水底の肖像

じゅにあ

水底の肖像

雨が降りしきる夜、湖のほとりの別荘で、飯田美咲の遺体が発見された。第一発見者は美咲の親友である小原香織。彼女は震える指で警察に電話をかけた。


「死んでるんです……美咲が……首を絞められて……」


到着した刑事の岩崎智は現場を見回す。リビングの床に倒れた女性、頸部にははっきりとした絞め痕。争った形跡もない。


「彼女とはいつからの知り合いだ?」

「高校時代からです。昨日からここに泊まりに来てて……。先に寝てたんですが、夜中にトイレに起きたら、この状態で……!」


香織の証言ははっきりしていた。

犯行時刻は深夜1時から3時の間と推定され、別荘の出入り口は施錠されていた。外部犯の線は薄い。

岩崎は周囲を調べる。やがて、裏口の泥の上に、奇妙な跡が残っているのを見つけた。


「これは……片足だけの足跡?」


まるで片足で歩いたような、不自然な足跡。義足の人物か、何かを引きずったか?

翌日、捜査が進む中で、香織の過去が少しずつ明らかになる。

彼女はかつて美咲の婚約者であった今井亮介と付き合っていたことがあるという。

だが、亮介は突然美咲と婚約し、香織はそれ以降、美咲との関係を絶った。

今回、なぜか再会し、二人きりでの「和解旅行」が企画された……。


だが――

彼女は、過去を忘れようとしていた。

彼女は、美咲を責める気はなかった。

でも――「彼女の笑顔」が、あまりにも無防備で、腹立たしかった。

刑事・岩崎は、一つの推理を口にした。


「香織さん。私はこの事件の犯人は“女”じゃないかと思ってる。

しかも、被害者に強い恨みを持った人物だ」


香織はぎこちなく笑った。


「……なぜ、女だと?」


「第一発見者があまりにも“女性”であることを前提に話していたからだよ。

でもな、誰も“遺体の性別”なんて一言も言ってないんだ」


香織の顔から色が引く。


「“彼女”って、ずっとあなた自身のことを言ってたんじゃないのか?」

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