第17話 疑惑

「ヤマグチ藩のイシン・パトリオット、キジマを中心としたマッキナが、キョート市街の焼き討ちを計画しているとの情報が入ったわ」


招集をかけたサイトー・ジェシー隊長は隊員に告げた。


「どこからの情報ですか?」

「コーチ藩」

「コーチ? パトリオット側じゃないですか」

ナガクラが疑問を投げかける。

「そうね。おそらくヤマグチ藩も噛んでいると思う」

「内紛ですか? それを、私たちシンセングミに片付けろと?」

今度はヲキタさんが訊ねる。

「そういうことね。とはいえ、こちらとしても見過ごすわけにはいかないわ」


ヤマナミさんは訊ねる。

「キョートが焼かれると、トーキョー幕府にも、イシン・パトリオットにもデメリットしかないですよね。これ、誰が得をするんです?」

「さあ。思想というのは損得ではないのかもね」

その通りだ。

さすがジェシーさん。

よく分かっている。


「キヘイタイは?」

ヒジカタ副隊長が問うと、ジェシーさんが答える。

「キジマ1人です。事前情報では、他にマッキナが12人。私たちの担当はキタオージからゴジョーまで。あとは別支部が担当します。決行予定は4日後」

「よし」


そして当日になった。

僕たちはキジマたちに悟られないよう、通常通りシジョー支部で講習を受ける。

一方で、重要な施設には秘密裏に戦闘兼消火用カラクリが計50体ほど配備された。


イシン・パトリオットによる襲撃のアラートが鳴る。

「来たわね」

「3ヵ所です」

「分けるわ」


第1部隊、サイトー・ジェシー隊長、ナガクラ・ヘーハチの2名。

第2部隊、ヒジカタ・トシエ副隊長、ヤマナミ・ケーコ、サガラ・シノの3名。

第3部隊、ヲキタ・ソウコ、カツラ・コジローの2名。


原則3名以上の編成を取るシンセングミで、2人ペアは珍しい。

ヲキタさんを始末する絶好の機会ではある。

しかしこの戦いでヲキタさんが死ねば、僕の責任が問われるだろう。

それは避けなければならない。

それに、コンドー隊長の死からまだ半年も経っていない。

立て続けに隊員が死亡しては、シンセングミ側に何か予期せぬ動きがあるかもしれない。


「行きましょう、カツラさん」

僕の思惑を知らないヲキタさんは言う。

僕にたち2人の担当はキタオージだ。

キジマはニジョー・キャッスルに出るはず。

さっさとキタオージを片付けて、殺さなくてはならない。


僕たちはシジョー支部から車で向かう。

もうすぐキタオージに着くというとき、ヲキタさんは思い出したように僕に話かけてきた。

「そういえば、カツラさん」

「はい」

「イケダ・ホテルでのことですけど」

「ええ」

「あのとき私は、ホテル外からパトリオットを狙撃するために、窓の外からスコープで室内を監視していました」

「はい」

「そのスコープは、ヤマナミさんからもらった新型で」

「はぁ」

「ジャミング・スモークでも妨害されません。熱や音も含めて、総合的に感知するんです」

「へぇ」

「あ、見えてきました。煙が上がっています」


見ると、キタオージのショッピングセンターから煙が出ていた。

おそらくカラクリが消火活動に当たっている。

僕たちは車を路上に停め、煙のほうへ向かう。

同時に考える。


今のは、何の話だ?

ヲキタさんには、スモークの中の動きがスコープで見えていた。

だから何だ?


スモークの中で、キヘイタイがコンドー隊長に向かった。

僕はコンドー隊長の援護に向かった、ように見せかけた。

キヘイタイに気を取られたコンドー隊長を、パトリオットの武器で僕が殺した。

直後、キヘイタイはさらにコンドー隊長を破壊し、僕も破壊した。

その後、キヘイタイが窓を破壊してホテルを出た。

何の庬。問題もない。

熱や音程度では、僕がコンドー隊長を殺したことまでは感知できないはずだ。


ではヲキタさんは、何を言おうとしたのか。

なぜ続きを言わなかったのか。

やはり始末するか。


いや当然、その情報は、本部は既に知っているだろう。

その新型スコープを提供したのは本部のはずだ。

当然、ヲキタさんにスコープを渡したヤマナミさんも知っていることになる。

知っているのに報告書に書かれていなかったことになる。

報告書に書くほどのことではないと判断したか、報告書には書けないほど重要だと判断したか、どちらかだ。


なぜ報告書に書かれていない?

ヲキタさんは、なぜそれを僕に話した?


「くっ!」


考え事をしていたせいで、僕はパトリオット・マッキナの一撃を左腕に受ける。

敵は4人。

2人は僕。

1人は近接武器、1人は遠距離狙撃。

ヲキタさんには近接2人。

相性が悪い。


ガキィ!

レーザーソードで近接を弾き飛ばす。


僕はヲキタさんのほうに向かう。

ヲキタさんも、レーザーソードで対応している。

僕はそのままの勢いで1人に斬りかかる。

ヲキタさんは退避。

ツバメ返し。


ザシュゥ!


敵の右腕を斬り落とす。

撃破失敗。

くそ、まださっきのことを考えている。

敵はこの場にもう1人。

さらに、さっき僕が弾き飛ばした1体も向かってくる。

3対1。

回避。


ガァン!


遠距離からの銃撃。

なるほど、銃撃で僕の位置を移動させれば、それにより近接3人の動きも流動的になる。

するとヲキタさんの狙撃精度も下がる、というわけだ。

まずは遠距離から倒すか。

そう思ったとき。


「すみません、カツラさん」

ヲキタさんはそう言って、こちらにライフルを向ける。


ドシュゥ!

弾丸は僕たちの足元に命中。

煙が吹き出す。

さらに電波障害。

ジャミング・スモークだ。

なんだと?

僕はヲキタさんからの狙撃に備える。


ガァン! ガァン! ガァン!

3発。

見える。

僕の目もジャミング・スモーク対応だからだ。


ドォン! ドォン! ドォン!


僕の周囲にいた3人のマッキナが倒れる。

僕はスモークから飛び出ると、残り1人の遠距離マッキナにスロウナイフを投げつける。

命中。

0.7秒で爆発。

撃破。


「ヒヤッとしましたよ」

僕はヲキタさんに言う。

「すみません、話が途中で終わってて。ライフルでのジャミング・スモーク弾です。新型スコープのおかげで、スモークの中の敵に向けて狙撃ができるんです。イケダ・ホテルの件を元にヤマナミさんが発案して、今回から配備されました」


ヒヤッとしたのは本当だ。

ライフル弾が僕に当たらないのが分からなかったら、ヲキタさんを殺すところだった。


「さぁ、他の部隊の援護に行きましょう」

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バクマツ・オブ・マッキナ 光田ヒロシ @hm-ciao

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