その先輩、いつもツンすぎて甘い。
柴咲心桜
第1話 ……別に、感謝なんていらないけど?
放課後の図書室には、いつも静かな時間が流れている。
その静けさが、俺――綾瀬律(あやせ りつ)がこの場所を気に入っている理由だった。
クラスでは特に目立たず、部活も入っていない俺にとって、ここは居場所の一つだった。
けれど、その日だけは少し違った。
本棚の隅で、同じ小説に手を伸ばした――
その瞬間、白くて細い指と俺の指先が、重なった。
「……っ」
「……あ、す、すみません」
慌てて手を引っ込めると、俺の目の前には、見慣れた制服と、見慣れないほど近い横顔があった。
篠原いちか先輩。
3年生。
学年トップの才女にして、生徒会副会長。
……そして、話しかけづらさランキング、ぶっちぎりの第1位。
「別に。あんたが先に取ってもよかったのに」
「い、いえ、どうぞ……俺、別の本読みますから……」
「……そう。じゃ、そうして」
そっけなく本を手に取り、くるりと背を向ける先輩。
でもその瞬間、彼女の手が――小さく震えていたように見えた。
(……緊張、してた?)
いやいや、まさか。
あの篠原先輩が、後輩男子に緊張するなんて、ありえない。
……はずなのに。
その日は、それだけで終わると思ってた。
でも。
「……これ、落としたでしょ」
次の日。
昼休みに教室へ戻ると、俺の机の上に、見覚えのある“しおり”が置かれていた。
そしてその横に立っていたのは――
「し、篠原先輩……?」
「ちゃんと拾ってあげただけ。別に、感謝されるほどのことじゃないでしょ」
「……あ、ありがとうございます……」
「っ……! そ、そんな素直にお礼言われると、困るじゃない……」
「えっ?」
「な、なんでもない!」
逃げるように教室を出て行く先輩の背中に、
俺はただぽかんと見送るしかなかった。
(……え、もしかして先輩、かわいくない?)
ツンツンしてて、ちょっと怖いと思ってたけど。
その“ツン”の奥にあるのは、もしかして――
誰にも見せてない“素直”なのかもしれない。
こうして俺は、気づかないうちに
とんでもない人に目を奪われていたのだった。
――次回、「篠原先輩、目を合わせてくれない件」
その先輩、いつもツンすぎて甘い。 柴咲心桜 @pandra
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