五話 決意

その後、キャスパリーグは男達を身ぐるみを剥がした状態で解放した。


男達は捨て台詞を叫んでいたが、放心状態だった私には聞こえなかった。


男達を見送った後、マタゾウの葬儀が広場で行われた。

キャスパリーグ主導で、猫流の葬儀が粛々と執り行われた。


その間私は、地面に埋められていくマタゾウの姿を呆然と眺めていた。


葬儀が終わり、見送りの宴が開かれている間も、私はマタゾウのお墓の前に座って泣いていた。


私が大男達を倒せたのには、ケットシーから貰ったスキルが要因だった。

スキル【猫狂い】。テイムした猫系魔物の数に応じて私のステータスが上がるスキルだ。この森に来てから百匹以上の猫ちゃん達をテイムしていた私のステータスは、あの大男のステータスを大きく上回っていたのだ。


それに気づいた私は、私のことを強く責めた。


私にそんな力があったなら、マタゾウちゃんが死ぬ必要なんてなかったんじゃ?

私が大男もっと早くとっちめていれば。


私にもっと……勇気があれば。


後悔が胸中を渦巻いて、涙が止めどなく、溢れてくる。そんな私の頬を、誰かがペロリと舐めた。キャスパリーグだ。


「ココロ殿、泣いておられるのか」


私は急いで涙を拭いて笑顔を作った。

キャスパリーグに心配をかけたくなかった。


「いや、大丈夫だよ。もう、大丈夫だから」


強がりを言って立ち上がろうとする私を、キャスパリーグはそっと押さえた。


「マタゾウはココロ殿のことをよく心配していたよ」


キャスパリーグは懐かしむように言った。その言葉を聞いて、私の脳裏にも私を嗜めるマタゾウの姿がよみがえる。


「いやいや、私は間抜けでよくミスするから本当にマタゾウちゃんにはお世話になっちゃってたからね」


「それではなく、ココロ殿の過去に関して、マタゾウは気にかけていた」


マタゾウちゃんが、私の過去のことを?


「マタゾウは、ココロ殿が過去の話をする時に一瞬悲痛な顔をするのを見ておったのだ」


そんな顔しちゃってたんだ。申し訳ないな。


「しかしココロ殿はそれを明かそうとしなかったから、マタゾウはいつかココロ殿が自分から過去を明かすまで待ちたいと、そしてその時は力になりたいと、よく言っていたよ」


マタゾウちゃん、そんなこと言ってくれてたんだ……。

それなのに私は……。

私はまた溢れ出しそうになった涙を拭って立ち上がった。


「心配かけてごめんねキャスパリーグさん、もう大丈夫」


「それをやめないか、ココロ殿」


私の言葉を遮って、キャスパリーグは言った。


「強がらなくても良い、傷ついた時は私達を頼って良いんだ」


そう言うとキャスパリーグは私の顔を自分の体に埋めた。キャスパリーグ豊かな毛に包まれる。


「私の体の中なら、いくらでも泣いて良いから」


泣いて良い。

その言葉に私は押さえていた涙を止めきれなくなった。

嗚咽のような慟哭とともに、涙を流し始める。


「悲しいよ、何で私なんか庇ってマタゾウちゃんが死んじゃうの?生きてダメな私を叱ってよ……」


子供みたいに泣きじゃくる私を、キャスパリーグは優しく包んだ。


「ゆっくりとでいい、一緒に乗り越えていこう」


キャスパリーグは優しくそう言った。体の奥から暖まるような声だ。


「乗り越えられるのかな?過去に縛られて、マタゾウちゃんを死なせちゃうような私が」


「乗り越えられるさ、それにほら君は一人じゃないだろう?」


キャスパリーグは私を体から離すと、広場の方を振り向かせた。すると、私の姿に気づいた大きな影が物凄い早さでこっちに向かってくるのが目に写った。


「ご主人!ご主人!こんなとこにいたの?」


息を切らせて走ってきたのはマグちゃんだった。口に食べ物のカスつけっぱにしてるってことは食べるのを中断して探してくれたのかな……?マグちゃんが食べ物よりも優先するってことはそれだけ心配させちゃったってことよね……。


「ごめん、ちょっと気分悪くて」


「まったく、心配かけさせんじゃないよ」


小言と共に、金ちゃんがマグちゃんの背から降りてきた。それと同時に勝っちゃんも降りてくる。


「こんなこと言ってるけど、さっきは半泣きでご主人のこと探してたのだ」


「なっ、泣いてないよ!お前は余計なこと言ってんじゃないよ!」


怒った金ちゃんが勝っちゃんを追いかけ始めた。その喧嘩の様子を、キャスパリーグは微笑みながら見つめ、マグちゃんが心配そうに見つめている。


微笑ましい光景に、マタゾウの姿はない。ここにマタゾウがいたら、「やれやれ、世話が焼けますね」なんて言いながら仲裁してただろうな……。


私の心が弱いからマタゾウは死んでしまった。これからまた同じようなことが起きたら……。


その瞬間、脳裏に皆がマタゾウみたいに殺される映像が浮かんで、私は吐き気がした。


「ご主人、大丈夫かい!?」


喧嘩していた金ちゃんがあわてて駆け寄り、私の背中を柔らかい肉球で擦る。


「大丈夫……ちょっと食べすぎちゃって」


こんなに可愛くて優しい子達を、これ以上一人も死なせるもんか。私が……私がマタゾウに変わって守らないと。


私の命に変えてでも。


私はそう決心を決め、宴の席へと戻っていった。

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