BLに恋して
月日
第1話:小鳥遊君のお気に召すまま
ある日、姉貴の友人の美人なお姉さんがある小説を持って来た。
俺は、姉貴の部屋にその日たまたま居て、その表紙に目を惹かれた。
多分、パソコンで描かれたであろう空。
その中で、向日葵の中で一人佇んで笑顔を向けている男の子の漫画調な絵。
そこに行きたくなるような。
でも、じっと見ているとその世界へ行った気分になるような絵だった。
ただし、その小説はBLというジャンル――――。
そう。
女性向け、腐女子といような単語が似合う、趣向を凝らした物だった。
◆ ◆ ◆
「ただいま~」
そう言っても、返事は無い。
そうわかっていても、俺は帰ってきた時には『ただいま』と言うのを日課にしている。
今は、放課後。
俺の部活は、帰宅部。
家に帰りますかー! と、普通の高校生なら自宅に帰るだろうが、俺は違う。
……いや、この月影学院の生徒全員違う。っだ、訂正訂正。
だって、ここ全寮制の学校。
そして、俺はあぶれて二人部屋を一人で使っている。
「あ、ちなみに俺の名前はタカナシ。小鳥が遊ぶって書くので、以後お見知り置きを」
ちょっとここで、プチまめ知識。
何で小鳥遊がタカナシって読むかというと、脅威である鷹が居なければ小鳥は空で堂々と遊べるという由来から。
いや。
俺が聞いただけで、ちゃんと調べてないから合ってないかもだけど。
「って、何独り言いっとんねん!」
ビシッとツッコミが決ったのだけれども。
何故、一人ボケツッコミ?
だんだん可哀想な奴に成り下がってしまったのか。
俺は、その場で項垂れた。
俺がこの月影学院高等部に特待生として入学したのがつい最近。
ちょっと余談だが、一年前は高等部からこの学院に入るのは至難の技だった。
でも、今の理事長が改革して、学院のレベルの高さをあまり変えずに。かといって、外部から高等部へ入りやすくなるように考慮して試験を考えたらしい。
その試み第一号として、俺を含む十人ばかりの生徒がこの春、《外様》として入学した。
うわ。十人 ? 少ねー。
と思った人。
「違うんだなーこれが」
なんと!
高等部からの入学者は、十年ぐらい前以来だったらしい。
すご過ぎる!
まあ、転入生はときどき居たらしいけど……。
だから、十人の受入はこの学院の快挙だったらしい。
…それより俺って、余談が長すぎないか?
「ええっと、何話してたんだっけ?」
うーんと――ああ、そうそう。
俺がこの月影学院高等部に特待生として入学したのがつい最近。
最近といっても、今は五月下旬。
なのに、俺には友達といえる人物が居ない。
BL小説に没頭していたら、友達を積極的に作らなければならない時期を逃してしまったらしい。
しかも、ここはやはり俺が《外様》だったのも要因かもしれない。
あ、《外様》っていうのは、高等部から入ってきた人の事をいうんだ。
まあそうだ。
ちょっと、自分が恨めしいような気がするでもないけど、まあ、趣味に没頭できて喜んでいる自分も居る。
複雑だなー。
没頭と言っても、俺の家族は、俺の趣味を理解してもらえている訳だし、不満は無い。
けど、ここは違う。
現実世界で、BLを嫌う人が居るかもしれない場所。
ここも男子校だしあるかもだけど、BLの小説あるいは漫画みたいに、男同士の妖しい関係はあまり期待できないだろう。と俺は、見込んでいる。
「よし! 今日は君に決めた!」
と、天井まである本棚にぎっしり並べられた本を1つとってベットへ座った。
こうして今日も俺は、またBLのめくるめく世界に旅立ったのだった。
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