第2部
第14話 日光浴
ドドドドドッ
ハラダ・シノのマシンガンがとどろく。
次々とカラクリを撃破していく。
しかし。
「あ!?」
シノの背後に2体の近接型カラクリ。
僕はそれを斬る。
「助かりました、カツラ先輩!」
「シノ、攻撃している相手だけに気をとられるな。ヲキタさんはターゲッティング中も周囲の警戒を怠らない。アドバイスをもらうといい」
「はい!」
すると、ヒジカタ副隊長がやってきた。
「終了だ。帰るぞ」
「了解」
トーキョー幕府によるカラクリ・テロは頻度を増していた。
イシン・パトリオットの勢力拡大により、幕府への不信が高まっていることが背景にある。
本来は国民の精神安定を施すためだったのカラクリ・テロは、幕府の支持率を維持するための政策へと変化していた。
財政支出はどんどんと増え、その財源はカラクリ・テロ国債でまかなわれた。
「まったく、イシン・パトリオットどものテロも増えてるのに、こうもカラクリ・テロが多くちゃ残業や休日出勤だらけだよ。まあ手当で収入は増えたけど」
ヒジカタ副隊長はぼやく。
イケダ・ホテル事件以降、ヒジカタ副隊長はそれまでの素手での格闘から、コンドー隊長の遺品でもあるレーザーランスを用いた戦闘スタイルに変えていた。
コンドー隊長の遺志を継ぐ決意、イシン・パトリオットへの復讐心、自らの力不足への怒り、おそらくどれも正解だろう。
「そういえば、こないだシンセングミはブラックだってネットに書かれてました」
シノが言う。
「そりゃあ、国家公務員とはいえ、これじゃいくら求人出しても来ないよな。元々は模擬戦闘するだけだったのが、命を落とすかもしれない実戦に駆り出されるとあっちゃあ」
「シノが受かるくらいだから、よっぽど人材不足なんですね」
「ちょっとカツラ先輩、それはひどいです」
「そういえば、ハラダはどうしてシンセングミを志望したんだ?」
「私、サイトー隊長に憧れてて。サイトー隊長が出る配信はいつもリアルタイムで見てました」
「僕じゃないんだ」
「ツバメ返しって、ちょっとウケを狙い過ぎてて好きじゃなかったです」
「あそう。次から助けるのやめようかな」
「ええ!?」
「もっと映えるように、カツラに新型ツバメ返しを提案したのは私なんだけど」
「うひゃあ!?」
僕たちはシジョー支部に戻ると、タイムカードを押して家路に向かう。
このタイムカードというやつは、いつまで経ってもオンラインにはならない。
物理的に出勤や退勤をしたかを確かめるもっとも合理的な方法として残っている。
もちろん生体認証だが。
すると、サノが僕に話かけてきた。
「カツラ先輩。今日、一緒に日光浴に行きません?」
「ん? どうしたの? 突然」
「ちょっと相談したいことあって」
「別にいいけど。じゃか鴨川でも行く?」
「ありがとうございます!」
僕たちは、シジョー大橋近くの鴨川のほとりに腰かけて日光を浴びる。
体組織にある透明葉緑体が光合成でエネルギー生成する感覚が心地いい。
同じように日光浴をしているカップルがたくさんいる。
もちろん同性、異性さまざまだ。
それぞれのカップル・ペアが少しずつ隣のペアと距離を取った結果、等間隔にペアがずらりと並んでいる。
この光景は、シジョー大橋の名物とされている。
「それで? 相談って?」
「私、やっぱりシンセングミに向いてないのかなぁって」
「そうかもね」
「ええ!?」
「なに?」
「もうちょっと、そんなことないよ、とかあるんじゃないですか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「それ、相談に乗ってるっていいます?」
「相談するときにはたいてい、既に気持ちは決まってるもんだよ。背中を押して欲しいだけだろ?」
「そういうことです」
「じゃあ押そう。実戦が怖いなら、やめたほうがいい」
「やっぱり?」
「イシン・パトリオットの性能はカラクリの比じゃない」
「そうですよね」
「サイトー隊長は何て?」
「え?」
「相談したんだろ?」
「知ってたんですか?」
「知らない。想像で言っただけ」
「やめたほうがいいって」
「だろ?」
「サイトー隊長に言われてショックだったんですよね」
「あの人は、誰にでもそう言うと思うよ」
「そうなんですか?」
「ジェシーさん、いや、サイトー隊長は誰よりも強いから、誰よりも弱さを怖がっている。コンドー隊長が死んだのはコンドー隊長の弱さ、そして死なせてしまったのは自分の弱さだと思ってる、たぶん。だから隊長を引き受けた。この意味ではヒジカタ副隊長より深刻かな」
「カツラ先輩は?」
「ん?」
「カツラ先輩もイケダ・ホテルにいたんですよね?」
「うん。スモークの中にいるコンドー隊長の援護に行った。でも、辿りつく前にキヘイタイにやられた。悔しがる資格もないね」
「無事で良かったですね」
「え?」
「コンドーさんを倒すような敵が近くにいたのに、無事で」
「まぁ、そうかな」
「スッキリしました。ありがとうございます」
「じゃあ、また明日」
「はい!」
こうして、僕はシノと別れた。
陽は沈みかけていた。
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