母様に作るわ」

「まあ、ありがとう。嬉しいわ、ビルワ」


「私はリンダに作ってあげるわ。でもリンダはどうするの? イスズにも作るのかしら?」

「お、お母さん。なんでここで、イスズが出てくるのよ!」


 赤面する娘が愛らしくて、ついついからかってしまうミルカ。


「何となく~。でもあなた達、よく一緒にいるじゃない? うふふっ」

「ち、違うわよ。護身術を習っているだけよ」


「まあ、リンダ。私の知らない間に進展が!」

「お姉様、違うのよ。もう、何でこんなことに。騒いでいたら、アップルパルさんに失礼でしょ? ほら、お料理作りましょ」


 その様子を見て、にこにこ顔のアップルパルが微笑んだ。

「良いのよ、お料理は後でも。ねえ、皆さん。時には素敵な恋ばなで、お肌を活性化しないとね」


「「「賛成です! 聞かせて頂戴!」」」

「若いって良いわね~」

「甘酸っぱいわねぇ」

「リンダちゃんも、大人になったわね」


 おばちゃんパワーにタジタジのリンダ。

 ここでビルワに絡まないのは、母ナルシーと再会したばかりでまだ遠慮しているからだ。

 でもきっと、すぐ絡まれる運命が待っている。


 先日ジルパークン王国国王、マルコディーニに挨拶に行ったら、第二王子ミコットに気に入られたとの情報が入ったのだ。何でも話ちゃう、ボルケ経由で。



「恋人じゃないですから。こんなこと言ってたら、イスズにも失礼でしょ?」

「まあ、相手のことを考えて偉いわ」

「「「「これも愛ねぇ~♡」」」」 


(もう手に終えないよ。お母さんもニヨニヨしてるし。何コレ~)


 恋ばなもその渦中にいることも、不馴れなリンダはグロッキーだ。


「で、も、やっぱりミコット様ね。あの金髪碧眼は、王子様って気がするわ~」

「ねえ、素敵よね。まあ私達は、遠目でしか見たことがないけどね」


「結婚式では、もう少し近くで見られるかしら?」

「そうかもね。ウフフッ」


 誰がとかは言わないものの、それはビルワしかいない。


(けれどまだ、ビルワ様は返事はしていないのに。気が早すぎるし、圧が強いわ)


 ああ、ほら。ビルワ様が苦笑いしているじゃない。

 でもナルシー様も笑っているから、好感触なのかもね。



(でもさ。イスズだって水色の髪は艶々だし、金色のつり目も可愛いわよ。はっ! 私ったら何を考えているの?)


 赤面していると、母から声がかかる。

「お母さんね、イスズなら良いわよ。あの子が息子になるなら、リンダを守って貰えそうだし」


「ち、違うよ、何で?」

「そりゃあ、分かるわよ。顔に出てるもの? 可愛いわ」

「もう、お母さん。お料理作るわよ」

「はいはい。じゃあ、アップルパルさんお願いします」


「分かったよ。料理でイスズの胃袋を掴みましょうね!」

「ああ、聖女様まで~」


 もう図星とばかりに狼狽するから、「ああ、これは脈ありね」と、リンダとイスズが皆の公認になっていく。


 イスズは勿論知らないけれど。



 大きな侯爵家の厨房では、温かな雰囲気でたくさんの料理が作られていた。



 娘も妻も、誰もボルケに作ってあげると言わないのだが、気にもしないだろう。


「まあ美味かったら食べるし、不味かったら残すぞ。ワハハハッ」


 こんなもんである。

 正直過ぎるボルケなのだ。


(イスズなら、失敗しても食べてくれそうだなぁ)


 そんな呑気な一日だった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る