第11章 夜の誓い
門が閉じたあと、夜はまだ続いていた。
星も月もなく、世界が一瞬だけ呼吸を止めているような静けさ。
私たちはロンドン郊外の廃屋に身を潜め、火も灯さず、音も立てず、ただ“それぞれの沈黙”の中にいた。
私は窓辺に立ち、暗闇の空を見上げていた。
あの目。あの声。あの圧倒的な“不在の存在”。
思い出すだけで、胸がきしんだ。
けれど同時に、私の中には確かな手応えもあった。
祖父が恐れた神。
それに触れた今、私にはひとつだけ、確かなことがあった。
もう、誰にも任せない。私は、この戦いを“生きて”終える。
「眠れないのか、クロエ」
静かに背後から声がかかる。
振り向くと、カリオストロがいた。月光のない夜に、彼の姿は影そのもののように浮かんでいた。
「……眠るのが怖い。夢の中でも、あの目に見られていそうで」
「見ているさ。今も、きっとな」
カリオストロは窓の外を見やり、静かに言った。
「我が生まれた夜と、同じ空気だ。
希望も絶望も、すべてが均等にある」
私は言った。
「あなたは……怖くないの?」
「我は怖れに支配されてきた存在だ。
だが今、我の隣にはお前がいる。それが唯一、恐怖を“意味”に変える要素だ」
そこへ、リアが眠そうに目をこすりながら入ってきた。
「みんな起きてんじゃん。寝るって約束したのに」
「あなたも眠れてないじゃない」
「うん。だってさ、あの神……あれって、たぶん“私たちの心の中”にいるやつだよね」
リアは床に座り込み、毛布にくるまった。
「私ね、ずっと人間になりたかった。
でも今は違う。“私として”終わりたいって思う」
やがて、アダム、アナク・セト、ギル、そしてセバスチャンも順に現れる。
誰も口にはしないが、全員が感じていた。
――これは、最後の夜かもしれないと。
「なあクロエ」
セバスチャンの声が沈黙を破った。
「この戦いが終わったら、俺たち、どうなると思う?」
「……分からない。でも、少なくとも“誰か”が生き残らなきゃ意味がない。
それが誰であれ、私は託せるように戦うつもり」
「ならば今、この場で“誓い”を立てよう」
アナク・セトが立ち上がる。
「この夜を超え、明日を掴んだ者が、世界の語り部となる。
我らの選択が、無ではなかったと証明する者になると」
私は頷いた。
そして、全員の手を真ん中に重ねた。
「私は、最後の狩人として――この世界の未来を、見届ける」
「我は、夜の血統として――闇に名を刻もう」
「私は、牙を持つ者として――選んだ生を生ききる」
「私は、姿なき者として――影から真実を告げる」
「我は、死者として――眠らぬ記憶を灯し続ける」
「……我らは、いずれ失われる者として――それでも抗う」
それぞれの言葉が、夜に溶けていく。
だが確かに、それは“誓い”となった。
夜明けが近い。
私はもう、震えていない。
――“人間”であることが、武器になると信じられるから。
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